↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月夜夢の異世界相談室  作者: コラソン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/8

第五話 手掛かりは意外


 魔王城。

「召喚は成功した。なのに、勇者がいないとはどういうことだ!」


「召喚陣は正常に作動しております。ただ、転移先を示す魔力の流れが途中で途切れているのです」


「途切れた?」


「はい。召喚が失敗したのではなく、こちらが把握できていない場所へ移動した可能性もございます」


 魔王は眉間にしわを寄せた。「可能性では困る。勇者の行方を突き止めろ!」


「承知いたしました」


 側近が一礼する。魔王は召喚陣を見下ろした。勇者を呼び出すことには成功した。だが、肝心の勇者がいない。いったい、どこへ行ってしまったのか。


     


 カフェ月夜夢では、


「勇者がいない? んー、それはもうわかってるけど?」

 蓮華は、律の説明に首をかしげた。


「召喚されたはずの勇者が、まだ見つからないんだよ」と律が答える。


「魔王側は、召喚に成功したと考えているらしい。ただ、勇者の居場所がわからないんだ」

沖田が補足した。


「ちょっと待って。魔王側って、向こうの世界のことだよね? じゃあ、私たちの世界は?」


「向こうから見れば、こっちも異世界だろうね」


 律がさらりと言う。蓮華は目をぱちぱちさせた。


「そっか。こっちから見たら向こうが異世界だけど、向こうから見たら、こっちが異世界なんだ……。なんか、ややこしいね」


「自分の世界が普通だと思ってるからじゃない?」


「それを言われると、そうかも」


 蓮華は腕を組んで考えた。勇者が召喚されたはずなのに、行方がわからない。魔王側が困っているのはわかった。けれど、手掛かりがなければ、こちらだって何もできない。


「ねえ、勇者がどこにいるのか、調べる方法はないのかな?」


「それがわかれば苦労しないよ。でも、手掛かりが見つかれば話は別だ」


 沖田の言葉に、蓮華の顔がぱっと明るくなった。

「だったら、エイトに聞いてみよう!」


「エイト君か。確かに、あの子なら何か気づくかもしれないね」


 律もうなずいた。

永倉エイト。試衛館書店のオーナーの孫で、蓮華の同級生だ。

歴史や考古学に詳しく、古い記録や遺物の話になると、同年代とは思えないほどの知識を披露する。


「でも、異世界の召喚に歴史や考古学が役立つのか?」沖田が尋ねる。


「わからないよ。でも、わからないから聞くんでしょ? 昔の記録に似たような話が残ってるかもしれないし!」


 蓮華は勢いよく立ち上がった。「それに、エイトに会えるし!」


「……そっちが本音?」


「両方、本音!」


 沖田が呆れた顔をする一方、律は楽しそうに笑った。


「そこまで好きなら、いっそ告白したら?」


「こ、告白はまだ早いよ!」


「調査に行くんじゃなかったの?」


「行くよ! 調査もするし、エイトにも会うの!」


 蓮華は真っ赤になりながら、店を飛び出していった。


     


 試衛館書店。


「エイトー!」


「声でかっ!」

 店の奥から顔を出したエイトが、思わず耳を押さえた。

「何だよ、蓮華。また何かあったのか?」


「うん。ちょっと聞きたいことがあって!」


「その言い方、絶対ちょっとじゃないだろ」

 エイトは苦笑しながら、カウンターから出てきた。


蓮華はさっそく本題に入る。

「勇者が召喚されたはずなのに、見つからないんだって!」


「……どこからの情報だよ」


「異世界!」


「情報源が壮大すぎるだろ!」

 エイトは笑ったが、蓮華が真剣なのを見ると、すぐに表情を改めた。


「で、召喚された場所には何か残ってないのか?」


「それが、まだわからないみたい」


「なら、まずは召喚の痕跡を調べる必要があるな。歴史的な記録でも、遺跡の調査でも、何かが起きたあとには、何らかの痕跡が残ることがある。もちろん、異世界の魔法が同じとは限らないけど」


「やっぱりエイトに聞いてよかった!」


「まだ何もわかってないって。場所も、召喚の方法もわからないんじゃ、推測にも限界がある」


 エイトは少し考え込んだ。


「ただ、召喚した側が成功したと判断してるんだよな? だったら、完全な失敗とは限らない。召喚された人が別の場所に転移したのか、それとも何かだけがこっちに届いたのか。そこを切り分ける必要がある」


 蓮華は目を輝かせた。


「何かだけが届く……?」


「可能性の話だよ。証拠がないうちは決めつけられない」


「そっか。じゃあ、何か見つかったら、エイトに知らせるね!」


「頼むよ。実際の痕跡があれば、そこから考えられることもあるから」


「うん! ありがとう!」

 蓮華は満面の笑みを浮かべた。エイトはその顔を見て、少しだけ目をそらした。


「……お、おう。何かわかったら連絡してくれ」


「絶対だよ!」

 蓮華は弾む足取りで店を出た。エイトはその後ろ姿を見送り、小さく息をつく。


「……ほんと、忙しいやつ」

 そう言いながらも、その口元には笑みが浮かんでいた。


     

 魔王城。相変わらず話が平行線。


だが。


 召喚陣の調査を続けていた側近が、床の隅に何かを見つけた。


「魔王様。こちらに奇妙な物が」


「今度は何だ?」


 側近が拾い上げたのは、片方だけの靴下だった。


 魔王は無言でそれを見つめる。


「……靴下?」


「はい」


「勇者ではなく?」


「靴下でございます」


 沈黙が落ちた。


「なぜだ!」


「私にもわかりかねます」


 魔王は靴下をひったくるように受け取った。よく見れば、布にはかすかな魔力が残っている。あと、ちょっと臭い。


もう1度くんくんする。

「臭ぁぁあー!!おのれ…異臭で罠を…」

魔王は、真剣だったが、


「これは……罠ではないかと思われます。

異臭で何かするなら、もっと強烈な臭いを

発生させると、想定します。」


 「それにしても、臭いな。」

魔王は、まだこだわっていたが、


側近が話を続ける。


「転移魔法の残滓と思われます。召喚の際に生じたものか、あるいは別の転移に関係するものかは、まだわかりません」


「つまり、勇者の手掛かりかもしれないということか?」


「はい。少なくとも、召喚陣に無関係な物とは言い切れません」


 魔王は靴下を見つめた。勇者は来なかった。だが、臭い物は届いた。そして、その何かには転移魔法の痕跡がある。


「この靴下を徹底的に調べろ!」


「承知いたしました」


 側近が靴下を持って下がろうとした、そのとき。


「待て」


 魔王が呼び止めた。


「……その布、こちらの世界のものではないな?」


 側近は、はっと顔を上げた。


 確かに、見慣れない織り方だった。


 魔王は召喚陣を見下ろした。


 勇者はどこへ行ったのか。なぜ靴下だけが届いたのか。そして、この布はどこの世界で作られたものなのか。


 そして、この靴下は転送途中の

うっかりが、招いたものだった。


3足1000円の靴下が、まさか

物語を動かす物になるとは。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。