3-02 第28回書き出し祭り参加作品、魔王と美人
お前の国で一番の美人をひとり所望する。
さすれば、我はその国の真摯な対応に感銘し、今後、我が魔王軍はお前の国には一切手を出さない。
それは、魔王として、また我が真名にかけて誓う、絶対の約束である。
第百三十三代魔王 くぇrちゅいおぱsdfghjklzxcvbんm。
***
人間の力なぞ我が魔王の前では無力である、そんな圧倒的な力の差を見せつけるかのように、魔王からの書簡が、最強の兵士団と聖女に守られた絶対不可侵であるはずの玉座の間に届く。
国王と宰相が、その対応に苦慮している間に『美女は魔王に貢物にされる』という噂が王国内に広まってしまう。
王族から庶民まで、全ての女性は自分なりの『美人じゃない』方法を考えだして、あっという間に、王国から美女がいなくなるのだった。
お前の国で一番の美人をひとり所望する。
さすれば、我はその国の真摯な対応に感銘し、今後、我が魔王軍はお前の国には一切手を出さない。
それは、魔王として、また我が真名にかけて誓う、絶対の約束である。
第百三十三代魔王 くぇrちゅいおぱsdfghjklzxcvbんm。
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近隣諸国の中でも最強とうたわれているルーブリッヒ王国騎士団。その中でも、剣術と魔力共に最高の能力を持った限られた者にしか入団を許されない、王家を護衛するための最強の騎士たちの集まり。それが、王国近衛師団だ。
そんな王国近衛師団による警護と、聖女による結界で守られているはずの、ルーブリッヒ王国の玉座の間。
そんな、王国でもっとも安全と思われていた玉座の間に、空間の揺らぎと共に突然現れた、漆黒に染められた羊皮紙。
その羊皮紙に、血文字で書かれていた文章は、そんな内容だった。
美人を差し出せば、王国は安泰だ。
しかしそれは、王国で一番美しい人を魔王に捧げる、すなわち人身御供に出すことと同義だ。
金銀財宝や貴重な魔道具をさしだせと言われれば、王国の安寧のために、国王も拒否はしなかった。
しかし、王国の中で一番の美人を魔王軍との和平のために差し出したと、近隣諸国に知られてしまえば、この王国の評判は地に落ちる。
どの国に行っても、ルーブリッヒ王国の国民であるというだけで、自分たちの幸せのために自国で最高の美人を差し出した最低の国の人間だと、ののしられ、さげすみを受けることになる。
そう思うと、ルーブリッヒ王国の国王であるルーブリッヒ七世は、慎重にならざるを得なかった。
しかし、そんな国王の心配とは別に、『美人だと魔王の貢ぎ物になる』そんな魔王から来た書簡の内容が、たとえどんなに厳しい箝口令を引いても、噂となって漏れるのを防ぐのは不可能だった。
最初は王宮内部の限られた王族だった。
王国で一、二を争う美人である、二人の王女は、その噂を知ってしまう。
「ナターシャお姉さま、私、今まで隠してましたけど、頭頂部に十円ハゲがございましてよ。日々、王族として振る舞わないといけないプレッシャーが原因ですわ。こんなことでは、とても美人なんて言えませんわよね」
「まあ、それは大変ですわ、愛する妹のマリリン。実は、私もマリリンに黙っていたことがあるの。私、今まで化粧で誤魔化していたけど、二重じゃないの。奥二重ですわ、って社交界でははぐらかしていたけど、本当は一重なの。コレで美人なんて、おこがましいわよねぇ」
姉妹二人でお互いに、いかに自分は美人じゃないかを語りはじめる。
その理由を知らない付き人や使用人たちは、まるで誰かに伝えるかのような、王女たちの大声での会話を耳にして、ただ目を白黒させるしかなかった。
続いて、その噂は王族につらなる貴族たちに伝わる。
「グラハム侯爵さま、聞いてくださいまし。実は、わたくしどもの娘チェリーには、右下に大きな泣きぼくろがありまして。今までは、白粉を厚く塗って誤魔化していたのです。こんなことでは、美人とは言えませんわよね」
「まあ、ハインナム辺境伯さま、そうなんですのね。実は、うちの娘シャーロットも、アゴの裏に小さなホクロがありまして、そこから毛が生えているのです。でも、それを化粧で隠していたのでございますの。コレでは、とても美人とは言えませんわよね」
優雅なお茶会で突然始まる、自分の娘が実は美人じゃない発言は、理由を知らない周りの人々を、ただただ混乱におとしめていく。
やがて、その噂は、王族と貴族たちの所で働く、庶民たちへ。
そうして最後には、城下や貴族の領地ではたらく、商人たちや農民といった一般庶民たちの知るところとなってしまう。
全ての親は、周りから美人だと言われないようにするため、自分の娘には地味でみすぼらしい格好をさせる。
若い女性たちは、街角や市場に集まっても、誰が美人かしらという噂をはばかるようになる。
街の化粧品売り場は、どうすれば美しくならないか、を教える場所になった。
いままでは、美人の条件として忌むべきものとして嫌われていた、そばかすやシミを積極的に強調して、舞踏会でアピールする方法が広がっていく。
近眼の娘は、ふちの大きなレンズがガラス瓶の底のようなメガネを積極的にかける。
そうして、自分は美人ではないから魔王の貢ぎ物にはならないと、家族や婚約相手、さらには婚約先の一族を安心させるのだ。
──そうして。
ルーブリッヒ王国から、美女がいなくなった。
***
書簡が送りつけられた玉座の間に連なる国王の執務室では、二人の男が眉間にシワを寄せてうなっていた。
一人は国王ルーブリッヒ七世、そしてもう一人は名宰相として庶民から圧倒的な支持を受けているアーノルド公爵だった。
国王と宰相は、まさに崖っぷちに立たされていた。
あの魔王が、魔族にとって最も大事な、自分の真名に誓うとまで言っているのだ。
まさか、その返答が『申し訳ないが、我が王国には美女が一人もないんだ……』で済まされるわけがない。
下手をすれば、魔王を侮辱したと言う理由で王国と魔王軍との全面戦争を引き起こしてしまうだろう。
こうなったらもう、贅沢は言っていられない。
美女なら誰でもいいではないか。(いいのか?)
どんな女性でも、美女の要素の一つや二つはあるはずだ。
『たで食う虫も好き好き』と、古に栄えた東の国の言い伝えにあるだろう。
この女性が我が国の一番の美女だと言い張って、魔王の元に連れて行き、魔王がその女性を美女じゃないと言ったら、見解の相違、美意識の違いだ、と言い訳して帰ってくればいい。
そうすれば、王国としての誠意は見せたわけで、魔王も無下には出来ないであろう。
よし、その作戦で行こう。
こうして、国王と宰相の腹は決まった。
***
王国近衛師団の団長室では、重々しい面持ちの国王と宰相がソファーに腰掛けている。
彼らの前には、制服がはち切れんばかりの、筋骨隆々とした女性が立っていた。
自ら魔王の元に向かうことを決断してくれた、王国近衛師団の一人だった。
わたくし、王国近衛師団の団員が一人、重戦乙女のユリアンと申します。
女として生を受け十八年、幼き頃からの非凡な腕力を目に留めていただき、孤児院から引き取っていただいた団長の下で、剣術と武力と体力の鍛錬しか行っておらず、ほお紅や口べにを使ったことなど友人の結婚式の時にしかございません。
それが、ルーブリッヒ王国で一番の美女としての名声と共に、魔王に嫁ぐのであれば、女性としてはこれ以上の名誉はございません。
魔王の心を奪い取り、王国の末長い平和を掴み取って参ります。
そんな言葉を、死地に迎う勇敢な兵士のごとく、国王と宰相に告げると、彼女はぐっと目を閉じる。その目からは一筋のひかるモノが。
彼女の国を想う気持ちに心打たれた国王と宰相は、おもむろにソファーから立ち上がると、彼女の前にひざまずく。
こんな素晴らしい女性を犠牲にせねばならぬのか、そんな無念を感じながら。
彼女の決死の覚悟を無駄にしてはいけない。
師団長と国王、宰相は早急に段取りを進める。
彼女を魔王の元に無事に送り届けるには、強力な使節団が必要であろうということになり、使節団のリーダーは、百人切りとして名高い王国近衛士団、副団長が任命された。
彼なら、剣術と魔力操作だけでなく、魔王に対する弁もたつであろう、というのが主な理由だった。
「え、あの、百人切りで有名なダニエルをか?」
宰相が軽い驚きをあげる。
「いやいや、あの百人切りは、彼にとっては黒歴史らしいです。なにしろ、目に飛び込んできたゴミを落とそうとして、片目をパチパチと二、三回つぶったら、彼が巡回警備中の市場に居合わせた、女性百人が一斉に失神したという話ですから」
師団長は、苦虫を潰したような顔で話をまとめる。
そうして、魔王へ美女を送る準備は、つつがなく進んで行った。
***
副団長をリーダーとする王国からの使節団は、魔王の意思が行き届いていたのか、道中一度も魔族に襲われずに魔王城にある魔王の間に通された。
リーダーであるダニエルは、魔王の間に控えている多くの魔族を恐れることなく、魔王に向かって堂々と告げた。
「親愛なる魔王さま。彼女こそ、我が王国で一番の美女であります。彼女より美人な女性は、王国のどこを探しても見当たりません」
ダニエルの言葉を聞き終えてから、魔王はゆっくりと右手をユリアンに向け、一言一言を区切るように言葉を紡ぐ。
「この女性が、お前の王国で一番の『美女』であるというお前の言葉、我は信じよう。しかし、我が書簡には、なんと書いてあったのか。お前は目を通していないのか? 我は、美人を所望したのだぞ。この女性が、お前の王国で一番の『美女』であるかは関係ない。我は、王国一番の『美人』をよこせと書いたはずだが」
魔王は、王国近衛士団の副団長の整った顔を、しげしげと眺める。
そして、ニヤリと笑った。
「ここに、最高の美人がおるではないか」
魔王の目の奥には、恋の炎がメラメラと燃え上がっていた。なぜなら、魔王の先祖である堕天使サタンは、男であって女でもあるのだから。





