⑤⓪
──数時間後。
馬車が山奥で停まった。
「さて、このへんに女を捨てていくか……!」
「もったいねぇよな。少しだけ遊んでくか?」
「そんなことしてたらガキ共が死んじまうだろう?」
「いつもより長旅でめんどくせぇ……食料も多く用意しなきゃいけないなんて割にあわねぇよ」
「そう言うなって。ガキ共の分があるだろう?」
「ああ、そうだな。王都から運んでんだ。少しくらいダメになっても仕方ねぇ」
「そういや、ガキどもは今回、静かだったな」
「もう何人かダメになっちまったんじゃねぇか?」
男たちは体を伸ばし、笑いながら荷馬車の中へ入る。
「おーい、嬢ちゃん」
「そんな端にいないで、出てこいよ! お家についたぜぇ?」
「ギャハハ、そうそう。ここがお前の家だ。ゆっくりしていけよ」
男たちが奥へ近づいてくる。
そしてオリヴィアの肩に手をかけた瞬間だった。
「なんとか言えよ。なぁ?」
「おい、なんか変……グハッ!」
ゴキリという音と共に、一人の男の足が曲がりその場に崩れ落ちる。
「な、なんだ……っ、グゥ!?」
後ろから羽交締めにすると、ゴキと複数の音がした瞬間、汚い悲鳴が口から漏れたあと体が倒れ込む。
あまりにも一瞬だったため、子どもたちはオリヴィアの姿を捉えることができなかった。
「よし……! 逃げましょうか」
オリヴィアが何事もなかったかのように笑顔になった。
子どもたちは互いを抱きしめながら小さく震えていた。
なぜならオリヴィアが強すぎて、何をどう動いたのかまったく理解できなかったからだ。
オリヴィアは男たちのポケットから鍵とナイフを取り出す。
「あまりいいナイフじゃないわね。でも、ないよりはマシかしら」
足を折られた男はまだ意識があったのか、こちらに手を伸ばしている。
「な゛っ……お、お゛ま゛……っ」
「……うるさい」
反対側の足も容赦のない音が鳴るのと同時に、痛みで意識を失ったようだ。
鍵輪には何本も鍵がついていたため、どれが正解かわからない。
順に鍵穴に鍵をさしていくが、なかなか当たりが見つからない。
面倒になったオリヴィアは、鍵輪を放り投げた。
牢を掴んで少し力を込めただけで、鉄を曲げてしまった。
ぐにゃりとバターのように曲がる牢に子どもたちはその部分をつついたり、掴んだりしている。
あまりにも頑丈だったため、オリヴィアと牢だったものを交互に見つめている。
オリヴィアは男たちを近くにあった縄でぐるぐる巻きに縛っていく。
「お姉ちゃん、つよいね!」
「ヒーローみたい!」
「ふふっ、ありがとう」
大半の子どもたちは元気なため、自分の足で歩いて荷馬車を降りていく。
しかし四人ほどはぐったりしていてほとんど動けない。
オリヴィアが動けない子どもたちを抱えて外に出る。
三人ほどの蜘蛛の影が片膝をついて頭を下げていた。
突然現れたように見える彼らだが、オリヴィアは途中から影蜘蛛たちがいることに気づいていた。
「オリヴィア様、申し訳ありません」
「今すぐご説明をいたしますので……っ」
彼らは事情があって、荷馬車を追いながら何もしなかったのだ。
オリヴィアを囮にしたのかもしれないし、犯人がどこに行くのか知りたかったのかもしれない。
けれど今はそれどころではない。やることがたくさんあるからだ。
「左端のあなたは荷馬車にある絨毯をここに広げてちょうだい」
「…………え?」
「その隣、あなたは水場を探して。なるべく早く」
「は、はい!」
「最後にあなたはロベール様のもとに報告へ。迎えはどのくらいで到着するのかしら」
「…………なぜ」
「それとも今すぐにあなたたちとこの荷馬車と下山すべき?」
「い、いえ……お迎えに上がる予定です」
「時間は?」
「遅くても五時間以内には……」
彼らは的確に指示を出すオリヴィアに驚いているようだ。
普通ならば取り乱したり、状況を説明してほしいと懇願するはずなのに、と。
いつも感情を露わにしない彼らが戸惑っているように見える。
しかしオリヴィアは淡々と自分のやるべきことを進めていく。
「絨毯を広げて四人の子どもたちを寝かせたら、残りの子も見ていてね」
「わ、わかりました」
「時間がもったいないわ。すぐに動きましょう」
蜘蛛たちは頷いてすぐに散り散りに動き出す。
オリヴィアは先ほど男たちから奪ったナイフを片手に山奥へと進んでいく。
(……すぐに見つかるといいんだけど)
息を殺して音を立てないように草を掻き分けて進んでいく。
運良く小柄で扱いやすそうな猪を見つけたオリヴィアは背後に忍び寄る。
「──フンッ!」
ナイフで急所を刺すが、すぐに息絶えることはない。
痛みと何が起こったかわからずに周囲にいるものを追い払うように体を振り回している。
トドメをさしてからオリヴィアは動かなくなった猪の足を縄で縛って引きづっていく。
(近くに水場があるといいんだけど……血の匂いに誘われて猛獣が子どもたちを襲ったら困るもの)
肉の下処理をするために水場があればありがたい。
猪とともに子どもたちの場所へと戻る。
しかし悲鳴を上げられてしまい、慌てて猪を隠した。




