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札束でビンタから始まる怪力令嬢の勘違い契約結婚~お飾りの妻は最高です~  作者: やきいもほくほく
一章 札束ビンタ

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気にすることなく歩いていくが、何人か怪しい男性が後ろについてくる。

しかしオリヴィアに護衛は必要ない。

その辺にいる男より戦い方は知っていた。

呼び止められて裏路地に連れて行かれるたびに返り討ちにしていた。


(この格好が悪いのかしら。このままだと娼館で働けないわよね……どこかで着替えないと)


父を殴り飛ばしたあとに、いつかパーティーかお茶会に着ていこうと夢見ながら作ったドレスを持ってきていた。

六年前に着ていたドレスをなんとかリメイクしたものだ。

貴族の令嬢らしい服といえば、これくらいしか持っていない。


オリヴィアが辺りを見回しながら歩いていると、一際盛り上がっている場所があった。

しかもそこには女性たちばかりが集まっている。


(まさか……ここが娼館なのね!)


直感的にそう思ったオリヴィアは、すぐさまそこに向かった。

立派な馬車が止まっているため、貴族もいるのだろうか。

見たことはないが、ここが娼館だと確信したオリヴィアはジョセフィーヌを連れて、引き寄せされるように屋敷の門へ。



「なんて美しい馬なのかしら……」



思わず漏れた本音に、馬車を引く毛並みのいい馬に見惚れてしまう。

すぐさまジョセフィーヌがオリヴィアの頭に齧りつく。



「うそ、嘘よ! あなたが一番美しいんだから! 自慢の馬よ!」



ジョセフィーヌはオリヴィアにペッペッと唾を飛ばしつつも、当然だと言わんばかりに胸を張っている。

若干、馬車を引いている馬たちに引かれているような気もするが、ジョセフィーヌを褒めたたえながら機嫌をとっていた。

一度崩れるとなかなか治らないジョセフィーヌの複雑な乙女心。

このまま彼女が機嫌を直してくれないと辺境まで帰れなくなってしまう。


オリヴィアが慌てていると、一人の少年がこちらにやってくる。

ふわふわの金色の髪は襟足が長く結えていた。

まつ毛が長く、透き通るようなオレンジ色の瞳でドレスを着ていたら令嬢のように見える。

上品な燕尾服は少し大きめだ。


(すごく綺麗。でも……)


少年は小柄でオリヴィアよりも年下のように見えた。

けれど服の下に隠れた引き締まった肉体を見逃さなかった。

大きめな服で隠しているように見えるが、明らかに体つきがいい。

兄のペリエほどではないが、それなりにやり手なのではないだろうか。


(右手のひらを見てもそう。弓……? 投げナイフ? 体の重心も若干ズレているわ。それに……)


オリヴィアがじっと少年の体を見つめていると……。



「希望者でしょうか?」


「えっ、あっ……はい!」



オリヴィアは反射的に頷いた。

おそらく彼は娼館で働きたい女性たちを案内しているのだろう。



「でしたら馬をお預かりいたします」


「ありがとうございます。ですがジョセフィーヌは気難しくて……」



気に入らない人が触れると強烈な足蹴りをお見舞いするジョセフィーヌ。

オリヴィアも何度も食らって、ひどい時には肋骨が折れてしまったこともあった。

しかしオリヴィアがジョセフィーヌのほうを見ると、少年にベッタリと体を寄せて撫でてとアピールしている。



「どうやら大丈夫のようですね」


「すみません……ジョセフィーヌをよろしくお願いいたします」



オリヴィアが深々と頭を下げつつ、金髪の少年にジョセフィーヌを預けた。


そして女性たちが並ぶ最後尾へと急ぐ。

列を見ると観察するように後ろに向けられる視線。

ぼろぼろの服を着ている女性もいれば、身なりのいい人もいる。

列の少し前には、明らかに貴族だとわかる豪華に着飾った令嬢がいた。


(お金がなくてここにいるわけじゃないのかしら。あんなに着飾っているけど実は……とか?)


中には小さな子どもを連れた母親までいるではないか。

そういうオリヴィアも兄のお下がりの乗馬パンツスタイルで、あまりいい格好とはいえない。

持っているワンピースに目を向けるものの、列を離れるわけにもいかず着替えることはできないだろう。


列は門から屋敷の中へと続いているのだが、気になるのは屋敷から出てくる女性たちの様子だ。

ほとんどが泣きながらハンカチで目元を押さえている。

たまに顔を真っ赤にして怒り顔を歪めながら屋敷から出てくる女性もいた。


「こんなの、あんまりだわ……!」

「耐えられないっ! 私には無理よ」

「もうたくさんだわ。二度とごめんよ」


次々に出てくる人たちを見送りながらオリヴィアは緊張していた。


(……やっぱり大金が手に入る仕事は、採用も簡単じゃないのね)


屋敷の中に近づくたびに、女性たちの泣き声や怒鳴り声も大きくなっていく。

どんどんと順番が近づいていき、ある名前が耳に入る。


「やはりロベール様は恐ろしい方なのよ」

「裏世界を支配しているんだもの。当然じゃない」

「そんな方に選ばれることなんてあるのかしら……」


どうやらロベールというオーナーの男性がここを支配しているようだ。


(裏世界を支配しているなんて…………なんだかかっこいい響きね!)


そんな彼が部屋の奥で、女性たちを選別しているというのだろうか。

裏世界のボスに会えるのかもしれないとワクワクしていたオリヴィアは長い列でひたすら自分の番を待っていた。

その後ろにも列は続いていく。


怒号、泣き声、金切り声……中には激しい罵倒もあった。

驚いたのは貴族の令嬢が顔を真っ赤にして帰ってきたことだ。



「このわたくしを侮辱するなんて! 絶対に許しませんからっ」


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