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札束でビンタから始まる怪力令嬢の勘違い契約結婚~お飾りの妻は最高です~  作者: やきいもほくほく
二章 契約結婚

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13/32

①③


そう言い張る父にロベールからもらった契約書らしきものが入った封筒を渡す。

くるりとひっくり返した父はそのまま固まってしまった。



「まさか……なぜエンバルト公爵家の紋章が……?」


「……エンバルト公爵家?」


「いや、ありえない。だが、この蜘蛛の紋章を持つのはエンバルト公爵家しか……」



父はエンバルト公爵家について説明してくれたが、オリヴィアだって三大公爵家については多少なりとも知っているつもりだ。



「彼が経営している娼館ということか?」


「えぇ、たぶん! そうだと思います。よくわからないですが……」



封蝋を剥がして、紙を開いた父はこれでもかと目を見開いた。

それからオリヴィアを交互に見ている。



「オ、オリヴィア……これが何かわかっているのか!?」


「わたしはこれをお父様に届けるように言われただけですから……!」



父の目線は書類を上から下まで何度も往復しているではないか。

オリヴィアも何が書いてあるかまではわからない。

お菓子に気を取られていたからだ。



「ま、まさか……そんな……」



その声を聞いて、オリヴィアはよく契約書を読まないままサインをしてしまったことを思い出す。

もしかしたら、こちらが不利になるような条件が書かれているのかもしれない。

いつも早まってしまうのは自分の悪い癖だと反省しながらも、父の言葉を待っていた。



「わ、わたしの前でも何百人も女性がいたんですけど、なんとか合格できたんです。そんなに有名な娼館なんですか?」


「お前がこんなに世間知らずだったとは思わなかった! 私たちのせいだから何も言えないが、ここまでとは……!」


「世間知らず?」



オリヴィアは父の言葉に首を傾げた。

いまいち父が何を言いたいのか、理解できなかったからだ。



「でも合格したんです……! 前金でお母様の薬をっ」


「いいか、オリヴィア。暴れないでよく聞いてくれ」


「え、えぇ……」



こんなに真剣な表情をした父は初めて見たような気がしたため、オリヴィアはゴクリと唾を飲み込んだ。



「お前は娼館に合格したんじゃないんだ」


「…………えっ!?」



衝撃に顎が外れそうになってしまった。

ロベールは契約がどうのと言っていてたが、実は違うのだろうか。

だったら彼はどうしてこんなにお金をくれたのか、謎は深まるばかりだ。



「わたしは働かせてもらえないのですか!? それとも裏方に?」


「ある意味、働くというか……どこから説明すればいいんだ……」



何を聞いても言葉を濁す父。

含みのある言い方にだんだんと苛立ってきたオリヴィアは声を荒げた。



「ですから結局、どういうことでしょうか!」


「ロベール・エンバルトと結婚するということだ」


「……………はい?」


「つまり、オリヴィアはエンバルト公爵の〝妻〟となる。エンバルト公爵夫人になるということだ」


「へっ……?」



予想もしない言葉にオリヴィアの口からは情けない声が出る。


(結婚……? わたしがあの人と?)


つまりロベールは娼館の主人でもなんでもなく、巨漢に変装しながら妻を探していたというのだろうか。


『これでお前は俺の〝妻〟だな』


今になってロベールのこの言葉が頭をよぎる。

この時は従業員か何かという意味だと思っていた。

だが、実際は自分の結婚相手を探していたというのだろうか。



「あの行列の中から妻を選んでいたということ!? 貴族の結婚はこんなものなのですか!? えっ?」



オリヴィアは焦っていた。

あんな結婚相手の選び方は初めて聞いたからだ。

付き合いやお見合い、パーティーで出会うものだと思っていた。

自分の中でロマンチックな出会いを想像していただけに、理想がガラガラと崩れていく音がした。



「現エンバルト公爵は歴代の中でも残忍でかなりのキレ者だと聞く……それにエンバルト公爵家はかなり特殊だからな」


「特殊、とは?」


「彼らは裏世界の支配者だ。三大公爵の中でもっとも謎が多く恐ろしい。子どもを何人もの妻と作り、もっとも強い者に跡を継がせるという……」


「つまり、わたしもその中の一人に選ばれたということですか?」


「ああ……よりにもよってエンバルト公爵家か」



あの父の苦い顔を見る限り、かなり危ない家ということは理解できた。

何人もの妻を迎えて子を産ませ、生き残ったもっとも強い個体に跡を継がせる。

それがエンバルト公爵の方針だとするならば、オリヴィアもその一人なのだろう。


(あの暴れていた人形みたいな子も、彼の妻なのかしら)


かなり怒っていたようだが、他の妻が選ばれて許せないということかもしれない。

その新しい妻がオリヴィアということに気づいて……と、この先を考えることが面倒になり考えるのを辞めた。



「娼婦として働くわけではないのね……」


「オリヴィア、お前は大きく勘違いしている。娼婦というのは体を使ってだな……」


「わかっているわ。男性に奉仕するのでしょう? わたしにだってできるわ!」


「いや、奉仕は奉仕なんだが……お前が想像するのとはたぶん違うんだ」


「……どういうこと? じゃあ何をするのよ」


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