④①
そして影蜘蛛たちのことを家族のように心配して身を案じていた。
それを表に出せないだけではないだろうか。
今回、五人でグミーダ伯爵家のパーティーに潜入したそうだ。
簡単な任務のはずだった。なぜなら新人がいたからだ。
そんな中、失態を犯してしまい、情報が渡ることを恐れたグミーダ伯爵によって追われ、なんとか逃げ帰ってきたそうだ。
一番怪我がひどかった女性、マリアンが皆を庇い戦った。
最後はマリアンを運ぶために彼らは傷つきつつも、ここまで運んできたという経緯だそうだ。
「彼らに命を下したのは俺だ。情報を見誤ってしまった」
ぐしゃりと持っていた紙かな皺が寄った。
マルセルもアイナスも複雑な表情だ。
「彼らは何かを隠している。せめてアイナスをここに置いておけば……」
ロベールは影たちを気遣い、大切に思っているのだろう。
でなければこの言葉は出てこない。
領民を自分の家族のように思っている父の姿とロベールとが重なった。
今回の件で彼への印象が少しずつ変わっていく。
「ロベール様はお優しいのですね」
「なに……?」
こうしてエンバルト公爵家の情報を開示してくれたのも、オリヴィアのことを少しは信頼してくれたのかもしれない。
しかしすぐにロベールは不満そうな表情に切り替わった。
気まずくなったオリヴィアは、話題を変えるために口を開く。
「先ほどのお礼の件ですが……」
「何かほしいものがあるのか? 何でも言ってくれ」
何でもというあたり太っ腹なのだが、ドレスを汚して、侍女服をビリビリに破いてしまったオリヴィアがこれ以上何かを求めることはない。
「いいえ、何もないので大丈夫です」
「は…………?」
「今が幸せすぎるので、これ以上は必要ありません」
「幸せ、だと……?」
大きく目を見開いたロベールにオリヴィアは肯定するように頷いた。
「わたしの育ってきた環境や情報は知っているのですよね?」
「……まぁな」
極貧生活をしていたオリヴィアにとっては十分すぎる生活だった。
それから何度もロベールに欲しいものはと問われるが、オリヴィアが答えることはない。
「わかった。なら、数カ月後には王家主催のパーティーだ。ドレスを買いに行く」
「パーティー……?」
「そこで結婚したことを公にするつもりだ」
王都でのパーティーはすべての貴族たちの参加が義務づけられている。
オリヴィアも隣国との争いが終わったあとに一度だけ参加したことがあるものだ。
絵本に出てくる夢のようなお城で、パーティーに参加したことをぼんやりと覚えていた。
しかしまた新しいドレスを買う意味がわからなかった。
「ですがクローゼットにたくさんドレスがありますよ」
「それは普段に着るためのものだ」
「ふっ……ふだっ!? こんなに!?」
毎日、過ごすためだけにあんなに高級なドレスを着るのが当たり前だという意味がわからない。
(き、貴族って本当に貴族なのね……)
ロベールも当然だと言わんばかりの表情だ。
「オーダーは間に合わないか。既製品にはなるがサイズを合わせる時間くらいはあるだろう?」
「えっと……」
「君はエンバルト公爵夫人として表舞台に立つ。周囲の貴族たちに舐められるわけにはいかないからな」
今回、パーティーに出席するということはエンバルト公爵夫人として振る舞わなければいけないということだ。
しかしドレス以前に問題は山積みではないだろうか。
「わたし、まったくマナーを身につけていませんけど……!」
「積極的に講師の指導を受けていると報告を受けているが……」
ロベールは何が問題なのか、さっぱりわからないと言いたげだ。
「ですが……足りないことばかりですよ?」
基本的なことはできていても、令嬢としての教育は受けていないため、迷惑をかけることは当然だろう。
パーティーがどんな場所なのか、何をするのかいまいちわかっていないことも問題なのかもしれない。
「時間がかかるのは当然だ。それに基礎はできているのだろう? 問題はない」
「問題あります!」
「あとは時間が解決するはずだ。三カ月後にはまた違う」
厳しいことばかり言っているロベールだが、あくまでオリヴィアに完璧に振る舞うことを押しつけるわけではない。
そのことが意外に思えるのと同時に彼の優しさが見え隠れする。
「君は隣で微笑んでいるだけでいい。すべて俺がカバーする」
「もし失敗したら……」
「問題ない。多少の失敗ならばいくらでもカバーできる」
そう言って口角を上げたロベールの顔は若干恐ろしく感じてしまう。
「……すごい自信ですね」
「当然だ。俺を誰だと思っている」
「ロベール様ですけど……」
「……っ!」
ロベールと一瞬、目が合ったオリヴィアだったがすぐに視線を逸らされてしまった。
それにそこまで言われてしまえば、オリヴィアも気にする必要はないだろう。
「わかりました。お任せいたします」
「ああ」
「そういえば、わたしたちって契約結婚ですもんね」
「…………!」




