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札束でビンタから始まる怪力令嬢の勘違い契約結婚~お飾りの妻は最高です~  作者: やきいもほくほく
四章 近づく距離

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④⑧

夕食を終えると、体を清めてから怪我人の元へ。

どうやら新人でもないかぎり、影蜘蛛たちは滅多に大きな怪我をすることはないそうだ。

新人の指導者だったマリアンは腕を悪くしてしまったため侍女として働くそうだ。


エリーが『オリヴィア様の世話係が増えて嬉しいです』と、淡々と言っていた。

それほどにエリーの負担が大きかったのかもしれない。


朝食を食べ終えて、上品なドレスに着替える。

窮屈なコルセットをつけなければならず、オリヴィアのテンションはどんどんと下がっていた。

これも仕方ないとエリーと準備をする。


ロベールのエスコートを受けて、馬車に乗り込んで流れるように買い物へ。

仮面をつけているのだが、今日はいつもの男性の姿ではない。

髪には白髪が混じった初老の男性だった。


まるで孫のものを買いにきたように見えるが、以前は子どもの姿になって街を訪れたため、なんでもいいらしい。

それにエンバルト公爵領に住む領民たちはロベールのいろいろな姿に驚くこともなく普通に対応していた。


そこでオリヴィアの予想もしない出来事が起こる。

それはロベールがオリヴィアのものを買いまくるということだ。

オリヴィアがこれ以上は必要ないと伝えるが、ロベールは『オリヴィアに似合うから』という理由で包むように指示を出す。



「こんなにいりません!」


「いや、これはオリヴィアに似合う」


「似合う似合わないではなく……」


「ここからここまで、すべて包んでくれ」



ロベールの提案はどれもオリヴィアが考え付かないことばかりで、圧倒されるばかりだ。

レストランも個室でゆっくりと楽しむことができたし、その後もゆったりとした時間を過ごしていた。

この後も買い物をしたいというロベールに、オリヴィアは慌てて街を散歩したいと伝える。

これ以上の買い物は身が持ちそうになかったからだ。


(でも、わたしの言うことは聞いてくれないわよね)


まだまだ買う気だったらしいロベールは不満そうだ。

オリヴィアはロベールが自分の意見を押し通すものだと思っていた。

しかし彼から帰ってきたのは予想もしない言葉だ。



「オリヴィアがそう言うならそうしよう」


「……え? いいのですか!?」


「もちろんだ。オリヴィアの願いは叶えたい」


「あ、ありがとうございます」



予想外の言葉になんて返したらいいのかわからなかった。


(どういうこと? ロベール様はどうしてしまったの?)


あの傍若無人な彼はどこにいってしまったのか。

それとも初老の男性の姿は少年時同様に優しい設定なのだろうか。

オリヴィアはわけのわからないまま彼を見つめたが、優しく微笑むだけで何もわからない。


すると肉が焼けるいい匂いが辺りに漂っていた。

露店が多く出ており、真っ白な煙を出して肉を焼いている店に釘付けになった。


(串に肉塊が刺さっているわ。懐かしい……!)


オリヴィアがよく山で捕まえてきた獣の肉焼きにそっくりだった。

匂いに誘われて肉焼きを凝視していると、ロベールはじっとその様子を見ていた。



「あの肉焼きが食べたいのか?」


「あっ、はい……懐かしくて」



ロベールをベンチに座らせると、肉焼きを買いに向かった。

しかしうまく買えないらしく、時間がかかっているようだ。


(もしかして露店で買ったことはないのかしら……)


今まで見ていると、すべて高級店で行き慣れている感じがした。

しかしお金のやりとりで店側が戸惑っているようだ。


(ふふっ、かわいらしいところもあるのね……!)


影蜘蛛たちも徐々に不機嫌になっていていくロベールに、教えようか教えまいか迷っているように見える。

マルセルとアイナスは仕事を任せていて屋敷に置いてきたそうだ。

オリヴィアが微笑んでいると、どこからか『たすけてぇ……!』と、子どもの声が聞こえた気がした。


(今、声が……! 気のせい?)


オリヴィアの後ろから何度も何度もその声がする。

気になったオリヴィアが路地裏を覗くと、子どもに覆い被さるような影が見えた。

ロベールに報告して向かおうとするも、彼はこちらを見ることはない。

まだ時間がかかりそうだと思ったオリヴィアは、子どもの声がした路地裏へと向かう。

すると絨毯を抱える体格のいい男がいた。

オリヴィアは微かに動く絨毯を見逃さなかった。



「あなたたち、何をして……!」



そう言いかけたときに、後ろから口元に布を当てられる。

こんなことで怯むオリヴィアではない。

反撃しようと男性の腕に手をかけると、子どもがいるであろう絨毯に鋭いナイフを突きつけているではないか。


(なんてことを……!)


オリヴィアの動きがぴたりと止まった。

このままナイフを動かされてしまえば、子どもに突き刺さってしまう。

子どもを人質にとられてしまえば、オリヴィアは動けない。

背後に立つ男性にナイフを首に当てられたオリヴィアは声も出すことができず、そのまま路地裏の奥へ。

用意されていた荷馬車へと押し込まれてしまう。



「ちょっと! 子どもを解放しなさいんんッ!?」


「ひひっ……うまくいったな」


「ンンッー、ムゥ、ンーンーッ!」


「ぎゃあぎゃあうるせぇな。さっさと仕事を済ませようぜ」


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