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札束でビンタから始まる怪力令嬢の勘違い契約結婚~お飾りの妻は最高です~  作者: やきいもほくほく
一章 札束ビンタ

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──パシンッ!



オリヴィアの頬に冷たくて軽いもので弾き飛ばされる感覚がした。

痛くはないが、鼻腔に残る独特の香り。


(今のはお金!? わたし……札束でビンタされたの?) 


オリヴィアは反射的に頬を押さえた。

手を出されて腹が立つはずなのに、喉から手が出るほどに欲しい大量のお金に殴られるのなら悪くないと思ってしまう。


(み、見たこともない大金がわたしの頬に触れたわ……!)


全身にぶわりと鳥肌が立つ。

よく見ると仮面の男は、分厚い札束を三束ほど握っているではないか。

オリヴィアが呆気にとられていると、ぺちぺちと追い打ちをかけるために頬に食い込む札束。

札束をまとめている紙が緩んだのかヒラヒラとお札が舞った。



「これが欲しいと思わないのか?」



この男の言うことに反発したいと思う気持ちはある。

あるけれど、オリヴィアの体は正直だった。



「──欲しいですっ!」



オリヴィアの体が無意識に動き、お金に手を伸ばす。

しかし無情にも札束は遠のいていき、オリヴィアはバランスを崩して前のめりになってしまう。

勢い余って仮面をつけた男性に覆い被さるようにして飛び込んでしまった。



「……っ!?」


「いたた……」



オリヴィアは男性の上に馬乗り状態だ。

勢いよく頭突きしていたせいか、ぶつかった額が痛む。

そんなオリヴィアの横でカラカラと音が鳴り、揺れているのが見えた。


(仮面が……!)


男性の仮面は落ちてしまったのだ。

ネイビーの髪が床に散らばっている方へと視線を流す。

ゆっくりと腕が外れていき、彼の顔が露わになる。

アイスブルーの瞳が細まり、不機嫌そうに顔が歪む。

宝石のように輝く瞳に魅入られるように動けずにいると……。



「……どいてくれ」


「ご、ごめんなさい」



オリヴィアは飛び降りるように男の上から退いた。

彼の横から慌てた様子で燕尾服を着た男性が手を伸ばしている。

起き上がろうとしている男性を見て違和感を覚えた。


(人間の体って、こんなにふわふわしていないわよね? それにこの顔もどこかで……)


オリヴィアは首を捻りつつ考えていたが、何かまではわからない。



「で……するのかしないのか?」


「……っ!」



オリヴィアが迷っていると、再び積み上がっていく札束。

その光景に釘付けになる。



「この金がいらないと?」


「もちろん欲しいです……!」



ケースから次々と出てくる札束にオリヴィアの思考が鈍っていく。

仮面をつけ直した彼の唇が歪んだ。



「なら、俺の言うことに従え」


「──はい、喜んで!」



オリヴィアは勢いのまま書類にサインをしていく。

もう頭も目もお金でいっぱいだった。



「これでお前は俺の〝妻〟だな」


「…………ん?」

 


オリヴィアの耳に届いたのは、予想外の言葉だった。

〝妻〟という言い方に首を傾げることしかできない。


(わたしは娼館の面接に来たんじゃないの?)


そのことを問いかけようとするが、ロベールがオリヴィアの名前を見て、わずかに目を見開いていた。



「まさか……あのディルムーン辺境伯の娘とは」


「あ、あの……」


「なるほどな……」



仮面をしていても、声のトーンでなんとなく何を考えているかわかりそうなものだが、今は聞き間違いかどうかを確かめるのに必死だった。


(妻って何……? ここで働く従業員っていう意味かしら)


名前を書いた紙を金髪の少年に渡されてしまい、それを追いかけようと手を伸ばすが……。



「ああ、金が欲しいんだったな」


「……っ!?」



オリヴィアの両手のひらには、先ほどビンタされた札束があった。


(たっ、た、大金がぁ……!)


そのまま固まっていると、どこからか音もなく大量に人が出てきたではないか。

皆、黒い布に全身が包まれていて目元しか見えない。


(今まで気配を消していたというの? 全然意識していなかったから気づけなかった……やっぱり勘が鈍っているのかしら。ショック……)


オリヴィアが落ち込んでいる間も、彼は巨体を動かしてさまざまな指示を手際よく出していく。


部屋の向こう側では、女性たちの不満げな声が複数聞こえてきた。

遠のいていく足音、問答無用で女性たちは帰されているようだ。


(つまり…………わたしが採用されたということ?)


オリヴィアは札束を手のひらにのせたまま動けずにいた。



「馬でここまで来たのだろう? ディルムーン辺境伯は、このことは知っているのか?」


「どうしてそれを……」


「知っているかいないか、さっさと答えろ」


「お父様には言っていません」


「そうか。なら挨拶に行かないとな」



オリヴィアが不思議に思っていると、ジョセフィーヌを手懐けていた金髪の少年の姿があった。

彼に聞いたのだろう。やはり双子だったようだ。



「彼らはマルセルとアナイスだ」


「…………はい」


「初対面で双子だと気づいたのはお前が初めてだな」



オリヴィアは彼らを見ると、ジョセフィーヌを引いていたほうがアナイス。

マルセルがロベールのそばにいる少年のようだ。


(……他の方々は双子だと気づかなかったの?)


二人の服装や髪型は同じで意図的に似せているのだと思った。

だから気づかなかったのだろう。



「準備をする。しばらくそこで待っていてくれ」


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