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青空と海と大地 ーそらとうみとだいちー  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第4章 新たなる挑戦

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028 理不尽な世界

 


 自分の中で、何かが変わろうとしている。

 その事実に戸惑い、海は首を振った。


「とにかく……私はまだ死なない。矛盾だらけだって分かってる。でも私は、この偶然の出会いを大切にしたい。例えそれが、人生最後に見てる夢だとしても」


「……そうか」


「だから大地、聞かせてくれる?」


「ああ、構わない。じゃあ風呂に入ってから話すか」


「うん」


 海の中で、様々な葛藤が(うごめ)いているのが分かる。しかしそれは、決して悪いことではないんだと大地は思った。

 こうやって人と出会い、人の人生に触れて。

 絶望が希望に変わっていくのも悪くない。

 お前ならまだやり直せる。

 その一助になると言うなら、もうしばらく付き合ってやるよ。そう思った。





青空姉(そらねえ)の高校卒業と同時に、俺たちは施設を出た」


「その頃の大地って、まだ中学生よね」


「ああ、中二だった。だから働くことも出来ない。青空姉(そらねえ)はそんな俺を引き取って、面倒をみてくれた。

 と言っても青空姉(そらねえ)、あの見てくれだ。正規で雇ってくれるところはなかった。だから色んなバイトを掛け持ちして、生きる為の金を生み出してくれた。そんな青空姉(そらねえ)の力になりたくて、俺は青空姉(そらねえ)名義でよく内職をやってた。あと家事と」


「……」


青空姉(そらねえ)の作った料理は、正に殺人兵器だった。あれなら食材をそのまま食べた方がマシだった。とにかくなんだ、命の危険を感じた俺は、必死になって料理を覚えた」


「なんか……ふふっ、想像したら笑っちゃうね」


「笑いごとじゃねえよ。ああ、俺はもうすぐ死ぬんだな。でもまあ、青空姉(そらねえ)に殺されるなら悪くないか、そこまで覚悟を決めたんだからな」


「……どんな料理だったのか、見てみたい気はするけど」


「見るだけなら問題ない。でも、決して口に入れてはいけない」


「ふふっ」


 命の危機を語っているのに。大地の表情から、その時の食卓は幸せに満ちていたんだろうな、そう感じた。

 両親の暴力に耐え、施設で身を寄せ合って育った二人にとって、ようやく訪れた穏やかな日常。きっとそれは、私の想像以上に温かいものだったんだろうなと思った。


「高校に入ってからは俺もバイトを始めた。俺はまあ、青空姉(そらねえ)と違って普通の見てくれだからな、働き口を探すのに苦労しなかった」


「どんな仕事をしてたの?」


「肉体労働がメインだったな」


「そうなんだ。大地のがっしりした体って、働きながら出来たものなんだね」


「正規になってからは、収入もそれなりになったと思う。青空姉(そらねえ)を養えるぐらいには稼いだ」


「どういうこと?」


青空姉(そらねえ)、一時期性格がひん曲がってたんだ」


「……」


「どこで働いてもうまくいかない。見てくれは華奢(きゃしゃ)だし、幼く見えたからな、同僚たちから軽んじられてた。それにあの眼帯だろ? アニメや漫画だと個性になるけど、実際つけてるやつと出くわしたら、違和感を感じるやつも結構いるんだ。で、たまにふざけてそれを取ろうとするやつがいた。『キャラづけなんて、痛すぎるだろ』とか言って」


「そんな人……いるんだね」


「で、取ってみたら大きな傷跡が出て来る訳だ。それを見てみんな、ドン引きしてたらしい」


「酷い……」


「そういうことを繰り返していく内に、青空姉(そらねえ)の心はすり減っていった。流石の楽観主義も病んでいった。その頃じゃないかな、酒と煙草を覚えたのも」


「……」


「何をやっても報われないし、誰も自分を認めてくれない。この体だって、この右目だって。好きでこうなった訳じゃない。それなのにどうして、こんな息苦しい思いをしなくちゃいけないんだって」


青空(そら)さんにそんな時期が……」


「そして俺が働けるようになって、青空姉(そらねえ)の中で張りつめていた糸が切れた。自分が頑張らなくても、我慢しなくても。これで何とか生活出来る。そう思ったらもう駄目だった。青空姉(そらねえ)、人と会うのが怖くなっていったんだ」


「……」


「ずっと無理してたのは分かってた。だから責めなかったし、働いてほしいとも言わなかった。言えなかった。

 これまで俺の為、ずっと我慢して頑張ってきたんだ。だからこれからは、俺が青空姉(そらねえ)を支えるって。でも青空姉(そらねえ)、俺がそんな風に考えてることが辛かったみたいだ」


「そうなんだ……」


「認めてくれない世界を憎んで、無力な自分を呪った。それが怒りに変わっていくのに、そう時間はかからなかった。

 そしてその怒りの矛先は、一時期俺にも向けられた」


「大地に?」


「自分と違って、弟は体もがっしりしている。年相応にも見える。働き口に困ってないし、自分よりも稼いでくる。不公平だ、理不尽だ、そう泣きながら言われたことがあった」


「……」


青空姉(そらねえ)、夜になるとよく外に出てた。別に何かしてたって訳じゃないぞ。ただ暗くなった世界が好きなんだって言ってた。でもそこで、ひとつ問題が起きた」


「問題?」


「補導。警察の厄介になることが増えたんだ」


「補導って、その時の青空(そら)さん、立派な成人でしょ?」


「あの見てくれだ。分かるだろ」


 そう言われて、先日青空(そら)が居酒屋で言ってたことを思い出した。


『未成年が酒を飲んで煙草を吸ってる。この容姿だと、色々面倒なのよ。だから私がここに来ると、店の人は個室に通してくれるんだ』


「……」


「で、事あるごとに警察から俺に電話がかかってきた。その度に迎えに行った」


青空(そら)さん、身分を証明するものとか持ってなかったの?」


「嫌がってたんだ、それを持つのを。他の人間は必要ないのに、どうして自分だけがそんな手間をかけないといけないんだって」


「言いたいことは分かるけど……それだと大地、大変だったでしょ」


「ああ、正直大変だった。そのことで喧嘩もした。いちいちムキにならなくてもいいじゃないか、黙って見せて誤解を解けって」


「免許証は……持ってないよね」


「あの目だからな。だからマイカードを作ったんだけど、青空姉(そらねえ)、意固地になって携帯しなかった。

 そんなある時。青空姉(そらねえ)浩正(ひろまさ)さんと出会ったんだ」




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