3-23 無能を演じていた第2王子は南国で自由気ままに暮らしたい
無能と呼ばれ、ついには犯罪まで犯した第2王子カイル。彼は王族の地位を失い、犯罪者として監獄に送られる。
だが、それは第1王子との後継者争いによる内戦を避け、憧れの自由気ままな生活を送りたいと願うカイルの策略だった。
彼は巧妙に隠していた天才魔術師としての才能を如何なく発揮し、南の島に作っておいた理想の住処へと脱出する。
そして、自分好みの2人のメイドと暮らし始めた。ところが、思わぬ事態に巻き込まれ……。
果たしてカイルは、憧れの南国楽園生活を手にする事ができるのか?
南の島を舞台に繰り広げられるハーレムファンタジー、ここに開幕です。
ヘイズフォード王国 王城地下 転移魔方陣部屋
まさに今、横領や窃盗など複数の罪で王族の地位を失った元第2王子、カイルに対する刑罰が執行されようとしていた。
「誰でもいい! 俺を助けろ! なあ、聞いてるのか!? 俺は第2王子なんだぞ!」
拘束され、転移魔方陣の上に転がされたカイルが端正な顔立ちを歪め、みっともなく喚く。長身かつ金髪碧眼で見た目だけの無能王子として有名だったが、なけなしの王族としての威厳や誇りすら感じさせない醜態をさらしている。
この場の誰もが彼を軽蔑し、犯罪者として収監される事を当然だと考えていた。当事者であるカイル自身の狙い通りに。
「これより元第2王子、カイルの監獄遺跡への収監を実行する。魔術師の諸君、転送用魔方陣に魔力を注げ」
「「「はっ!」」」
元王子の言葉は無視し、法務大臣が王家直属の精鋭魔術師たちに命じた。
「おい、やめろ! やめろって言ってるだろ!」
カイルの演技が続く中、彼を王侯貴族専用の監獄へ収監するべく移送の準備が淡々と進む。そんな時だった。
ひどく慌てた様子で体格の良い1人の青年が警備兵たちの必死の制止も振り切り、地下の部屋に乱入してくる。カイルの実の兄でもある第1王子のアルバートだ。
「中止だ! 今すぐ刑の執行を止めろ!」
「アルバート王子? 申し訳ありませんが、これは国王様がお決めになったことで……」
「責任は私が取る! だから、中止しろ!」
第1王子と法務大臣が言い争っている間にも魔方陣には魔力が注がれ続け、その輝きが極限に達したところで転移魔法が発動する。
「さすが、兄上だ。もう気付いたのか。だが、遅かったな」
アルバートの言動から何かを察したカイルが不敵な笑みを浮かべて呟く。先程までの醜態が嘘のような変わりようだが、それを気にする者は1人もいない。
「じゃあな」
これがカイルの残した最後の言葉となった。転移魔法によって彼が監獄に送られる。だが、どこか様子がおかしい。魔方陣の周りにいる魔術師たちがざわついている。
「おい、どうなってるんだ? 魔方陣が消えたぞ」
「まさか……。そんな事、ありえない」
そこにあるはずの魔方陣が跡形もなく消えていたのだ。建国以来、多くの人間を転移させてきた魔方陣だが、今回のような事態は初めてである。
しかも、この魔方陣は現代の魔法知識では原理すら分からず、再現どころか誰が設置したのかさえ不明な代物だった。
「大臣、今すぐ監獄遺跡と連絡を取れ。嫌な予感がする」
「わ、分かりました」
アルバートが法務大臣に命じる。そして、彼の予感は当たっていた。カイルは転送先である監獄には転移しておらず、その消息を掴むことはできなかった。
◆
亜熱帯地域 大海原に浮かぶ無人島
カイルが転移してきたのは、複数の無人島からなる群島の1つ。そこに建つ屋敷内の書斎みたいな部屋である。
彼は拘束された状態で誰にも気付かれないよう転移魔方陣を改変。自身の転移先を任意の場所に変更した上で、追跡防止のため発動後に自動消滅するようにしていた。
もっとも、ここまでの事が可能なのは本来の彼が規格外の天才魔術師だからだ。人格者であり、政治力にも秀でた兄との後継者争いで国が分裂するのを危惧するほどに。
そこで問題を解決しつつ、憧れの自由気ままな生活を送るには姿を消すのが最適だと考えた。探す価値もないクズとして。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
そんな彼を1人の美しいメイドが出迎える。おおよそのタイミングは事前に伝えてあったので、あらかじめ部屋で待機していたのだろう。
エルフ特有の芸術作品みたいに整った美貌に、窓から差し込む南国の陽射しを受けてキラキラと輝くプラチナブロンドの長い髪。
すらりと伸びた手足と引き締まったウエスト、それでいて女性らしさを失わない丸みを帯びた体つきと、ひと際目を引く爆乳。
さらに、魔道具の開発・製作でも天才的なカイルの作った防御結界が島全体を覆い、彼女の白くきれいな肌を日焼けから守っている。
「リゼか。出迎え、ご苦労。俺がいなかった間の報告を」
「かしこまりました。1度だけ魔物の群れが飛来しましたが、ご主人様の作った防衛装置により全滅。被害はありません。物資の生産・備蓄状況などの詳細は、こちらをご覧ください」
これだけを見ると主人への応対も含め、なにもかもが完璧だった。あまりにも奇抜で、個性的すぎるメイド服を着ている以外は。
水をはじく素材で作られた黒のビキニは彼女の豊満な身体を最低限しか隠しておらず、腰回りの白のエプロンと頭に乗せたホワイトブリムがある事でようやくメイドだと認識できるのだから。
なお、この服装は好みの女性の姿を思う存分、堪能したいという彼の意向によるものだ。自分で流した嘘の悪い噂も多いが、女遊びが趣味というのは事実だった。
「ところで、ご主人様。拘束されているという事は……」
「ああ、向こうでの用事は片付いたからな。当初の計画通り、わざと罪を犯して王子の身分を捨ててきた」
カイルは魔術を発動させ、たやすく拘束を外す。そして、リゼから差し出された報告書に目を通しながら簡単に説明する。
「淡水精製装置の稼働率が想定よりも下がってる以外は、おおむね予想通りだな。まだ許容範囲内だが、これだけは先に対処しておくか」
島内には彼の開発した多種多様な魔道具がいくつも設置され、王都以上に快適な生活を送れるようになっていた。これらの魔道具は単独で転移魔術を使えるカイルが人目を避けて何度も往復し、この日のために準備してきたものだ。
「ユウリはどうした? 仕事か?」
「いえ、少し遅れているだけです」
リゼの言葉通り、もう1人のメイドがノックもなしに扉を開けて入ってくる。
「すみません! 遅れました!」
「ユウリ、ご主人様の前ですよ。もう少し、静かになさい。それと部屋に入る際は、ノックをして許可をもらってから入るように」
「あぅ……」
リゼに注意され、ユウリがしょんぼりとうなだれる。
「リゼ、そこまでだ。ユウリも分かっているさ。だろう?」
「は、はい! 同じ失敗はしません!」
「ご主人様がおっしゃるなら」
カイルがその場をおさめた。リゼは表情を変えなかったが、ユウリは分かりやすく笑顔になって尻尾をブンブン振り回す。感情が表に出やすい性格である。
彼女は人狼族だ。魔術は使えないが高い身体能力を持ち、ケモ耳と尻尾がある以外は人族と見た目に違いはない。
リゼが美人系なら、ユウリは可愛い系。背もユウリの方が低く、体つきも柔らかそうな印象を与える。それでいてリゼに負けず劣らずの爆乳。
もちろん、彼女の服装もビキニメイド。ビキニの色が髪や尻尾と同じで、薄い青なのがリゼとの違いだった。
「もう気付いてると思うが、今日からは俺もここで暮らす。2人の仕事は増えるだろうが、よろしく頼む。以上だ」
「お任せください、ご主人様」
「お任せください、ご主人さま」
最低限の公私の区別はつけるカイルがきちんとした挨拶で締め、それに2人も姿勢を正すと頭を下げて応える。ちなみに、初日という事もあり、この日は早めに各々の業務を終えて3人での夕食会とした。
島には彼ら3人しか住んでない以上、あまり堅苦しいのも良くないので主人と使用人という立場ではなく、親しい友人同士のパーティに近かった。
ただ、女遊びが趣味とまで言われたカイルが主賓である。最後は3人で寝室に移動し、互いを激しく求めあう行為が深夜まで続いた事は想像に難くない。
翌朝
2人のメイドと存分に楽しんだカイルが淡水精製装置の設置場所へ向かうと、すぐ近くの浜辺に1人の女性が倒れていた。厳密には、人族ではないが。
「え、人魚族? 本物……、だよな?」
慎重に近付き、確認する。上半身が人間の女性で、下半身は魚。間違いなく人魚族だった。エルフ族と並び、美形の象徴とされる種族だけあって彼女も美しく、スタイル抜群である。
争いを好まない温厚な種族でもあり、人族との関係性も良好だ。幸い、大きなケガはしていないようだったので、彼は優しく抱き起して声を掛けた。
「おい、大丈夫か!? なにがあった?」
「お願い、逃げて……。我を忘れた守り神様が……、くる……」
直後に沖で巨大な水柱が上がり、半透明の球体から無数の触手の生えた巨大モンスターが出現する。
「あれか!」
「ある日、瘴気に汚染された魔物の死骸が大量に流れてきたの。それを守り神様が1度に取り込んでしまって……」
「暴走したと……」
彼女が悲しそうな顔をする。そこでカイルは、報告にあった事を思い出す。島に飛来した魔物の群れを全滅させたと。どうやら、無関係という訳でもなさそうだ。
「せっかく作ったのに、早々に壊されてたまるか」
「え?」
こっちの理由の方が大きいのかもしれない。彼は驚く彼女を他所に立ち上がると、複数の魔方陣を一瞬で展開。巨大モンスターを魔術の鎖で拘束した。
「よし、これで動きは封じ……」
ところが、巨大モンスターはあっさりと鎖を破壊して拘束を解き、その勢いで触手の一撃を叩き込んで島を守る防御結界の1つすら破壊してしまう。
「なるほど。神様ってのは伊達じゃないな」
軽口を叩きながらもカイルの目は笑っていない。この瞬間も対抗策を練っているのだ。そして、なにかを閃いたらしく、不敵に笑うのだった。





