③⓪
「というのは嘘だ」
「……はい!?」
「このくらいで代金を請求するわけないだろう?」
人が真剣に悩んでいるのにもかかわらず、平気で嘘をついたロベールを信じられない気持ちで見つめていた。
今すぐ、その仮面を叩き割ってやりたい。
ギリギリと奥歯を噛み締めていると、ロベールほオリヴィアの髪を一束掴んだ。
今度はなんだと、その行動を凝視していると……。
「君のせいではないんだろう?」
「そうですけど……」
「ならいい。今回の件はレディズリー公爵に話させてもらう。ドレスも彼に弁償してもらえばいい」
オリヴィアはドレスのことよりも気になることがあった。
「あの……わたしを信じてくれるのですか?」
「当たり前だ」
「……っ!」
当然のようにオリヴィアを信じてくれたことで、彼への好感度がグッと引き上がる。
「それにすべて感情が表に出ている。うまく嘘をつけるようには見えない」
「…………」
そしてすぐに下がっていった。
アリスとロベールの関係性がいまいちよくわかっていないオリヴィアにとっては様子見するしかないだろう。
「それと、俺は愛妻家で君のことが好きでたまらないという設定にする」
「…………はへ!?」
「そうしたほうがいろいろと都合がいいからな」
何の都合がいいのか、ロベールは言葉足らずすぎてまったくわからない。
彼がわからないのは最初からなので、これ以上気にしなくてもいいだろう。
「アリスのドレス代は請求されるかもな」
「ヒュッ……!」
喉が変な音を立てた。一瞬で背筋が凍りつく。
オリヴィアは彼女に冷めていたとはいえ紅茶をかけてしまった。
彼女のドレスはオリヴィアが見ても高級だとわかる。
ということはアリスのドレスを汚してしまった罪は重いのではないだろうか。
ロベールはレディズリー公爵に弁償させると言ったが、アリスのドレスを弁償するのはロベール……オリヴィアではないだろうか。
「ご、ごっ、ご、ごめんなさい……!」
「……」
「わざとじゃないんですっ、骨を折るよりはいいかなって……! あっ、でも治療費が……! 今度から紅茶には気をつけますのでぇ」
先ほどの勢いは一気に消えてしまい、寒さに耐える動物のようにプルプルと震えていた。
焦りからうまく言葉を紡げない。
おそらくオリヴィアが見たことがないほどの大金が必要な高級なドレスなのだろう。
「フッ……!」
「なっ! ロベール様、笑っている場合ではありませんよ!」
「君が着ていたのもアリスのものと同等のドレスだ。今回はおあいこだな」
「はぁ……よかったぁ~」
どうやらアリスのドレスもオリヴィアが着ているドレスも値段は変わらないらしい。
それゆえに、お互いさまなため弁償しなくてもいいようだ。
安心した瞬間、体の力が抜けていく。
ロベールが口元を押さえて笑っていることにも気づかずに、胸元を押さえている腕に注意が向く。
(エリーを呼んで着替えたほうがいいわよね。普段は侍女服を貸してもらおうかしら)
いいことを思いついたと、オリヴィアは顔を上げた。
そうすれば汚したところで、ドレスよりはマシな値段で買い取ることができるのではないか。
(それにこんなふわふわしたドレスは動きにくいのよね。特別なときだけで着れたら十分だわ)
できれば今すぐにコルセットを緩めてほしい。
無理な態勢や座り込んでいるためか、コルセットが食い込んで苦しいのだ。
目の前にいる退く気がないロベールを見て口を開く。
「ロベール殿下、着替えたいので部屋を出て行ってくれますか?」
「…………」
こちらをじっと見つめたまま何の反応も示さない彼に疑問を持っていた。
(どうしたのかしら?)
オリヴィアが疑問に思っていると、いきなりロベールが仮面を取った。
端正な顔立ちがあらわになり、彼の美しい素顔に釘付けになる。
クールで切れ長の目元にスラリとした鼻立ち。
形のいい唇を見るとどうして仮面をつけているのかまったくわからない。
中性的な顔立ちは人間味がなく、冷たささえ感じた。
スカイブルーの瞳はまっすぐにこちらを見つめている。
(これが本当の素顔なのかしら……そんなわけないわよね)
そう思っていると、急にロベールがオリヴィアを押し倒した。
胸元でドレスが下がらないようにと必死で押さえているため、されるがままだ。
驚くオリヴィアを気にすることなく、ロベールは覆い被さった。
──ギシッ
ベッドが軋む音が聞こえた。
何をするつもりなのかわからずに彼の動きを注視していると、衝撃的な言葉が耳に届く。
「このまま初夜にするか?」
クラバットに手をかけてするりと抜いたロベールを見て、オリヴィアの心臓はドキリと音を立てる。
(ま、まさかわたしが不利な状況で勝負を始めるつもり!? なんて卑怯なの!)
オリヴィアは胸元を気にしている場合ではないと、彼の肩を押そうと腕を伸ばす。
しかし彼は首元に顔を埋めた。くすぐったさに身をよじる。




