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札束でビンタから始まる怪力令嬢の勘違い契約結婚~お飾りの妻は最高です~  作者: やきいもほくほく
一章 札束ビンタ

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言われるがままオリヴィアはソファに腰掛けていた。

すると見たことがない早さで、紅茶やお菓子が並べられていく。

オリヴィアは口端からよだれが垂れそうになるのを必死に耐えていた。

それにこの札束を手放すことが怖いため、手のひらに置いたままだ。


(こ、こんなおいしそうなお菓子が目の前に……!)


獣臭い肉でも苦味のある野草でもない。

王都の令嬢たちがお茶会で食べていそうなお金と手間がかかったお菓子だ。

紅茶も何故か花の香りがする。


最初で最後の機会かもしれないと、オリヴィアはお菓子を凝視していた。

これがどんな味がするのか、想像するだけでも幸せいっぱいだ。



「召し上がらないのですか?」


「…………えぇ」



オリヴィアはお菓子に夢中で上の空で返事をしていた。

それに手のひらの上には信じられないような大金。

震えてしまうのを必死に抑えながら、どうやって置けばいいのか考えていた。


だが、そんな幸せな気持ちもロベールに紙を置かれたことで遮られてしまう。

その紙にびっしりと何かを書き込まれている。



「これをディルムーン辺境伯へ渡してくれ」


「……お父様に?」


「残りはあとで届けよう」



ロベールの視線は大金が入ったケースにあった。


(……娼館って働くのにお父様の許可がいるのね)


それにやはりテーブルの端に足の肉が食い込んでいるのに、痛がってもいない。

パンパンに膨らんで贅肉で埋まっている顔も偽物に思えて仕方なかった。

じっとロベールを観察していると彼は口端を歪めた。



「今更、不満があるのか? お前が決めたことだろう?」


「不満はないのですが、いつまでそのままのお姿でいるおつもりですか?」


「…………は?」


「「…………」」



マルセルとアナイス、ロベールからの視線を感じていた。

なんらかの事情があり、変装をしているのだとしたら深く詮索しないほうがよかったのかもしれない。


(も、もしかして言ってはいけないことだった?)


オリヴィアが内心焦っていると、アイナスとマルセルの動きが変わったことに気づく。


(今度は逆になったのかしら? アイナスさんがロベールさんの世話を?)


するとマルセルがこちらにやってきて、にこりと微笑んだ。

先ほどよりも雰囲気が柔らかい。



「馬はちゃんと休ませておきましたから」


「マルセルさん、ありがとうございます。アイナスさんが世話をしてくれたんですよね」


「「……!」」


「もうマルセルとアイナスの違いがわかるのか?」



ロベールは淡々とこちらに問いかけた。



「はい、わかりますけど……」



違いがわかるかと問われたら、もちろんイエスだ。



「どこで見分けている?」


「どこって……顔つきや筋肉のつきかた、おそらく扱う武器も違いますよね?」


「…………そうか」



マルセルとアイナスも自分の足元や手のひらを見つめて、不思議そうな顔をしていた。

雇う条件として双子を見分ける必要があるのだろうか。

彼の質問に何の意図があるのか、まったくわからない。



「前金は手のひらのそれで十分だろ? 細かいことはまた時間があるときに説明する。いいな?」


「は、はい!」



次々と指示を出すロベールにとりあえず頷いた。



「オリヴィア様、こちらに」


「えっ、はい……」



アイナスに部屋から出るように誘導されたオリヴィアは札束を持ったまま立ち上がる。

その際、まったく手につけていないお菓子と紅茶が目に入った。


(アアアアアアアアアッ、わたしの愚か者……!)


結局、札束に気を取られて食べずにいたため、そのままになってしまったようだ。

泣きそうになるのを抑えつつも、アナイスとともにジョセフィーヌの元に向かった。


その途中には真っ黒な服を着ている人たちに取り押さえられるようにして、暴れている少女の姿があった。



「──離しなさいっ! 無礼者が!」



先ほど人形のよう美しく佇んでいた姿とは一転して、激しく暴れているではないか。

オリヴィアと目が合った瞬間、鋭くこちらを睨みつけた。

けれどアナイスは気にする様子はなく素通りしていく。


(どうして彼女はこんなに怒っているのかしら)


不思議に思いつつ、彼のあとをついていった。


お菓子を食べられなかったオリヴィアは落ち込みつつも娼館をあとにした。


(そういえば肝心なことをすべて聞き忘れたような……だけど今、大切なのはこのお金でお母様の薬を買うことだわ)


それからは頭が空っぽのままジョセフィーヌに乗って、ディルムーン辺境伯領へ駆け抜けて行った。

そうでなければ涙が溢れそうだったからだ。


(あのおいしそうなお菓子を食べたかったのに……!)


その後悔が大きな波のように押し寄せてくる。



「悔しいよぉ~~~!」



チャンスを逃してしまった己の不甲斐なさに思わず声が漏れた。

ジョセフィーヌがうるさいと言わんばかりにブルルと声を出したため、下唇を噛みながら声を押し殺す。


(恥を忍んで、お菓子をもらえばよかったのよ……!)


オリヴィアはロベールに渡された何か書かれた数枚の紙と、札束が手元にあるのを何度も何度も確認をしながら、ディルムーン辺境伯邸を目指した。



* * *



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