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快適すぎる時間が過ぎていき、体が痛くなってきた頃にエンバルト公爵邸に到着する。
眠ってばかりで固まっていた体をほぐしていた。やはり馬での移動のほうが楽だ。
腰をトントンと叩きながら馬車を降りようとすると、先に降りたロベールから伸ばされる手。
(貴族の令嬢みたい……!)
オリヴィアは感動しつつ、彼のエスコートで馬車を降りた。
(まさかわたしがこんな素敵な屋敷で暮らす日がくるなんて……まるでお姫様みたいね)
エンバルト公爵領はとても人に溢れていた。
綺麗な街並みと見慣れない建物に囲まれていて自然はないようだ。
貴族の、それも公爵家の屋敷に足を踏み入れるだけで体は緊張してしまう。
門には少年が一人立っていた。
彼はアイナスと双子のマルセルだった。
相変わらず感情は読めずに、にこやかに微笑んでいる。
それと彼の隣には人形のように佇んでいる少女の姿。
彼女はロベールを見た瞬間、パッと瞳を輝かせた。
しかしその隣にいて、彼の手に触れているオリヴィアを見た途端、その顔は一気に険しくなる。
(馬車の中でロベール様から簡単に説明は受けたけど……)
彼女はアリス・レディズリー。
エンバルト公爵と同じ、三大公爵と同じでレディズリー公爵家の娘だ。
レディズリー公爵家の人間はとにかく蝶のように華やかで美しい。
それは男性も女性も変わらないそうだ。
人形だと見間違えるほどに整っている見た目で、ロベールとは幼馴染のようなものだと説明を受けた。
アリスはロベールにかなり執着しているそうだ。
本当は自分が妻になりたいと思っていると聞いて、オリヴィアは驚いていた。
もう彼女は彼の妻だと思っていたからだ。
『どうしてアリス様を妻に迎えないのですか?』
そう問いかけると、ロベールは冷たくオリヴィアを睨みつけた。
あまりにも厳しい視線に、彼女に何か恨みでもあるのではないかと思ってしまう。
『アレを妻にして、俺に何かメリットがあると思うか?』
『それはわたしにはわかりませんけど……』
それは彼がいつもアリスに向けている視線なのだろう。
『だろうな。とにかくアリスにはなるべく関わるな。マルセルもアイナスもアレを止められない。何かされそうになったらなるべく俺のそばにいろ』
『はい。わかりました』
『アレに耐えるのも契約内だ』
なんとなくあそこまでして妻を選んでいたロベールの行動の理由がわかってしまった。
そして大金を積まなければならない理由もだ。
(アリス様……相当やばいのかしら。あんなに美しくて、かわいいのに……)
今はまだアリスがどう出るかはわからない。
マルセルたちも、アリスがレディズリー公爵家である限り、下手に手出しができないということだろう。
そんなことを考えているとアリスと目が合う。
思いきり睨みつけられてしまい、殺意と敵意をむき出しにしていた。
しかしロベールが隣にいることで、すぐに表情が切り替わる。
先ほどまでとは別人のように、かわいらしい表情を浮かべながらロベールの元へ。
横にいるオリヴィアなどまるでいないかのように無視してアリスはローベルの腕に自身の体を寄せた。
彼女に弾き飛ばされてヒールで足を踏まれそうなことを察知して、オリヴィアはサッと体を避ける。
「ロベール様、ごきげんよう。今日も麗しいですわ」
「……アリス」
「お会いできなくて、わたくしはとても寂しかったわ!」
アリスはロベールに抱きついて体を寄せた。
まるで自分のものだと見せつけているようだが、オリヴィアはそれよりも気になることがあった。
(アリス様って、こんなに話す方なのね。意外だわ)
人形のような彼女がこんなに喋り出したことに驚くばかりだ。
ぶりっ子全開のアリスの勢いに、オリヴィアは感心していた。
初めて見る女性のタイプだということも大きいからだ。
「アリス、いい加減にしてくれ」
「嫌よ!」
「どいてくれ」
「待ってください! ロベール様、わたくしの話を……っ!」
彼に触れようとするアリスを蜘蛛の影たちは止めようかと迷っているようだ。
しかしロベールは大丈夫だというように手を上げて彼らの行動を止めた。
ロベールはアリスの言葉を遮り、オリヴィアに声をかける。
「オリヴィア、行こう」
「は、はい……!」
ロベールはオリヴィアをエスコートしつつ、屋敷の中へと向かう。
これで諦めるかと思いきや、アリスはオリヴィアの前に立ち塞がる。
「ごきげんよう。あなたはどうして彼と一緒にいるのかしら?」
「……え、あの」
アリスの目は血走っていて正気だと思えない。
オリヴィアが答える前にロベールが答える。
「……彼女は俺の妻だ」
そう言った瞬間、その場が凍りついたように静まり返る。
「アリス、そこを退いてくれ」
ロベールとオリヴィアが歩いていく。
オリヴィアがアリスの横を通り過ぎた瞬間だった。
「…………絶対に許さない」




