④③
オリヴィアは行き場のない気持ちを抑えながらロベールの隣へ。
わくわくしながら彼を見つめるようにしていた。
(休んだら勝負、休んだら勝負……!)
オリヴィアの見立てによれば、ロベールはとても強いはずなのだ。
それも肉弾戦となれば、力のぶつかり合いだ。
オリヴィアには持ち前の怪力があるため、負ける気はしなかった。
一瞬、ロベールの前で力を使ってしまったが、まだまだ油断しているに違いない。
(ふふっ……絶対に勝つわ!)
作戦を立てつつ、表情に考えていることがすべて出ていたオリヴィア。
ロベールがオリヴィアの顎に指を添えて、目を合わせるようにクイッとあげる。
強制的に合わさる視線に、驚きつつも彼の言葉を待っていた。
「頬くらい赤らめたらどうだ?」
「……どうしてですか?」
「これはなかなかに手強そうだな」
「見ただけでわかるのですかっ!?」
ロベールは恋愛面で言っていたのだが、オリヴィアは実力を評価されたと勘違いして喜んでいた。
大興奮でロベールを見ていたからか彼の視線がスッとそらされてしまう。
オリヴィアが首を傾げていると、ロベールはあることを提案する。
「ただ勝負するだけではつまらない。負けたほうが勝ったほうの願いを叶えるというのはどうだ?」
「いいのですか?」
そう言いつつ、オリヴィアは願いを考えていた。
だが、なかなか思いつかないため悩んでいると、ロベールが「辺境伯は一年で立て直せるかどうか……」と呟いた。
そのことでオリヴィアは自分が頼むべきことを思いつく。
「でしたら、ディルムーン辺境伯の立て直しを一年を超えても手伝ってください!」
「それだけでいいのか?」
「そ、それだけ……?」
ロベールの言葉に驚いて言葉に詰まってしまう。
しかしオリヴィアにとっては父と母、兄の未だ見ぬ結婚相手。
嫁いできた令嬢が幸せに暮らせる場所を用意したいと思っていた。
「あとは?」
「あと、ですか!?」
「ああ、他にはないのか?」
まさかの回答に何を言えばいいか、わからなくなってしまう。
ロベールに促されるままオリヴィアは考えていた。
(もっとということ? 欲しいものって何かしら……)
極貧生活の影響か、自分の欲しいものなんて後回しにし続けていた。
オリヴィアは唸りつつも自分の願いを考えて捻り出していた。
「あとは……領民が幸せに暮らせるようになれたら、と」
「金の援助か?」
「えっ!? そんなことしてくれるんですか!?」
「ああ、別に構わない」
オリヴィアは大きく目を見開いた。
辺境は戦地だったため、なかなか復興が進んでいない。
父は王家かはもらった報酬をすべて領民のために注ぎ込んだ。
そのおかげで短い期間ながらも普段通りまで生活は送れるようになってはいるが、まだまだ足りないのはたしかだ。
ロベールは店でパンを買ってくるくらいの気持ちなのだろうか。
オリヴィアは彼の真意を探ろうと目を細めて見つめていた。
だが、表情の変化はない。
公爵家とは、ここまですごいのかと感動していると……。
「それで、もう願いはないのか」
「えー……えっと…………はい」
「人のことばかりだな。オリヴィア自身は何か欲しいものはないのか?」
「わたしですか!? ありませんけど……」
今度はロベールが不機嫌そうに目を細めた。
どうやらロベールが聞きたいのはオリヴィア自身の願いは何かということらしい。
オリヴィアは一つ願いを思いついたのだが、もしかしたら笑われるかもしれないと口ごもる。
それに時間さえあれば自身の力で叶えることができるのかもしれない。
「なんだ?」
「べ、別に大したことでは……」
「そうか。その願いを言わない限り、俺は戦うつもりはない」
「……そんな!」
そうすればディルムーン辺境伯領や両親や兄の幸せのチャンスを失ってしまう。
顎が持ち上げられた手が頬を撫でる。
真剣な表情なロベールがこちらをじっと見つめている。
(いいのかな……強欲だと思われたら、もう二度と出してもらえないかも)
しかしオリヴィアの妄想はどんどんと膨らんでいく。
自然と呼吸は荒くなって、口内にはよだれが溢れ出る。
オリヴィアの願いはただ一つ。
いつも三切れほどしか出てこない肉をたくさん出してほしいということだ。
牛の肉は柔らかくて脂が乗っていて頬が蕩けてしまう。
なにより臭みがなくて食べやすいのだ。
赤身肉はさっぱりしているし、脂が乗った肉を食べた瞬間は毎回意識が飛びそうになる。
(あの味を想像したら……もうっ!)




