⑤①
多少血がついてしまったため、その被害はオリヴィアの真っ白なシュミーズの服にもベッタリとついていた。
まずはエリーの怒った顔が思い浮かぶ。
彼女は血で汚れたシュミーズとコルセットを見て何を思うのだろうか。
子どもたちと一緒に世話を任せた影と、水場を探しに向かった影が二人揃っていた。
「水場はあったかしら?」
「少し離れた場所ですが、川がありました」
「運がいいわね。衰弱している子に水分は……もうしてくれているのね。ありがとう」
オリヴィアが猪狩りをしている間に水を与えてくれたようだ。
猪がこんなに早く見つかったのも川が近くにあり動物の水飲み場になっているのかもしれない。
オリヴィアは子どもたちを怖がらせないように優しく声をかけた。
「ご飯の用意をしてくるからね」
「ごはん……?」
「えぇ、お腹空いたでしょう?」
喜ぶ子どもたちを置いて
影蜘蛛の一人とともに川へと向かう。
「まずは放血……それから体を洗っていきましょう」
「あっ……はい」
「血の匂いに誘われて猛獣がやってくるかもしれないから見張っていてくれる?」
「か、かしこまりました……」
オリヴィアが容赦なく猪の頸動脈に刺して、その辺の葉っぱを手にして猪の体を洗っていた。
内臓を傷つけないようにナイフで切り開いていた。
尿は特に匂いがきついため、食べられなくなってしまうため慎重に内蔵を取り出していく。
川で何度もナイフを洗いながら皮を剥いた。
今回は時間がないため、肩から腰にかけて背中側の肉だけをうまく取り出していく。
赤身部分は旨みが強く、脂も多くのる部位だ。
洗った葉っぱの上にお肉を乗せていく。
「火を起こしてくるから、後処理をお願いしてもいいかしら」
「えっ……あっ、後処理!?」
「時間があったら捌きに戻るから、腹に石を詰めて川の沢につけて鮮度を保ってね」
「か、かしこまりました!」
戸惑っている影を置いて、オリヴィアは走り出す。
お腹を空かせて子どもたちを待っている。
子どもたちの元に戻りつつも、食べられる野草を大量に摘んでいく。
(あの子たちも食べられるものがあればいいんだけど……)
ついでに木の実やベリーを見つけて、素早く葉に包んで荷馬車のもとに到着する。
急いでいたため、服は血まみれで再び悲鳴を上げられてしまう。
しかしオリヴィアが肉や野菜を見せた途端、ガラリと態度が変わる。
元気な子どもたちに手伝ってもらい、枝や葉を集めた。
子どもの面倒を任せていた影に人数分の枝やベリー、木の実を川に洗いに行ってもらっている間に、荷馬車を捜索するとマッチを見つける。
彼らは野宿をすることも多いのか、簡単な調味料やパンが少量あったこともありがたい。
「火をつけるから待っててね!」
「「「「はーい!」」」」
山が火事にならないように、周囲の草をナイフで手早く刈り取って、その辺にあった丸太を運んで椅子代わりに。
オリヴィアは手際よく火を起こしつつ、子どもが食べやすいようやなナイフで肉を切り分けていく。
影蜘蛛から洗った枝を受け取り、肉を刺して火にくべる。
塩をパラパラと振ると、枝が燃えるパチパチといい音が耳に届いた。
野草は葉に包んで、水分とともに蒸し焼きに。
絨毯に寝ている子たちに、ベリーや木の実など食べさせるように頼む。
オリヴィアは影蜘蛛に細かく指示を出していく。
咀嚼できない子どもには男たちが持っていた食器を使って、薬草や木の実をすりつぶして少しずつ口に入れていく。
残っていたパンに水分を含ませて柔らかくして食べさせてもらう。
その間に肉の面倒を見ていた。
肉が焼けたため、子どもたちに配っていく。もちろん影蜘蛛たちに配ることも忘れない。
泣きながら噛み締めるように食べる子どももいれば、おいしいと満面の笑みを浮かべている子もいた。
先ほどまで牢の中で絶望して泣いていたのが嘘みたいだ。
この笑顔を見ていると、彼らを救えてよかったと思う。
みんなペロリと肉を平らげて、おかわりの肉を焼いていく。
その間に野草に塩を振って、子どもたちにも分けていく。
そしてオリヴィアは肉塊の真ん中に骨を刺して、しっかりと火が通るように焼いていた。
「お姉ちゃん、ずるーい!」
「おっきいお肉!」
「み、みんなの分もまだまだお肉はたくさんあるから」
子どもたちにおかわりの肉があることを伝えて、なんとか誤魔化しつつもオリヴィアは自分の肉を死守していた。
(この肉塊がずっと食べたかったの……っ!)
目の前の肉がキラキラと光り輝いており、脂がポタポタと落ちるたびに、肉のいい香りがぶわっと広がる。
じっくり焼かなければならないため、オリヴィアのけたたましいお腹の音が鳴り響いていた。
寝ていた子どもたちも、水分がとれたおかげが顔色もよくなっている。
一人、二人と起き上がって「私の分もお肉をとっておいて!」と、必死な様子だ。
かわいらしい子どもたちにまだまだ肉があることを伝え、和気藹々とした時間を過ごしていた。
すると男たちが目を覚ましたのか怒号をあげた。
子どもたちが怯えて、震え出してしまったため楽しい時間が台無しである。
影たちが向かおうとするのをオリヴィアは片手で制する。
「少し待っててね……!」
オリヴィアの額には青筋が浮かんでいた。




