3-03 異世界に行ってみたい!って思ってたけどコレじゃない
ワクワク冒険ファンタジーな世界で、冒険者になってダンジョン攻略!
それとも俺つえーな魔法で、ハーレムや逆ハーレム?
乙女ゲーな世界で高貴なイケメンと、恋愛ドキドキ溺愛ファンタジー!
もしくは悪役令嬢転生で、逆転ざまぁを目指しちゃう?
スローライフでモフモフ飯テロ旅も捨て難い!
いやー妄想捗っちゃいますよねー!
私もそうだったんですよ!
あの時までは。
※ジャンル:ホラー です。
いつもの電車の案内ベルが鳴る。
アナウンスの傍ら、スマホをマナーモードにしたか、もう一度確認した。
列の前から二番目。入ってくる電車内の混雑具合によるけど、座れるかもしれない。ちょっとだけ、今日は足がクタクタ。
入ってきた電車。扉前に立っている人が見える。空いている席も見える。
ラッキー。今日は座れるぞ。
できるだけ端の、どちらかに凭れられる席に座って、ふぅ、と息を吐いた。最寄りの駅まで二十分。足は充分回復するだろう。
スマホでいつもの小説サイトを開いた。ランキングをなぞって新規の短編を探す。似たような感じの、だけどちょっと違う話を読んでいく。程よい軽めのカタルシスを得て次へ。二篇読めば丁度いい。
私は異世界ファンタジーが好き。
それも流行りと言われるようなものに、ついつい惹かれる。RPGゲームのような世界で冒険者になって活躍したりとか、モンスターに転生しちゃっただとか、すっごい美少女になったと思ったら悪役令嬢でしたとか、もう、ものすっごく沢山読んだ!
もし自分が異世界に転生しちゃったら〜、とかも時々妄想しちゃったり。こういうの読んでる人って、誰でも一度はしてるよね。私だったらどうするだろう。サバイバルは、ちょっとカンベン。
最寄りの駅に着いた。
トートバッグ。スマホ。忘れ物はないね。
降りて改札へ。今日は、最寄り駅と似た名前の、別路線の駅へ行く。友だちの家に泊まるのだ。
改札を出て、あれ? と思った。
他に改札を出る人がいなかった。いつもは十人足らずの人が同じように改札を抜けるのに。
振り返って、人気のない駅の構内を見る。
誰もいない。駅員さんの姿も見えない。いや、いつも駅員さんの姿なんて滅多にないけど。でも、ここまで人気のないこの駅なんて知らない。
何か、うす気味が悪い気がしてきた。
足早に目的の駅の方へ。
トートバッグの持ち手を、左手で肩にかけ直す。
スマホ。通じる。マナーモードを解除した。ポケットに入れず手持ちで移動する。
いつもの自分の家へ行くほうの角を通り過ぎて、目的の駅の方へ。次の次の角を左。
なんだかドキドキする。知ってる道のはずなのに。
一つ目の角。次の角だ。次、次。
知ってる道のはずなのに、なんだか初めて来た道のようにドキドキする。どうしてだろう。
次の角。曲がる。左。
え。
その景色は、知らない場所だった。
えー、駅から三つ目の角。うん、間違いなく、三つ目の角だったよね? あれ?
両脇には白い建物。古いマンションのようで、十階よりは高く見えた。左右どちらも似た形の建物が、ずっと続いている。こんなところ知らない。
知らない、で気がついた。私、駅から降りて、人に出会っていない。
すごく沢山人が通るところではないけど、それなりに人通りはある町なのだ。なのに、すれ違う人も先を行く人もいなかった。あれ?
白い建物。両脇にそびえ立つように並ぶ同じ景色。
一度、戻る? 足を引き戻した。
振り返って、スッと汗が引いた。
白い建物。両脇にそびえ立つように並ぶ同じ景色。
同じ、景色。
前を向いても、後ろを見ても、同じ白い建物が両脇にそびえ立つように並ぶ景色が広がっていた。
「どういう、こと」
自分の声が自分じゃないみたいだった。
薄い膜の向こうで聞いてるみたいだった。
心臓の音がやけにうるさい。
誰かに聞かれてるわけはないのに、誰かから隠さなきゃいけない気になっている。
足を、進めた。
怯えるように、足は進んだ。
駅。駅に行かなきゃ。
白い建物が両脇にそびえ立つように並ぶ景色。
ずっとずっと続いてる。
進んでいるのに、戻っているようだった。
ずっと、ずーっと続いている。
白い景色。
駅。駅へ。
カシャン。
手汗でスマホを落とした。慌てて拾いに戻る。良かった、傷はついてない。スマホ。
「あ、電話……」
スマホはメールとかメッセージばかりで忘れてた。電話をかければいい。それでヒトの声が聞ける。
私は安心が欲しかった。誰か他人の声が聞きたかった。自分の声が他人に聞こえるようなのはもう嫌だった。
確かに自分なのだと知りたかった。
スマホの画面。ロックを解除する。通じる。泊まりに行く友だちにかける。
一度、二度、三度……。
『……もしもし?』
「さぁや?」
『あー、どした?』
友だちだ。さぁやの声だ。すごくホッとした。
「ごめん、迷っちゃって……遅れそう」
『あー、そうなんだ。電話なんて珍しいから何事かと思ったよ』
「うん、うん……ごめんね。迷うなんて滅多にないから、ちょっと心細くなっちゃって」
『あはは、そっかー。大丈夫だよ、ゆっくり待ってるから』
「うん、ごめんね。すぐ行くから」
『気にしないで。気をつけてきてね』
電話を切って、スマホを抱きしめた。
私は私だ。なんか変な状況になってるけど、電話は通じる。変なところになんて来ていない。
足を進める。
白い建物が両脇にそびえ立つように並ぶ景色。
ずっとずっと続いているように見えた景色は、棟を三つ数えたところで途切れた。金網の向こうに住宅街。
良かった。無限に続いているように感じていたのは錯覚だった。
私は住宅街に足を踏み入れた。
よくあるような住宅街は、またここも人気がなかった。似たような、でも一つ一つ違う家屋が軒を連ねている。
さっきまでの真っ白な建物と違って、庭に植木があったり、洗濯物の物干し台があったり、空っぽの駐車場があったりする。
それだけでも少し、安心した。
よく知っているようで覚えがない景色の中を、勘を頼りに歩いていく。どこかで、大きめの通りに出るはずだ。そうすれば駅の方向だってわかるはず。
そう信じて歩を進めた。
スマホを見る。
駅を出てから四十五分が経っていた。こんなに歩き続けたのはいつぶりだろう。中学校の遠足だって、休憩と飲み物があった。
スマホを見る。
さっきから一分しか経ってない。スマホを胸に抱きしめる。心細い。まだ、道には出ないのか。
スマホを見る。
感覚より進まない時間と景色にじりじりする。
まだ、駅にはつかない。心細い。
と。
「あ」
案内板がある。古ぼけた案内板。文字がかすれている。
けれども最後が「駅」で、その下に矢印が伸びているのはわかった。
「……駅。駅!」
矢印の方向に曲がる。良かった、駅に着く。
そしたら電車に乗って、友だちの家に行ける。
良かった。もうこの心細いのも終わりだ。
足早に駆け抜ける。
四十五分の疲れも吹っ飛ぶ。
もう終わり、もう終わりだ。この心細さともさよならだ。
矢印の先の、藪の中を進む小道にも疑問を持たず。古びた電灯が立っているのも気にせず通り過ぎ。
私は、見覚えのない無人駅に到着した。
「……」
古びたような、コンクリート製の無人駅。林の中に佇むような、その駅。
もちろん目的の駅はこんなじゃない。
ヨロヨロと、構内を覗き込むように見た。
入口の駅名を掲げただろう看板は、古ぼけていて読めなかった。
せめて、知ってる駅名だったらいいんだけど。
その思いはとてもひん曲がった形で叶えられた。
駅の構内で見たこの駅の名前は『■■ら■駅』。
――都市伝説で有名な駅の名前。
全身の血の気が一気に引いた。立っていられなくて、その場に崩れ落ちた。
確かに地面についたはずの膝からは、砂利の感覚はしても、痛みがちっとも来なかった。





