⑤②
「オリヴィア様、殺してはなりません。まだ情報が……!」
「大丈夫よ! 半分だけだから」
「は、半分……?」
「…………半分、ですか」
「そう、半分」
オリヴィアは笑顔でそう言ってから荷馬車へと歩き出した。
彼らの悲鳴が一瞬だけ上がるものの、すぐに小さくなっていく。
何度か重たい音と絶叫が響き渡ると、不気味なほどに静かになった。
何事もなかったかのようにオリヴィアは子どもたちのもとへ戻る。
震える子どもたちは心配そうにこちらを見るが、オリヴィアが笑みを浮かべているため大丈夫だと思ったのだろう。
「お待たせ。わたしのお肉は焼けたかしら?」
そうすると食べ頃の肉の一面が焦げているため、子どもたちの視線がそちらに向かう。
影たちは彼らが死んでいないか確認するために荷馬車を覗くものの、あまりの惨状にそっと視線を逸らした。
オリヴィアは片腕を後ろに回す。
自分の服で血のついた拳をごしごしと拭きながら、子どもたちに向き合っていた。
焼けた肉塊を手に取り、一口をかぶりついた瞬間に声が漏れる。
「んぅ~~~っ!」
良質な脂が口の中にじゅわりと広がっていき、そのあとに肉々しい味が口内を埋め尽くす。
旨みが強く、ゴクリと飲み込むのと同時に幸せが広がっていく。
(久しぶりの猪肉、幸せ……!)
子どもたちの肉も焼き上がり、ペロリと肉を平らげてしまった。
緊張が解けたのかお腹いっぱいになり、安心したのか寝始める子も現れた。
オリヴィアの肉塊もあっという間になくなってしまい、もう一つの部位が違う肉塊の焼く準備もしようとしたときだった。
「──オリヴィアッ!」
肉塊に塩をまぶしていると大声で名前を呼ばれて顔を上げた。
「……ロベール様?」
こんな山道には何台も馬車が続いていた。
連れ去られた子は、ほとんどが女の子なのでロベールを見て『王子様が迎えにきたー!』と目を輝かせている。
しかしロベールの姿を確認しても気にすることなく、肉を焼くのに夢中だった。
鼻歌交じりで、火の管理をしているオリヴィアはロベールにまったく関心がないように振る舞っていた。
「オリヴィア……」
ロベールが声をかけようと片手を伸ばしたときだ。
「ロベール様はわたしを囮にしたのですか?」
その問いかけにロベールの指先がピクリと動く。
「王都で子どもたちが次々に消えていた。その調査をしていたんだ」
彼は言い訳すらしなかった。
オリヴィアもまたロベールを責めることなく問いかける。
「それがこの子どもたちなのですか?」
「ああ、そうだ。だが、オリヴィアを囮にするつもりはなかった」
「…………」
「本当だ。すぐに助けようとしたが、子どもたちの件が絡んでいると気づいて目的のために利用した」
オリヴィアは顔を上げて、ロベールと目が合う。
仮面をつけているため表情が読めないため、真意はわからない。
「……すまない」
エンバルト公爵家としての責務とオリヴィアのことと、彼は悩み揺れたのだろうか。
けれど彼らは子どもたちもだが、明確にオリヴィアを狙っていたように思う。
(公爵家の侍女と言っていたものね)
それに影蜘蛛たちを三人もつけてくれていた。
オリヴィアが把握している中では、もっともベテランの影蜘蛛である。
おそらくマルセルかアイナスのどちらかは近くで待機していたに違いない。
「事情はわかりました」
「……信じて、くれるのか?」
「影蜘蛛たちもいましたし、何か考えがあるのかなぁ……と」
「…………っ!」
ロベールは血塗れで獣臭いオリヴィアを気にすることなく、抱きしめている。
耳元で何度も呟かれる謝罪の言葉。
普通の女性ならば泣いたり怒ったりするのだろうが、オリヴィアは特に何かを思うことはない。
彼は自分の目的を果たした。そしてオリヴィアもやりたいようにやっただけだ。
(幼い頃、辺境ではこんなことが日常茶飯事だったものね)
どうして彼がこのような悲しそうな声で問うのか、オリヴィアにはよくわからない。
それに契約結婚の仕事内容だと思えば悪くないではないか。
オリヴィアにはこうした場所に身を置くことは慣れていた。
むしろ最近は退屈だったため、いい刺激になり、おいしい肉塊にかぶりつくことができた。
こうして子どもたちは怪我をすることなく無事だったことも大きい。
それから絨毯に寝て弱っている子どもたちを診るためか、一台の馬車には医師の姿もあった。
彼らは先に公爵邸に帰り、適切な治療を受けるそうだ。
残りの子どもたちも体を綺麗にして、親元に帰る準備をしていくらしい。
子どもたちはマルセルの指示で馬車に乗り込んでいく。
皆、オリヴィアを抱きしめて「お姉ちゃん、ありがとう……!」と笑みを見せた。
オリヴィアははしゃぐ子どもたちを見送り、すぐさま肉塊の元へ。
そこにいるロベールは、かなり落ち込んでいるように見える。
「どうしてわたしが狙われたのでしょうか」
「まだ調査段階だが、男たちにすぐ情報を吐かせれば確定するはずだ」
「あっ……!」




