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札束でビンタから始まる怪力令嬢の勘違い契約結婚~お飾りの妻は最高です~  作者: やきいもほくほく
二章 契約結婚

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16/32

①⑥



「戻りましょう」



オリヴィアはなんとなく、アイナスの手を掴んで引き留めた。



「オリヴィア様……?」


「アイナスさんも、あなたもあなたも、そこのあなたもありがとうございます」



オリヴィアは彼らが潜んでいる場所に視線を送りつつ、お礼を言っていく。

それにはアイナスの眉がぴくりと動いた。



「……いえ」


「その前にお母様に薬を……」


「食事と薬はもう手配しております。しばらくは執事や侍女、シェフと医師を置いていきますので心配ありません」


「え…………?」



いろいろと聞きたいことがあった。

まずはディルムーン辺境伯の状況をどこまで知っているのかということ。

それに母の病のことも把握していることに驚くばかりだ。

屋敷に人が足りないことまでわかっているため、オリヴィアも戸惑いが大きい。


エンバルト公爵領から馬に乗れば二日はかからない。

ロベールは馬車で来ているため、三日ほどかかっているはずだ。

どうしても彼らのやっていることや時間が噛み合わなかった。


混乱していたオリヴィアの表情を見て察したのか、アイナスが先回りすように口を開く。



「後ほどロベール様の口から説明があるかと思います」


「……はい」



まるでイエスしか言えないように、手を回したとしか思えなかった。

オリヴィアとアイナスが部屋に戻ると、彼が言った通りロベールが父に執事や侍女が二人やシェフや医師を紹介しているようだった。


(もう事業の話は終わったのかしら?)


父はすっかり上機嫌だった。

今度の事業はうまくいくだろうと目を輝かせているではないか。



「オリヴィア、いい旦那を捕まえたな!」


「…………」



にこやかに微笑み続けるロベールは胡散臭くてたまらないが、父にとってはやっと現れた救世主なのかもしれない。


(お父様ったら単純すぎるわ。だから騙されるのよ……!)


不満があったオリヴィアだったが、ロベールのおかげでいい方向に向かっていることには違わない。

それにこんなふうに無邪気に喜ぶ父を久しぶりに見た気がした。

オリヴィアは父の新しい事業がうまくいくように祈るばかりだ。



「エンバルト公爵、感謝する……!」


「ありがとうございました」


「こんな姿ですが、何も疑問に持たないのですか?」



唐突に放たれるロベールの質問に父とオリヴィアは首を傾げた。

彼は少年の姿だからだ。



「ああ、そんなことか。その関節はどうなっているんだ?」


「わたしも思いました。初めてお顔を拝見したときは巨漢だったんですよ」


「おお、そうか。その技術は興味深いなぁ」



オリヴィアと父の変装についての議論は白熱していく。



「だけど、いざとなった時に対応しずらそうね。身を守れないわ」


「それもそうだな。だから護衛を多めに置いているのではないか?」


「なるほど……たしかに公爵邸より護衛の数が多いわ」


「巨漢に子ども、老人や女性もいけそうだな」



勝手に分析していた父とオリヴィアに、ロベールとアイナスはなんともいえない表情でこちらを見ている。

咳払いしたロベールに合わせて二人は変装についての話をやめた。



「では、結婚に同意していただけると?」


「ああ、もちろんだ!」


「ではサインをお願いいたします。アイナス」


「かしこまりました」


「サインを終える間、二人きりにしていただけますか? 僕がオリヴィアの荷造りを手伝うよ」



その言葉を聞いたオリヴィアは何度か瞬きを繰り返す。

荷造りをするということは、もう用事が済んだらエンバルト公爵邸に向かうということではないだろうか。



「まさか、もう行くのですか!? 先ほど着いたばかりなんですけど……っ!」


「ああ、今日からエンバルト公爵邸で暮らしてもらう。妻としてな」


「……本当に?」


「荷馬車もある。荷物はたくさん詰めるはずだ」



どうやら予定を変えるつもりはないようだ。

オリヴィアは今からエンバルト公爵邸に向かわなければいけないらしい。

まだ心の整理はできていないものの、気持ちを切り替えた。

それにここにお金を置いたら、すぐに働かなければと思っていたため丁度いいかもしれない。


──パタン


アイナスと父を置いて応接室を出た。

荷造りのために自室へと案内する。

とはいっても、極貧生活でオリヴィアのものなど何もない。



「ここは本当に君の部屋か?」


「はい、そうですけど……」



辺りを見回しつつもロベールは眉を寄せた。

「ここまでひどいとは」

彼がそう呟いたため、やはり事前に辺境伯邸の事情を知っていたのだろう。


オリヴィアは二着のワンピースと靴やカバンに詰めるが、ロベールにそれを阻止されてしまう。

邪魔をしないでという意味で睨みつけると、どうやら衣服や靴は公爵家で用意してくれると聞いて驚いていた。

そうなればオリヴィアが持っていきたいのは何もない。

何も入れるものがないカバンに入れるものはないか辺りを見回していると、背後からロベールの声が耳に届く。



「結婚の申し出を受けてくれ感謝する」



半ば無理やりのような気がしたが、彼はどうしてオリヴィアを選んだのだろうか。

あの場にはたくさんの女性たちもいた。それに彼がここまでする理由が知りたかった。


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