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札束でビンタから始まる怪力令嬢の勘違い契約結婚~お飾りの妻は最高です~  作者: やきいもほくほく
三章 思惑

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25/32

②⑤


「わたしでよければ……是非」


「嬉しいわ。たくさんお話ししましょう……ね?」



ぞくりと不穏な空気を感じたオリヴィアは、彼女を傷つけないようにそっと手を払う。

アリスが何かをしてくるのは間違いなさそうだが、今はついていくしかないようだ。


(契約解除されたら大変だもの……!)

   

アリスに促されるようにして中庭へと向かう。

そこには咲き誇る色とりどりの花々や真っ白なベンチに噴水まであるではないか。

あまりに立派な庭にオリヴィアは感嘆の息を漏らす。


ガゼボがあり真っ白なアンティークテーブルの上には、ティースタンドや薔薇が描かれた紅茶のカップがあった。


(貴族の暮らしって、本当にこんな感じなのね……お母様の言っていた通りだわ)


幼い頃に母から聞いていた貴族の令嬢として過ごした話は、半分夢物語だと思って聞いていた。

なぜなら辺境での暮らしはまったく違うからだ。

それが今、美しいドレスを着てお茶をしようとしていることが信じられない。


侍従が椅子に触れた。アリスの真似をしつつ、オリヴィアも席に着く。

椅子に座り、侍女が慣れた様子で紅茶を入れるのを釘付けになっていた。

もしかしたら今後に役に立つのではないかと思ったからだ。


紅茶の飲み方も彼女の真似をすれば、本物の令嬢になった気分でオリヴィアのテンションは上がっていた。

気まづい沈黙が流れているのにも気にすることなく、オリヴィアは花の香りのする紅茶の味に酔いしれていた。


(これが貴族の紅茶……! わたしは今、高級な紅茶を飲んでいるんだわ)


井戸から汲んだ水を煮沸して飲んでいたオリヴィアにとっては未知の味だ。

何回か紅茶自体は母の生家から送られてきたものを飲んだことはあるが、母の淹れ方が悪いのか苦味と渋味でいい思い出はない。

紅茶素人のオリヴィアですらわかる味の違い。

これは母に話したいと思いつつ、今度こそティースタンドに載せられている甘いお菓子を食べたいと考えていた。



「オリヴィア様、あなたがロベール様と結婚したって本当なのかしら」



アリスの問いかけが遠くに聞こえた。

オリヴィアは紅茶とお菓子に夢中だった。

彼女がお菓子に手をつけてくれなければ、作法もわからないため食べることができない。

アフタヌーン一番下から食べていくという知識はあるものの、アリスより先に食べていいのかまでわからなかった。



「わたくし驚きましたわ。まさかロベール殿下に近づける方がいらっしゃるなんて」


「……じゅる」


「何……?」


「なんでもありません!」



アリスの仄暗い表情はオリヴィアのよだれ……水音によって遮られてしまう。

顔を背けてよだれを啜ったオリヴィアは誤魔化すように笑みを浮かべた。



「どうやってロベール様のお心を射止めたのかしら」



人形のようなアリスから次々と言葉が紡がれていくことに感動していると、彼女から「聞いているの?」と圧のある声が聞こえて、思わず首を横に振る。



「まったくわかりません」



言葉通りだった。

彼が何を基準にオリヴィアを選んだのか、それを知りたいのはこちらのほうだ。


(……丈夫そうだから、とかじゃないかしら)


ディルムーン辺境伯の娘ということも、後から知ったようだった。

となれば、彼を見ても札束でビンタされても泣かずにいたからではないかと推察できる。


(きっとわたしの前の人たちは札束ビンタに耐えられなかったのよ)


本当の理由は不明だが、オリヴィアはそう思っていた。



「……随分と余裕なのね」


「え……? 本当に理由はわからなくて……」


「何もしていないのに、と言いたいのでしょう? 嫌味なのかしら……許せないわ」


「???」



どうやら何を言っても捻くれた解釈をされてしまう。

これ以上、何かを発するのは得策ではなさそうだ。



「ロベール様は女性嫌いなはずなのに……なんでオリヴィア様は平気なのかしらね」



最初から金で妻を買おうとしていたことをアリスは知らないのだろう。

先ほどから彼女の話を聞いていて思うが、ロベールを神格化しているような気がしていた。



「どうして令嬢としても女としても不出来な子を選んだのかしら。美しくもないなんて最悪よ」



ロベールは外見で選んでいるようには思えなかった。

札束で頬を叩かれても食いつくような強さやお金への執着。

さまざまなことに関する耐久力を見ていたような気がしてならなかった。

双子を使って驚かせようたしたことも、札束でビンタされたことも、威圧的な姿で脅してきたことも、そんな理由があるのではないだろうか。



「……刺激的な出会いだったもので」


「ふーん……刺激的、ね」



言葉を選んだつもりだったがアリス相手には意味がないようだ。

オリヴィアは紅茶を持ちながら、誤魔化すよう笑みを浮かべる。



「なんでこんなことになっちゃったのかしら。不思議だわ……」


「えぇ、そうですね。不思議です」




(わたしが一番聞きたいわ。どうしてロベール殿下と結婚することになったのか……援助してもらえるのは嬉しいけど)


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