第三話 異世界の人員不足?
秘書柳原の言葉に、蓮華は目を丸くした。
「ちょっと待って。コラコラコラ秘書さんよ、
召喚する人もわからないの?」
「はい……」
「じゃあ、誰が勇者を呼ぶ予定だったのよ?」
「それが、わからないんです」
蓮華は腕を組んだ。
「異世界って、ずいぶん適当なのね
私が行けば議題にすぐぶち上げちゃうわ。」
「蓮華。こっちの世界も、似たようなものだよ」
律がコーヒーカップを片づけながら言った。
「ちょっと!人の夢を潰すの禁止!!」
「夢?」
「異世界に行く夢!それから律に彼氏ができる夢よな!!」
「まだ諦めてなかったんだ。」
「当たり前でしょ!でも律次第で…彼氏は
いけるくない?」
蓮華は胸を張った。
「私は異世界に行くために、日々努力しているんだから!そして、律におすすめの男子を日々探していますから!」
「具体的には?」
「……異世界ものを読む。あと、律にぴったりのイケメンはこの辺で探す。」
「努力の方向性が自由だし、適当だね」
律は、いつもの涼しい顔で答えた。
秘書は二人のやり取りを見つめていた。
魔王城では、誰もこんな話し方をしない。
いや、そもそも魔王城での会話は、もっと緊張感がある。
魔王は勇者との決闘を楽しみにしている。
その期待を裏切りたくない。
魔王は、
本気で自分と戦う勇者と遊びたい。
魔王が絶対政権の中で、
秘書だけが
魔王にのしかかる重圧と、孤独を知っている
魔王一族のもとに生まれた小さなドラゴンが、やがて魔王になった。
卵から出てきた時には、可愛くてしかたなかったが、秘書には懸念もあった。
いずれ魔王となる。これは魔界の掟。
魔王にとって、勇者との決闘は唯一の楽しみだった。
肝心の勇者は現れず、召喚の担当者さえわからない。
「……私は、魔王様のお力になりたいんです」
ぽつりと漏らした言葉に、蓮華が顔を上げた。
「そっか。」
いつもの調子とは違う声だった。
「じゃあ、探そうよ! ね? 手段がないなら
ないなりに!! いいじゃない。秘書さん頑張って
ここまで来たんだからさ!」
「え?」
「勇者が来なかった理由も、召喚する人も。わからないなら、わかるまで調べればいいじゃない」
蓮華は勢いよく立ち上がった。
「よし! まずは異世界に行って――」
「しつこいなぁ。蓮華は行けないよ。入り口行っても弾かれちゃうよ。」
「律ぅぅぅ!それをゆーなよっ!!」
月夜夢の午後は、今日も平和だった。
少なくとも、今のところは。




