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札束でビンタから始まる怪力令嬢の勘違い契約結婚~お飾りの妻は最高です~  作者: やきいもほくほく
二章 契約結婚

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17/32

①⑦

「本当にわたしでいいのですか?」


「ああ、まぁ……別に誰でも……ゴホン」


「…………」



歯切れの悪い返事を聞いて、オリヴィアはあることを察する。


(今、絶対に〝誰でもいい〟って言おうとしたわよね)


彼はある程度の条件を満たせば誰でもよかったのではないだろうか。

それにこんな大金をくれたのだ。

ただより怖いものはないというが、これからそれ以上のものを要求されるのかもしれない。



「君こそ、こんな形で結婚を決めてよかったのか?」


「娼館で働くよりはよさそうなので……」


「……娼館? なぜその場所が?」



不思議そうなロベールに、オリヴィアはあの場に辿り着いた経緯や、娼館の面接だと勘違いしたことを話していく。



「つまり、君は僕が娼館のオーナーで娼婦として採用されたと?」


「つい先ほど父が手紙を読むまではそう思っていました」



自然と少年姿の彼に視線を合わせていた。

ロベールはなんとなく噛み合わない会話や、オリヴィアがお金を稼ごうとしていたことを含めて、すべてを理解したのだろう。

すぐに俯き、小さな体が微かに震えているではないか。

怒らせてしまったかもしれないと様子を窺っていると、彼の唇から微かに声が漏れる。



「フッ──!」


「……?」


「くっ……ふ、はは」



怒っているわけではなく、笑っていると気づいて安心していた。

誤解も解けたが、まだロベールという人物がわからない。

本当の性格がわからないからこそ、二人きりになりたいと言われて緊張したのも事実だ。


まさか自分が貴族の令嬢として、公爵家の当主と結婚するなど思ったことは今まで一度もなかった。



「君に娼婦が向いているとは思えないけど」


「そんなことありません。ですが、お父様にもそう言われました。人が死ななくてよかったと」


「はっ……それは怖いな」



すると彼はオリヴィアを覗き込むように顔を近づけた。

まるで青空のようにスカイブルーの瞳が、オリヴィアを映し出す。



「…………綺麗」


「は……?」


「瞳ですよ。まるで宝石みたい」


「……。君は一体、何を考えているんだい?」



何を考えているか問われても、そのまま思ったことを口に出しているだけだ。



「その言葉、そっくりそのまま返します。前回と違って高圧的ではないですし、見た目も性格も違いますね?」


「あの格好のときは、ああ振る舞うと決めているんだ。以前の格好のほうがよければそうするが?」



少年なのに大人びた口調。なんだか脳が理解を拒んでしまう。

ロベールの提案に首を横に振った。



「今更、君に逃げられては困るからな」


「お金で買われたんです。恩は返すつもりですから」


「……不満か?」


「まったく不満はありません」



巨漢で威圧的だったロベールは、今度はにこやかに微笑む少年になっていた。

自分より背が低くかわいらしいからか、警戒心が解けていく。

それにここまでディルムーン辺境伯のためにしてくれたことを心から感謝していた。


ロベールがフッと笑い、一気に表情が抜け落ちてしまう。

その冷たい視線は背筋がゾッとしてしまうほどだ。

そこに敵意や殺気もない、まったく感情がないのだろう。



「改めて要望を伝えていく」


「……えぇ」


「一年間、僕の妻として振る舞ってもらうからな」



オリヴィアに力強い視線を送るロベール。

まるで逃げたら許さないという脅迫のように見えた。


(これは契約結婚……お父様の言った通りエンバルト公爵家で生き残るのは大変なことなのね)


父にあれだけ言わせるのだ。

きっとオリヴィアが経験した戦場よりも厳しいことが待ち受けているに違いない。

ロベールの目的がわかったオリヴィアが覚悟を決めて顔を上げた。



「わたしがエンバルト公爵邸で妻としている間は、ディルムーン辺境伯家の援助をしていただけるんですよね?」


「ああ、十分な額を出すつもりだ」


「ありがとうございます。それから離縁のあとも辺境伯家に悪い影響が及ばないようにお願いいたします」


「……わかった。約束しよう」

 


ロベールのまとっていた緊張がほぐれたことで、先ほどの答えで正解だったのだと悟る。

オリヴィアは胸元を押さえてホッと息を吐き出した。



「生きていればな……」


「……え? 今、何か……?」

彼が立ち上がるとオリヴィアの前へ。



一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

膝をついたロベールは困惑するオリヴィアの手を取り、そっと手の甲に口付けた。



「…………へ?」



口付けた後にこちらを見るロベールに戸惑ったオリヴィアはどう反応すればいいかわからずに、反射的に手を引っ込める。


(怖っ……何でこんなことをするの!?)


警戒心むき出しのオリヴィアに、ロベールは口元を押さえながら肩を揺らしていた。

何をしているかと思いきや笑っているのだと気づいて、抗議するように声を上げた。



「いきなりなにをするんですか……!」


「もう俺たちは夫婦だ。このくらいは当然だろう?」



少年の姿で言われても、説得力はない。


(いつ姿を変えるのかしら……もしかして、ずっとこのまま?)


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