第四話 異世界担当者、アルバイト中?
魔王の秘書が帰ったあと。
蓮華は腕を組んで考えた。
勇者を召喚する担当者がわからない。
召喚の仕組みもわからない。
「つまり、異世界のことを知ってる人を探せばいいんだよね!探そう!」
「その人がどこにいるかもわからないけどね」
律はコーヒーを飲みながら、さらりと言った。
「律!ちょっとぉ! 出発前に希望をつぶすな!」
「まだ出発もしてないでしょ」
「そうだった!」
蓮華は勢いよく立ち上がった。
「よし! 本屋に行こう!」
「……なんで?」
「異世界のことなら、異世界小説をたくさん置いてる本屋でしょ!」
「それは、ちょっと違うと思うけど
いや、だいぶ違うよね…」
律の声は、蓮華には届かなかった。
*
本屋に到着した蓮華は、いつものように異世界小説の棚を物色していた。
あぁ、癒される。
転生、召喚、チート能力、魔王討伐。
うん。山ほど夢がある。
「ねえ、異世界ってどうやったら行けるの?」
レジにいた店員に、蓮華は唐突に尋ねた。
「……また、その話ですか」
店員は困った顔をした。
「またってことは、前にも話したよね?」
「ええ。何度も」
レジカウンターに身を乗り出した蓮華は、
「じゃあ、もう話が早い! 私、異世界に行きたいんだけど!」
「それは存じています」
「サスガ!話が通じる人って、素晴らしい!」
蓮華は感動した。
店員は、ため息をついた。
「私は本屋のアルバイトです。異世界への渡航を案内する仕事ではありません」
「でも、関係者なんでしょ?」
店員の動きが止まった。
「……どうして、それを?」
「えっ!? 当たりなの!?うわ!キター!!」
蓮華の目が輝いた。
「すごい! 異世界の中の人じゃん!」
「私は本屋の店員です」
「兼業でしょ?」
「違います」
即答だった。
彼は、異世界召喚に関わる業務を手伝っていた。
ただし、決定権はない。
人手不足で手伝うことになっただけで、召喚の実行や勇者の選定を決められる立場ではなかった。
「じゃあ、勇者が来なかった理由もわからないの?」
「わかりません」
「召喚する人も?」
「知りません」
「異世界の入り口は?」
「私には案内できません」
「……異世界、思ったより不便だな」
「こちらも困っています」
店員は至って真面目だった。
蓮華は、その顔をじっと見つめた。
「でもさ。わからないなら、調べればいいんじゃない?どう?」
「私にできることには限りがあります」
「できることだけでいいじゃない!お願いします。仲間になったら、イケメン紹介するから」
店員は黙った。
蓮華は、魔王の秘書の疲れた顔を思い出していた。
魔王のために何とかしたいのに、手がかりがない。
この店員も、できることが限られているからといって、仕事を放り出すつもりはないらしい。
「……わかりました。私にできる範囲で、確認してみます」
「よし! 決まり!」
蓮華は満面の笑みを浮かべた。
「勘違いしないでくださいね。決して
俺はイケメン目当てではないんで。」
「ところで、お名前は?」
「今さらですか?」
「大事なことじゃない!」
店員は、もう一度ため息をついた。
「沖田秀です。」
月夜夢に戻った蓮華は、律に報告した。
「異世界の担当者、見つけた!」
「よかったね」
「でも、何も決められないんだって!」
「そうなんだ」
「律! もうちょっと驚いてよ!」
律はカップを置いた。
「蓮華が異世界に行けないことに比べたら、驚くほどでもないかな」
「律ぅぅぅ!!」
今日も、律は容赦がない。
蓮華は悔しそうに頬を膨らませた。
「こうなったら! 絶対に異世界の秘密を暴いてやる!あ、律に紹介したいイケメンがいる。」
「ほどほどにね。あと、イケメンは僕
要求してないからね。」
「律も協力してよ!あと、イケメンはなかなかスパダリ感があってね、律と並んだらもう、
眼福~。」
律は苦笑しながら、
「僕はここで仕事があるから」
「じゃあ、異世界から帰ってきたら、報告するね!」
「帰ってこられるならね。しかも行けないでしょ。いいかげんバリスタの勉強してよ、蓮華。」
「律ぅぅぅ!!」
月夜夢の午後は、今日も騒がしかった。
ただし。
このとき、蓮華はまだ知らなかった。
勇者召喚は、予定上ではすでに完了している。
それなのに、魔王のもとには勇者が現れていない。
召喚は成功したのか。
それとも、勇者は別の場所にいるのか。
異世界の謎は、まだ始まったばかりだった。




