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札束でビンタから始まる怪力令嬢の勘違い契約結婚~お飾りの妻は最高です~  作者: やきいもほくほく
三章 思惑

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28/34

②⑧

アリスが今さらだと言わんばかりに声を上げたが、オリヴィアも負けてはいられない。



「なので、このドレスを汚したのはわたしではありません!」



自信満々にそう言いきったオリヴィアに、アリスは何が言いたいのかわからずに戸惑っているようだ。

オリヴィアの目的はただ一つ。借金を重ねないことだ。

そこだけはロベールにアピールしなければならないし、譲れないではないか。


ロベールはアリスの元を離れてこちらへとやってくる。

ジャケットを脱いだことで、あることを察した。

もしかしてここで〝初夜〟をするのかもしれない……と。


(まだ準備運動をしていないのに……!)


しかしいつでも戦えるようにと幼い頃から訓練してきた。

オリヴィアが戦闘態勢をとろうたした時だ。


何かがオリヴィアの触れた。

ふわりと香る優しい匂い。どうやらジャケットを肩にかけてくれたようだ。

訳もわからずに彼を見上げる。

すると今にも噴き出して笑い出してしまいそうなロベールの顔があった。



「ロベール様?」


「胸元が赤くなっている。部屋に行こう」


「…………へ?」



オリヴィアの胸元を見ると、たしかにほんのりと肌が赤くなっている。

アリスが淹れたばかりの紅茶をかけたのが原因だろう。

オリヴィアがアリスにかけたときはもう冷めていたため、肌も赤くなることはなかった。



「ま、待ってください! わたくしも手首が腫れて痛くて……っ」



ロベールを引き止めるためなのか必死にアピールするアリスは腕を上げた。



「折ってはいませんし、そこまで強く力を入れていないので、跡はすぐに消えますよ?」


「…………は?」



オリヴィアの言葉通り、アリスの手首の赤みはもうすっかりなくなっていた。

彼女の肌が白いため跡が残りやすかったのかもしれない。




「それにわたしは……ぎゃっ!」



言いかけたところでロベールは軽々とオリヴィアの体を抱え上げた。

不意をつかれたため、口から変な声が漏れる。

反射的にジャケットが落ちないように押さえたオリヴィアはロベールにされるがままだ。

アリスのドレスと同じ、薄ピンクの瞳が大きく見開かれているのが見えた。



「オリヴィア、足の甲が赤く腫れているな」


「……っ!」


「歩けないだろう? 俺が部屋まで運んでやる」


「いえ、大丈夫です! 自分で歩けますからっ」



オリヴィアがいくら大丈夫だと抵抗しても、ロベールは放すつもりはないようだ。



「……なんで…………ありえない」


「ドレスが汚れている。帰ったほうがいいのではないか?」


「そ、そんな…………っ」


「しばらくは新婚生活をオリヴィアと二人きりで過ごしたいんだ。ここには来ないでくれ」



ロベールはアリスを挑発するようにオリヴィアの頬に口付けた。



「わたくしは、わたくしはオリヴィア様にこんなふうにされたのですよっ!?」


「アリス……この俺が、気づいていないと思うのか?」


「ひっ……!」



ロベールの声にアリスは肩を揺らした。

彼に睨みつけられたアリスは何も言えずに押し黙る。

俯いて震えている彼女を放置して、背を向けて歩き出した。



「ちょっ……!? 降ろしてください」


「……うるさい」



二人きりになった途端に、ロベールの声は冷たいものとなる。



「待って……! ロベール様っ」



アリスが名前を呼んでもロベールは無視してオリヴィアと共に去ってしまった。

一人残されたアリスに声をかけるものは誰もいなかった。


なぜかロベールに抱えられたまま、どこまでも長い廊下を歩いていく。

チラリと視線を送ると、彼がこちらをじっと見つめているではないか。


(も、もしかしたらドレスのこと怒ってる……?)


こんな女性らしい扱いをされたのが初めてなため、どうしたらいいかわからない。

いつのまにかマルセルが隣にいて、部屋の扉を開けてくれた。



「マルセルさん、ロベール様を止めてくださいっ」



オリヴィアの叫びは虚しく、マルセルはにこりと微笑んだまま何も言うことはない。

マルセルが開けた扉の部屋に入ると、二人の寝室だということに気づく。

そのままベッドに投げられるように降ろされて声を上げた。

ロベールがオリヴィアに覆い被さるようにして抱きしめてくる。



「……何をっ!」



背に腕を回した彼がなにをしているのかわからなかったが、手慣れた様子でドレスの紐を外そうとしている。



「嫌っ、離して……!」



咄嗟に拒絶するように手を伸ばしたところでハッとした。


(しまった……! ロベール様の骨が折れてしまうわ)


この手がロベールに当たれば間違いなく無事では済まない。

母から怪力を受け継いでいるオリヴィアは、いつも何かをするときは力がかからないように意識していた。


でなければ、すべてのものを木っ端微塵にしてしまうからだ。

幼い頃からそれはそれは細心の注意を払って生活してきたつもりだった。

でなければ、相手の骨など枝を折るように簡単に折れてしまう。

父と兄のような特殊で頑丈な体質でなければ耐えられるはずがないのだ。


しかしオリヴィアの予想とは違うことが起きた。


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