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札束でビンタから始まる怪力令嬢の勘違い契約結婚~お飾りの妻は最高です~  作者: やきいもほくほく
一章 札束ビンタ

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オリヴィアは金目当てだと問われて『そうです』と言おうとして、遮られたことに驚いていた。

娼館で働くということは、お金を稼ぐ目的以外に何があるというのだろうか。


それからなんともいえない圧迫感にオリヴィアは押されていた。


(この人……只者じゃないわ)


目の前の人物から放たれるオーラが恐ろしく感じた。


しかし冷静になって考えてみたら、これは面接だ。

つまり彼はこの店で働くのに相応しいのか、客の前でもきちんと接客できるのかどうかを試しているのかもしれない。

最初の言葉にはうまく返せなかったが、次はきちんと答えをしようと気合いを入れ直す。



「結局は権力や金しか興味がない。そうだろう?」


「正直、顔はどうでもいいです!」


「は……?」


「……え?」



予想外の反応に驚いて声が漏れてしまう。

それとも今のはひとり言だったのだろうかと考えていた。


(お客様の顔はどうでもいいという意味で言ったのだけれど、この答えはよくないのかしら)


すると金髪の少年がロベールに耳打ちをする。

ロベールはオリヴィアを見て唇を歪めた。

それが不気味に思えたが、何か言うことはない。

相手が黙ってしまったので、ここは自己アピールをしなければと口を開く。



「もちろんお金は欲しいです。できれば今すぐ働……!」



オリヴィアが言い終わる前に巨体の男性の腕をあげると指を弾く。

しかしあることに気づき、観察するために目を細めた。

それは彼の指の細さだ。


(腕と指の太さが合っていない……どうして?)


そう考える暇もなく、金色の少年はテーブルの上に勢いよく何かを置いた。


──バンッ


オリヴィアの前には信じられない光景が広がっていた。

横にいる従者が目の前に金が入ったケースを出す。

パカリと蓋が開くと大量の札束が入っているではないか。



「一年でいい。この金で雇ってやる」



オリヴィアは驚いて目を見開いていた。こんな大金を今まで見たことがなかったからだ。

自然と呼吸が浅くなっていく。目が血走るほどにケースの中を凝視していた。


(こんな大金……初めて見た。一年働くだけで、こんなにもらえるなんて絶対におかしい!)


今、自分の身に何が起ころうとしているのか世間知らずなオリヴィアにはわからない。

ただよくないことに巻き込まれているのではないかと危機感を覚えた。



「それともう一つ。金は好きなだけやるから必要以上に俺に干渉するな。自分の仕事を文句を言わずにこなすこと。それが条件だ」


「へ、ひ……?」



一気に条件を並べられたため、飲みこめずにオリヴィアの口から声だけが漏れる。


(これはもしかして雇ってもらえるということ……?)


それに気のせいでなければ、好きなだけお金をくれると言わなかっただろうか。

どれだけつらい仕事なのだと考える暇もなく、ロベールは言葉を続けた。



「一年経てば解放してやるんだ。悪い条件ではないだろう?」



彼の唇が皮肉っぽく弧を描く。


(たしかに悪い条件ではないわ。これでお母様とディルムーン辺境伯家を救える……!)


オリヴィアが俯きつつ、ズボンの布をギュッと握る。


 

「本当に……そのケースのお金をもらえるのですか?」


「ああ、そうだ」


「他に何か条件は?」


「先ほど言っただろう。必要以上に干渉するな。ただ笑顔で従えばいい。楽な仕事だろう?」



有無を言わせない対応にオリヴィアは言葉を飲み込んだ。

オリヴィアはここで働きにきた。

それは没落寸前の辺境伯家と、大好きな領民たちや家族、そして最愛の母を助けるためだ。



「もし条件を飲むなら、すぐに書類にサインをしろ」


「…………っ!」


「お前が持っている選択肢は二つ。俺のものになるかならないか……それだけだ」



オリヴィアの眉がぴくりと動く。

この男と対峙して思うことはただ一つ。


(まるで道具のようね。こんなふうに意地悪な言い方ばかりしているから女性たちが耐えられないんだわ)


この娼館のオーナーであるロベールの口ぶりから、女性たちが泣きながら帰ってきた理由がわかってしまった。

一方的に押さえつけるような言い方では、萎縮してしまうのだろう。

そして一番悔しいのは、この男の言う通りにしなければお金は手に入らないということだ。

追い詰められている状況で、オリヴィアは従うしかなかった。


だがオリヴィアは迷っていた。


(今すぐに飛び込むべき……? ううん、まだ少し時間はあるから違う娼館に……)


男は目の前は、そんなオリヴィアの気持ちを察していたのだろ。

顔がどんどんと険しくなっていく。


大金の横には契約書のようなものが数枚置かれていた。

お金が欲しいはずなのに渡される羽根ペンをとることができないのは何故だろうか。

オリヴィアの勘が『とどまれ』と言っているような気がした。


(選択肢はない。けれど……)


ここで踏み止まるべきか、選択を迫られているのだ。

ロベールが立ち上がり天蓋のような場所から出てきて札束を手に取ったことにも気づくことはない。

彼の巨体が影になり、オリヴィアが顔を上げたときだった。



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