↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/26

3-17 私が運命の相手なんて正気ですか!?

放蕩者の遊び人と評判のガルシア帝国の第四皇子ルシウス。彼は突然パーティーで婚約破棄騒動を起こす。

まぁそれだけなら私とは何の関係もない話だったのだが。


「そう、このエリーこそが僕の運命の相手さ!!」


そこで運命の相手として名指しされたのは、他でもない私エリーだった!?

いやいや、皇子とは一切面識がないし、そもそも偶然その場に居合わせただけの使用人なんですが!!

どうしたものかと考えていたところ、二人っきりになった皇子は豹変して——


「ダメだよ……だって他でもない君だからこそ、僕はあそこで指名したのだから」


なんと表の顔は政敵を油断させるための演技で、その本性は腹黒で狡猾な危険人物だった。そんな彼は私の弱みを握りながら、ある提案を持ちかけて来る始末。


「断るつもりなら一体どうなるだろうね?」

「完全に脅しじゃないの!!」

「ハウンド侯爵令嬢ヘルガ、お前との婚約は破棄する!!」


 ああ、とうとうやったか……。

 そんなことを考えながら、私はチラリと声の方を見やる。当然だがその声の主は、もう既にパーティ会場内から相当な注目を集めていた。


「何故なら僕は運命の相手を見つけてしまったからだ!!」


 すっかり自分に酔ったような馬鹿っぽい声でそう叫んだのは、見た目こそは良いものの放蕩者の遊び人と知られるこのガルシア帝国の第四皇子ルシウスだった。プラチナブロンドに碧眼、美しい顔立ちに、すらりとした高身長、中身以外は完璧な皇子と言っても過言ではない。だがその素行とあんまりな言動から、残念な人物(馬鹿皇子)として社交界でも話題だった。まぁ私が気にかける必要もない相手である。

 むしろ私が気になるのは、お相手のハウンド侯爵令嬢の方だ。


「……その相手というのは一体誰なんですか、今お近くにいらっしゃるようには見えませんが?」


 ヘルガは威圧的にルシウス皇子を睨みながら、広げた派手な扇を彼へと突きつける。

 ふーん、なまじプライドが高いだけあって、イライラしてそうね。


「いいや、ちゃんとそこにいるさ」


 するとルシウス皇子は身を翻して、一連の騒動を見守る人の波を掻き分け、ある人物の前まで辿り着く。それはなんと他でもない、私の目の前で…………へ?

 そうして私の肩を抱いた彼は堂々と言い放った。


「そう、このエリーこそが僕の運命の相手さ!!」


 その瞬間、波打つような大きなざわめきが会場全体に広がる。私はあっと言う間に騒動の傍観者から、当事者の一人へと仕立て上げられてしまったわけで……。

 な、な、何言ってんの、この馬鹿皇子は!? そもそもコイツとの面識なんて一切ないのに……!!


「殿下一体何を仰っているのですか!? 彼女はどうみてもこのパーティー会場の給仕、使用人ではありませんか!!」


 そう、ざわめきが大きかった原因もそれだ。どうみても偶然そこに居たようにしか見えない使用人が、婚約破棄の原因の運命の相手として、いきなり引っ張り出されたら誰でも驚く。もちろん私も含めて。


「愛の前ではその程度のこと関係ないのさ」


 皇子はしたり顔でそう語るが、残念ながら私の方はその愛に一切の身に覚えがない。だからもう解放して欲しい。


「そういう訳だからヘルガ、君との婚約はナシだ悪いね」

「殿下っ!!」


 そうしてルシウス皇子はハウンド侯爵令嬢の叫び声と、混乱状態の人々を背に、つかつかとパーティ会場を後にした。何故か当然のように肩を抱いた私のことも連れて。

 …………だから!! なんなのよ、この状況は!?

 でも、この状況で私が拒否して騒ぐのは余計に目立つ、一旦は従う方がいいでしょう……くっ、なんて面倒な……。



 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽



「まぁ適当に掛けてラクにしてよ」


 ここはパーティ会場からそれほど遠くない、皇族専用の休憩室。そこまで連れてこられた私は、ルシウス皇子から笑顔でソファに座るように促されていた。が、とにかく居心地が悪いし、ついでに頭も胃も痛い、最悪だ。どう座ってもラクになるわけがない。


「あの第四皇子殿下」

「気軽にルシウスって呼んでくれていいよ、恋人なんだからさ」

「……恋人になった覚えなんてありませんよ?」


 ルシウス皇子はしばらく私の顔をじーっと見つめてから、ニコリと笑って答えた。


「まぁ、そうだろうね!!」


 こ、このクソ皇子、まさか本当にただの気紛れで私に声を掛けたの!? 目立ちたくないのになんとも余計なことを……!!


「でしたら、どうにか人違いということで私のことは……」

「いいや、エリー」


 ぞくりとするような妙な凄みのある声に遮られて、私は反射的に口を閉じる。


「それはダメだよ」


 ルシウス皇子はニコニコ笑っているけど、今までとは何かが決定的に違う。


「……ダメとはどういうことでしょうか?」

「だって他でもない君だからこそ、僕はあそこで指名したのだから」


 いや、これは、先程までと喋り方も表情も何もかもが違う……!?


「しかし、よく皇宮に入り込むことが出来たね」

「何を言って……」

「なるほど、少しでも顔の印象が残らないように、度が入ってない分厚い眼鏡を掛けて、元々の目立つ藍色の髪は、地味な茶髪に染めているんだね……うん、君もなかなか大変そうだ」


 この男は噂通りの軽薄で馬鹿な皇子などではない!! そう気付いた時にはもう遅かった。


「十年前に滅ぼされ、我が帝国に併合されたクルブス大公国の大公女エリザベート、それが君の正体だ」


 それを聞いた瞬間、私は弾かれたように席を立ち、危険人物から最大限距離を取った。

 警戒はしていた筈なのに、完全にバレている!!


「そんな反応しないでよ。取って食おうという訳じゃないからさ……まぁ今のところはね」


 キッと睨むとルシウスは心にもなさそうに肩をすくめて「怖いなぁ」と呟いた。怖いのはそちらだ。


「私をどうするつもりで?」

「だからさ、僕の運命の相手になって貰おうと思ってね」

「何を言ってるのか分かりかねます」

「うん、それじゃあ説明しようか……まずは座って」

「……」

「君は今まで一人で動いていた訳では無いよね? その仲間も含めて、安全を保障して欲しいなら座った方がいいんじゃないかな」


 私のことの調べが付いているなら、当然のように仲間のことも知っているか……腹黒クソ皇子め。

 渋々座りなおすと皇子はニッコニコで口を開いた。


「要するにさっきの宣言通りに、僕の恋人役をして欲しいんだよね」

「それをするメリットが私にありますかね」

「え、命の保証だけじゃ足りない?」

「……」

「まぁそれは冗談なんだけども」


 殴りたい、このふざけた笑顔を全力で。


「君たちも知っての通り我が皇家には敵が多い。それは外だけではなく国内もそうだ、その一大勢力がハウンド侯爵家なのは分かっているだろう?」


 その言葉に私は話の意図を考えながら、コクリと頷く。今聞いた情報は私の知っているものとも相違ない。ルシウス皇子がハウンド侯爵令嬢と婚約しなければいけなくなったのも、ひとえに彼らの権力が強くなったせいだ。要するに渋々不本意に結ばされた婚約だった筈……まぁあの馬鹿騒ぎのせいで、今後はどうなるかは分からないが。


「そして君ならばよく知っていると思うけれど、クルブス大公国を陥れて侵攻を主導したのも当時伯爵家だったハウンドだ」


 皇子の言葉に私はグッと手を握り締めた。


「旧大公国領は表面上帝国に併合されたことになってはいるが、残念ながら皇家が手出し出来る部分はほとんどない。何故ならその主導権は実質ハウンドに握られているからね」

「情けない話ですね……」

「ああ、本当に。だから僕もわざわざあんな振る舞いで周りを油断させて、諜報活動をしなきゃいけなかったわけだ」


 皇族がわざわざそんなことをしなければならないほど切羽詰まっている、か。

 その情報はある意味新鮮ではあるが、だがそんな帝国の内情など、私には関係ない……。


「で、そこで君に提案なんだけど、僕と協力して一緒にハウンドを引きずり降ろさないかい?」

「それは、協力すれば仇を取らせてやるということでしょうか」

「まぁそれも一つあるんだけど」


 ルシウスは少しもったいぶるような素振りを見せてから、ニヤリと底意地の悪い笑顔と共にこんな爆弾を投下した。


「事と次第によっては、旧大公国領……つまりクルブス大公国を、正当な後継者である君、エリザベス大公女に返してあげてもいい」

「は?」

「ね、悪くない話でしょう」


 あまりに唐突な話に、私は真意を図ろうとじっとルシウス皇子を見つめるが、彼は腹の底が読めない気味の悪い笑顔を浮かべるばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ 第28回書き出し祭り 第3会場の投票はこちらから ▼▼▼ 
投票は10月3日まで!
表紙絵
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。