④⑦
* * *
それからオリヴィアはいつものように過ごそうとしていたのだが……。
(なんだかロベール様の様子がおかしい!?)
結婚してからの短期間に、どんな心境の変化があったのかと気になるばかりだ。
何を話すにも距離が近いし、オリヴィアの心配をしてみたりと態度が柔らかくなっていた。
それに常に仮面をとって男性の姿で迫ってくるため、これが本当の姿なのかと考えていた。
結婚してすぐに王都に行ったロベールとの関わりはほとんどなかったはずだが、その間にオリヴィアが何をしていたのかすべて把握しているようだ。
エンバルト公爵家のことを多少は聞いていたため、特に気にすることはない。
これも契約結婚の仕事のうちだと思ったからだ。
一方的にこちらを知られていて、オリヴィアはロベールのことをよく知らないが、自分の仕事をきっちりとこなすだけだ。
最初は『俺に従え』と、冷めた態度で言っていたが、昨日は撤回するかのように優しくしてくる。
(外では妻を溺愛するって言っていたから、その練習をしているとか?)
ロベールに振り回されるのは覚悟していたが、オリヴィアはわけのわからないまま従うしかない。
理解したことは契約結婚を続けていれば、ディルムーン辺境伯はエンバルト公爵家の援助を受けて豊かになれること。
オリヴィアもおいしい肉を食べさせてくれるということだ。
ちなみに牛の運搬には時間がかかるそうだが、遅くても一週間後には届くとのことで楽しみにしていた。
それになんだかんだで夫婦っぽいこともしている。
なんと毎晩、一緒に寝室で寝ているのだ。
だが、戦闘服は取り上げられてしまった。
ついにロベールの前で着ることを禁じられてしまう。
もう勝負する必要はないからかもしれないが、それなりに気に入っていたので落ち込んでいた。
その代わりヒラヒラの戦闘服ではなく、さらに肌触りのいい寝間着をもらえた。
つるつるの肌触りは着ていて気持ちいい。
あとロベールは何かあるたびに「何か欲しいものはないか?」と、聞いてくる。
そんなに毎日、欲しいものは湧いて出てこないため困惑するばかりだ。
いつも『ない』と断っているのだが、彼は不満そうだ。
それにくわえてアイナスがオリヴィア専属の護衛になったらしい。
最近はエリーとアイナスと一緒に行動することが増えていた。
午前中はジョセフィーヌの世話や掃除。
アイナスと一緒にいることでジョセフィーヌは大喜びである。
オリヴィアはロベールの変化を特に気にすることなく、いつも通りに過ごしていた。
午後は講師に授業を受けて、夕食はなぜかロベールと一緒に食べていた。
彼の見惚れるような美しいマナーに刺激を受けて、真似をしつつ技術を盗んでいく。
ロベールの指示なのか肉の量が増えたことは喜ばしい。
彼も肉料理をオリヴィアに渡してくれた。
「い、いいのですか?」
「……ああ、構わない」
その言葉に甘えて、オリヴィアはおいしすぎる肉を口いっぱいに頬張った。
幸せいっぱいなオリヴィアは、ふと家族の姿を思い出す。
結婚してから何度か母と手紙のやりとりをしている。
ロベールは別にオリヴィアの行動を制限したりしないし、手紙の内容について聞いたりはしない。
その内容すらもわかっているのかもしれないが、その辺りは気にしても仕方ないし、見られて困ることなど書いていない。
「お父様とお母様、お兄様にもこのおいしいお肉を食べさせてあげたらな……」
きっと喜ぶことだろうと、そんな想像をしていると、その呟きを聞いていたロベールが右手を上げる。
「ディルムーン辺境伯に牛を一頭送ってくれ」
「……っ!?」
オリヴィアの手元で食器がカチャリと音を立てた。
彼の不思議そうな視線がここまで届く。
「ど、どうして……!」
「君が〝欲しい〟と言ったのだろう?」
「……ですが、そこまでしていただいてもいいのでしょうか?」
「当たり前だ」
こんなに贅沢をしていいのだろうかと、助けを求めるように周囲に視線を送る。
しかしマルセルもアイナスも微笑んでいるだけ。エリーも無表情で瞼を閉じていた。
ロベールも当然のように言っているが、誰もそれを止める人もいない。
「それと今日は買い物に行こう」
「買い物ですかっ!?」
さらに追加される提案に、オリヴィアの声が裏返っていく。
まだ何も返していないのに彼は与えてばかりだ。
このままだと借金が積み重なっていくような気がして、遠慮の気持ちが湧き出てくる。
「君は俺の妻だろう?」
「それは……そうですが、わたしはこれ以上なにも返せません」
「オリヴィアがそばにいてくれたらそれだけでいい」
「…………!」
ロベールの言葉にオリヴィアの眉がピクリと動く。
こちらを熱く見つめられているため、気まづくて視線を逸らす。
(こんな手のひら返し、聞いてないんですけど……)




