②③
「なら、普通に話しましょう。あなたのことが知りたいの」
オリヴィアが笑顔で話すと、彼女の体のこわばりが解けていくような気がした。
ポツリ、ポツリと彼女自身のことを話してくれた。
少しではあるがエリーのことが知れたところで衝撃的なことを言われる。
「そろそろ講師の方がいらっしゃる時間です。準備いたしましょう」
「……講師?」
「旦那様から聞いていませんか?」
オリヴィアは講師という言葉に、馬車でロベールがそんなようなことを言っていたようなと、曖昧な記憶を絞り出す。
なぜならオリヴィアは寝ぼけていたからだ。
『これから公爵夫人として……もらう』
『は、え……?』
『必要以上に社交界に出る……はないが、必ず出なければ……ものも存在……』
ロベールが何か言ったことが途切れ途切れに思い出すことができた。
しかし眠たかったせいか、その記憶は途切れ途切れだ。
『おい、聞いているのか?』
『はあい、わかってますけどぉ……』
半分夢の世界に行ってしまったオリヴィアは、このことだったかと改めて納得していた。
「こちらは一旦下げますね」
「…………ッ!?」
再びお菓子たちを口にする機会を失い、愕然としていた。
その場から動けないオリヴィアは、講師たちに教育を受けるのが嫌だと思われているのか。
また一人、また一人と侍女が増えていき、ある部屋へと案内される。
そこにはお湯が用意されており、いろいろな花が浮かんでいる。
(な、なに……!? これはどういうこと?)
そのまま湯船に浸かって、人に体を綺麗にしてもらうという経験に終始放心状態だった。
そのまま髪を水っ気がなくなるまで綺麗な布で吸い取り乾かす。
体や髪にいい香りのする油のようなものを塗りながら何かなんだかわからないままメイクをしていく。
髪を整えられたかと思いきや、コルセットを締めていく。
されるがままだったオリヴィアは初めて悲鳴を上げた。
母が当然のようにつけていたコルセットだったが、オリヴィアは好きではなかった。
上半身が搾り取られるような苦痛に身悶えていた。
(今までの戦闘訓練とはまた違った苦しさだわ……!)
少し声を出すだけで口から内臓が飛び出してしまいそうだと思っていると、目の前にあるクローゼットが開く。
そこには端から端までぎっちりと美しいドレスが詰め込まれていた。
今にも何かを吐き出すのを我慢していたオリヴィアは一瞬でその光景に目を奪われる。
嘘みたいな光景だった。
たしかにロベールはオリヴィアのドレスを用意してくれると言っていたが、ここまでの規模とは思わずに驚くばかりだ。
あのボロボロなワンピースがいらないという理由もわかる気がした。
「どれにいたしますか?」
「エ、エリーに任せるわ」
「かしこまりました。本日はこのドレスにしましょう」
エリーは慣れた様子で準備していく。ドレスを着ると自然と背筋が伸びる。
まるでお姫様のような自分の姿が鏡で映る。
「これ……誰?」
「オリヴィア様です」
エリーは淡々と答えてはいるが、あまりの感動にオリヴィアは涙目になっていた。
しかし感動は長くは続かなかった、
次第にその顔はコルセットのせいで険しくなり、苦痛に歪んでいく。
(こんなふうにオシャレをしたのは初めてで嬉しいはずなのに、コルセットのせいで半減だわ。貴族の令嬢って楽しいことばかりだと思っていたけど……)
圧迫感は耐え難いものではあるがこれはある意味、訓練だと言い聞かせればなんともない。
腹部の苦痛を我慢するだけなら、慣れてしまえばいいのだ。
(毒キノコや毒草を食べたときの腹痛に比べたら天国みたいなものよ……!)
エリーとともに長すぎる廊下を歩き、また違う部屋へ向かう。
ロベールに案内されたとはいえ、何個も同じような扉があり、迷ってしまいそうだ。
それにしても、蜘蛛の影たちを含めてもすごい人数が屋敷にいることがわかる。
(公爵だけでもすごいのに、三大公爵って別格なのね……)
扉を開くとそこには上品な女性とアリスの姿があった。
アリスはオリヴィアを見て目を細める。
(なぜアリス様がここに……?)




