③④ アリスside2
サンドラ・グミーダ
グミーダ伯爵家の長女で、アリスとは年が同じ十八歳だ。
そして堂々とロベールのもとに結婚を申し込んできた愚かな女。
プライドだけは高く、いつも豪華な装飾品をみんなに見せびらかしていた。
それがこんなにも切羽詰まっているとは思いもしなかった。
グミーダ伯爵家はたまたま豊かな土地があったため大金を得ていた。
鉱物は国内外からも人気を集めていたのだが、最近ではそれも枯れつつあるという噂だ。
プライドも高く、高級品に身を包むことで自分たちこそが三大公爵に相応しいと勘違いするほどだ。
王家に何度も宝石を献上していたが、彼らの爵位は上がることはなかった。
周りもそれほどにグミーダ伯爵家の勢いを警戒していたのだ。
しかし毎週開いていたパーティーが隔週になり、ついには一カ月に一度になっていく。
彼らは徐々に崩れていった。
しかし今までの贅沢すぎる暮らしを手放すことはできないと、ロベールと結婚してあげる、というスタンスで参加したようだ。
もちろんうまくいくわけがない。
彼女は怒りを爆発させ顔を真っ赤にして、逃げ帰ってしまった。
(サンドラを使えば、うまくあの生意気な女を引きずり下ろせるかもしれないわね)
アリスはロベールにエンバルト公爵邸に来ることは禁じられていた。
その間にサンドラを誑かしてしまえばいいのだ。
あの気色の悪い双子や穢らわしい蜘蛛たちに会わなくて済むのは清々するが、彼のそばにいられらないのは許せない。
アリスはすぐにグミーダ伯爵邸へと向かった。
怪訝そうな顔をしていたサンドラは、いつも豪華なドレスに身を包んでいたのに今はかなり質素だった。
男爵令嬢のほうがまだいい身なりをしている。
すぐにロベールにアピールするためにエンバルト公爵邸に訪れたことを思い出したようだ。
アリスは廊下に佇んでいたが、彼女は隣にいる侍女に怒っていることで気づかないフリをしていた。
社交界でアリスがロベールを好いているということは誰もが知っていることだ。
彼に近づこうとする不届者は、アリスが公爵家の圧力を使って全力で潰してきた。
サンドラはアリスが報復に来たのかと焦っていた。
いつもの余裕がある表情は消えて、怯えるように視線を逸らしてしまった。
どうやらまだロベールとオリヴィアの結婚は、まだ社交界に広まっていない。
それは彼が情報管理を徹底しているおかげだ。そんなところにも惚れ惚れしてしまう。
「あなたに頼みたいことがあるの。もちろん聞いてくれるわよねぇ?」
「な、なんでしょうか……」
明確な表現はしないが、サンドラは何を言いたいのか理解しているのだろう。
アリスは余裕な表情で笑みを浮かべているのに対して、サンドラはこちらから目を背けていた。
「ロベール様に近づく、ある女を排除してほしいの」
「どうして、わたくしに……?」
アリスから笑みが消える。サンドラがロベールに近づいたことを許したわけではない。
彼女にはそれ相応の罰を受けてもらわなければならないのだ。
「あなたがロベール様に結婚を申し込んだからに決まっているじゃない」
「……!」
「本当は気づいているんでしょう?」
アリスはサンドラを睨みつけながら首を傾げた。
「で、でしたらわたくしだけ責めるのはおかしいですわ! 他にも何人か令嬢がいらしたのにっ」
「ああ……それなら大丈夫よ。このあと全員処罰する予定だから」
「──ッ!」
「一人残らずわたくしが潰すの」
サンドラの腕がガタガタと震え始める。
彼女は震えを抑えるように自らを抱きしめるように腕を回した。
「わたくしを騙そうとするなんて許せるはずないでしょう? でもあなたは堂々とやってきた……ねぇ?」
「……っ!」
「今、困っているんでしょう?」
「そ、そうです……お父様にっ、どうしてもと言われて……わたくしら嫌だった。それにあんなお姿を見て結婚なんてしたくありませんわ!」
サンドラは涙目でそう訴えかけた。
あれはロベールの本当の姿ではない。
そんなことにも気づかずに彼を否定するのは許せないが、気持ちはないと言いたいのだろう。
(でもダメ……あの場にいた時点でお前は終わりなのよ)
グミーダ伯爵はサンドラを使い金と名誉を得て、あわよくば家を立て直そうとした。
他の令嬢たちも同じような理由でやってきた。そして彼に追い返されたのだ。
それにサンドラが目立っていたことで、他の令嬢は隠れられたつもりだろうが、アリスはすべてわかったうえで泳がせているだけだ。
エンバルト公爵邸に行けないうちに全員、処罰するつもりだった。
「だからサンドラ、あなたにチャンスをあげる」
「チャンス?」
サンドラは顔を上げてアリスを見た。
「うまくいったら、レディズリー公爵家があなたを助けてあげる」
「…………え?」
「わたくしたちは社交界を華やかにする蝶……素晴らしい宝石を扱うグミーダ伯爵家とも相性がいいと、ずっと前から思っていたのよ」
「本当、ですか……?」
アリスの唇が綺麗に弧を描く。
「今回のことがうまくいったら、お父様に口添えしてあげてもいいわ」
サンドラは先ほどまで怯えていたのに、今は瞳を輝かせていた。
それほどまでにグミーダ伯爵家は追い詰められているのだ。
この不味い紅茶や粗末な茶菓子がそれを物語っている。
(成功すればお父様にお願いすればいいし、失敗したら切り捨てればいいわ)
それにアリスが父や兄たちに溺愛されていることは周知の事実だ。信憑性も増すことだろう。
(バカな女……こんなにも落ちぶれた令嬢を、このわたくしが使ってやるんだから感謝してほしいわ)
アリスはサンドラにエンバルト公爵に入り込もうとする悪女がいることを話していく。
オリヴィアの特徴を伝えていた。
彼女が国の英雄でもある辺境伯の娘であることは知らないだろう。
「その女性はもしかしてエンバルト公爵の妻……」
「──そんなわけないでしょう!?」
アリスはテーブルを思いきり叩いて怒鳴りつけた。
食器がガチャリと音を立てた。
サンドラは怯えているのか「ひっ……!」と声を上げたあとに肩を揺らした。
「その女をどこかに捨ててきてほしいのよ」
「す、捨てる……?」
「あなたの家って、そういうのが得意でしょう?」
「……っ!」
アリスはグミーダ伯爵家が裏で何をしようとしているのか知っていた。
金に執着している伯爵は悪事に手を染めている。
その噂はもう社交界で回り始めている。
社交界の一部では有名な話だが、ここまで言えば十分だろう。
サンドラはゆっくりと頷いた。
「サンドラ、頼むわね」
「…………っ、はい」
「失敗したら許さない……必ず成功させなさい」




