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札束でビンタから始まる怪力令嬢の勘違い契約結婚~お飾りの妻は最高です~  作者: やきいもほくほく
一章 札束ビンタ

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まとまった金が入ってきても父が事業を起こして失敗を繰り返すことだ。

手元に残るわずかなお金で、やりくりするしかない。

今日もオリヴィアは食費の節約のために裏の山で獣を狩り、野草を集めたばかりだ。


一応、貴族の令嬢として生まれたはずなのに、どうしてここまで苦労しなければならないのか。

普通の貴族の令嬢はパーティーに舞踏会、お茶会に忙しいそうだ。

オリヴィアも一応マナーを母から教わったものの、実際にパーティーに出たのは社交界デビューした六年前だけ。

戦いが終わり、ディルムーン辺境は英雄のように讃えられた。

その時のことが今は夢のようだ。


それから両親と兄のペリエだけで参加。次は両親だけでパーティーへ。

父だけの出席と年々参加していく人数は減っていき、ここ二年間はまったく参加できていない。


戦いが終わり、一時期は素敵な令息と結婚することに憧れていた。

六年前も母譲りの怪力を隠すことに必死で、パーティーで積極的になれなかったことや、かわいらしい令嬢を助けるために怪力を使ってしまい、逃げるように帰ってきたことも悔やまれる。

自分とは真逆のさらさらした金色の髪とぱっちりとした青い目がとても美しかったことを今でもよく覚えている。


(懐かしいわ……もう六年前だものね)


オリヴィアは今日もピンクブラウンのゴワゴワの髪をとかしながら、ひび割れた鏡に映る生気のないパープルの瞳を見つめていた。

この瞳は父譲りで、王家の血を引いている証だった。


父に誰かに頼るべきだと提案したとしても、プライドからか言い出せないようだ。

領民や共に戦ったものたちを自分の家族同様に大事にしているため、税を上げることもできない。

彼らの生活はやっと安定してきたのだ。

それに父を慕った領民たちは食材をお裾分けしてくれている。

ギリギリの生活を隠し続け、平然を装っているがなかなかに厳しい状況だ。


つまり血筋はよくとも、それだけということだ。

後継は兄がいるからいいとしても、社交界にも出ずに得体の知れないオリヴィアに結婚の打診が来るわけもない。



「はぁ…………」



それから父の事業が成功することを祈るばかりなのだが……。



「オリヴィア、聞いてくれ! 今回の事業は絶対に成功するっ」


「お父様、そう言い続けてもう二十五回目ですよ? それにうちは借金はあっても自由に使えるお金はありません」


「そう言うな! 今回はこの屋敷を担保に……!」


「──ッ!」



オリヴィアは顔面蒼白になり、言葉も出てこなかった。

しかし背後からガタリと大きな音が響く。

状況を確認するために振り向くと、そこには母のミリが倒れていた。

洗濯物を持っていたのか、周りには服が散らばっていた。



「──お母様!?」



オリヴィアは急いで母の元へと駆け寄った。



「もう…………限界……っ」



掠れた小さな声が耳に届いた。

目尻からはとめどなく涙が溢れていく。

擦り切れて冷たくなった手のひらがオリヴィアの服を掴む。

その手は傷だらけで震えており痛々しい。


母は今まで父に意見することはなかった。

彼を信じてここまで支えてきたが、今回のことでプチリと我慢の糸が切れてしまったようだ。



「ミリ、大丈夫か……! 今、医師をっ」


「医師を……呼ぶお金なんてウチにはないわ」


「え……?」



オリヴィアは瞼を閉じて俯いた。その通りだったからだ。

母がぽつりと呟いた声に、父が目を見開いた。

オリヴィアの手を借りて起き上がった母は、覚束ない足取りで父のもとへ歩いていく。


父が腕を伸ばして、母を支えようとしたときだ。

母は父の腕を食い込むほど掴むと、引っ張り上げると大きな音とともにそのまま壁に体がめり込んだ。

ズルズルと尻を突き出しながら、へたり込む父を黙って見ていた。


こうなった母を止められる者は誰もいないとわかっていたからだ。

母が極度に人見知りなのは、人並み外れた怪力を隠すためだ。

その細腕のどこに力があるのか……そのまま足を掴むと重力を無視して父が宙を舞う。



「オリヴィアとっ、わたくしに迷惑をかけて……っ! 絶対にっ、許しませんからっ」


「ぐっ……! ブッ……! グエッ! ま、待て……ギャッ」



父の体が壁と床に打ち続けられているため会話が成り立たない。

原型がわからないほどにボコボコになった顔の父を放置した母は、眉を八の字にして涙を拭いながらオリヴィアの元へ。



「このままここにいてもオリヴィアが幸せになれないわ。わたくし、この人と離縁するから……!」


「お母様……!?」


「フゴバゴ……! ベッベェッ!?」



父は頬が腫れてしまい何を言っているかわからないが、おそらく母を引き留めているのだろう。



「落ち着いて、お母様……!」


「いいえ、落ち着いていられない。あなた、すぐに手続きをしてちょうだい。それと侯爵家に連絡して! オリヴィアだけはなんとしてもわたくしが……っ」



そう言いかけたところで、母はフラリとよろけてしまった。



「──お母様っ!」


「ミリッ!?」



オリヴィアはなんとか母を支えるが、勢いあまってそのまま一緒に倒れてしまう。

肌が湯のように熱い。荒く息を吐いている。

いつもの母とは様子が違い、かなり無理をしていたことに気づく。



「お父様、医師を……!」



今すぐに医師に診せたほうがいいと、オリヴィアは直感的にそう思った。

父は初めて見る母の弱った姿にうろたえ焦っていたようだ。



「だが、そんなことをすれば皆に心配をかけてしまう……!」



頼り甲斐のある領主でいたいのだろう。

父が領民のことを大切に思っているのは知っている。

それはオリヴィアも同じだ。

だけど自分の家族も大切にするべきではないだろうか。


今まで黙って父を支え続けた母がこのような状態になっているのに、お金の心配をしている。

オリヴィアは怒鳴るように問いかけた。



「──お母様の命とプライド、どちらが大切なのですか!?」



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