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札束でビンタから始まる怪力令嬢の勘違い契約結婚~お飾りの妻は最高です~  作者: やきいもほくほく
四章 近づく距離

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④②


「たしかに一年で離縁するなら特に気にする必要もありませんからね!」



オリヴィアは部屋の空気が一気に凍ったことにも気づかないまま、ちょうどいい温度になった紅茶が入ったカップを持ち上げた。



「はぁ……おいしい」


「…………」



ロベールは書類と仮面を置いて立ち上がった。

そしてオリヴィアの前へ。

腕を引かれたため訳もわからずに、紅茶をこぼしてまたワンピースを汚すわけにはいかないと、慌てて机の上にあるソーサーにカップを置いた。


至近距離にいるロベールに戸惑いつつも彼の言葉を待っていた。

まるで縋るようにこちらを見ているではないか。


(えっ……何? また何かしろということ?)


ロベールが徐々に近づいてきても避けることができない。

ついには唇が触れてしまいそうな距離に近づいていた。


オリヴィアはパチパチと瞬きを繰り返す。

それと朝ごはんを食べていなかったことや目の前に軽食が置かれていたことで、お腹がグウゥウゥと部屋中に響き渡るようなけたたましい音が鳴る。


それにはロベールも動きを止めた。

オリヴィアはチラリと自身の腹を見る。

それで終わればよかったのだが、胃が楽器のように音を奏で続けていた。

最後にキュウーンという鳴き声のように音が止む。



「……えへへ」


「ふ……くくっ」



ロベールが堪えるように笑いながら体が離れていく。



「もっと食事を持ってきてくれ。そのあとはゆっくり休むんだろう?」



ロベールの言葉にすぐにマルセルが動き出す。



「あ、ありがとうございます」


「他に何か望みがあったら言ってくれ」



そのままエスコートされるようになぜかソファへ。

食事が運ばれてくるまで、ロベールはソファに腰掛けながらオリヴィアに寄りかかっていた。


(ち、近い……!)


彼と出会ってからというものの、彼が何を考えているのかわかったことはない。

オリヴィアは戸惑っていたがあることを思いつく。



「でしたら今晩、初夜をいたしましょう!」


「…………は?」


「そろそろどちらが強いのか、決着をつけたほうがいいと思うのです」


「ああ……そうか。そうだな」



このとき、オリヴィアは久しぶりに体を動かせることが嬉しいと思っていた。

そしてロベールの唇が弧を描いていることにまったく気づかなかった。



──その日の晩。


夕方まで休んだオリヴィアは戦闘服を着てキックやパンチをしつつ、ロベールを待っていた。

エリーは着替えて落ち着くように言われたが、そうもしていられない。

ディルムーン辺境伯の娘として、勝負に負けるわけにはいかないからだ。



「そんな格好で動かれては……!」


「わたしはこの服、結構軽くて気に入っているけど……」


「そういうことではありません。 オリヴィア様は少々ずれています!」


「えっ? 戦闘服がずれてるの?」


「…………はぁ」



エリーはため息をついている。オリヴィアは露わになった胸元を直していた。



「これでよし……!」



毎晩オリヴィアは戦闘服を好んで着ていた。

軽い生地は重たいドレスや苦しいコルセットと違って開放感があり着心地がいいのだ。

何よりサラリとしたシーツと相性がよく、これ以上ないほどにぐっすり眠れた。

そのあともエリーは心配していたが、オリヴィアはマイペースに体を動かし続けた。


──コンコン


ちょうど体があったまってきたというときに、寝室をノックする音が聞こえた。

エリーは最後までどうするべきか迷っていたようだが、ロベールが足を踏み入れた瞬間に、深々と頭を下げて部屋から一瞬で姿を消した。


(彼女が素早く動けるのも、元蜘蛛の影だったからなのね)


オリヴィアが感心していると、目の前には白いシャツに黒いパンツでラフな格好をしているロベールの姿。

いつのまにかオリヴィアの前で男性の姿で現れ、変装もしなくなっていた。


体格もよく、背もオリヴィアよりは高い。

いつも着痩せしているのか、バキバキに鍛えた胸板がシャツの隙間から覗く。

兄のペリエほどではないが、仕上がった肉体に期待が膨らむ。


(どうやって子どもの姿になっているのか気になるわ……)


変装の技術が気になるところだが、ロベールは腕を上げて仮面を外した。



「仮面はよろしいのですか?」


「勝負には必要ないだろう?」



怪我人の治療をしてからというもの、ロベールのまとう雰囲気はだいぶ柔らかくなったような気がした。

ロベールはじっとオリヴィアの格好を見ると、なぜか顔を逸らしてしまう。



「いつもその格好でここにいるのか?」


「はい、毎晩ロベール様を待ってました」


「…………そうか」



なぜかロベールの頬はほんのりと色づいていく。

戦えることに昂っているのかもしれないと、オリヴィアは構えた。



「そろそろやりますか?」


「ああ、それもいいがとりあえずは少し休みたい」


「わ、わかりました」



やっとロベールの実力をみることができると思っていたが、しおしおと気持ちが萎んでいく。

ロベールはベッドに腰をかけて隣を手のひらで叩いた。


(ここに座れということかしら……)


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― 新着の感想 ―
この畳み込まれるような勘違いがもう楽しくて仕方がないです。
ロベールがオリヴィアに対しての感情が徐々に柔らかくなっていき素顔を見せていく様子ににまにましてます☆それなのにオリヴィアの初夜の認識やロベールに対してまだ何の感情も持ってないのがもどかしくて面白いです…
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