在り来りだったのに
なぜ。どうして。何が……。
疑問が沸く、理由を欲して、その所在を探す。
走り行く。どこまでもどこまでも、ゴールはある。だけどそこはどこですか。
これはこれは普通のお話だったはずです。上手くちゃんと真面目に私達のために、それでもこの〝世界〟に生きていたのだから。
この国の人達のために今まではしてこなかったことを、辛くて苦しくてそれでもあの人達との喜びと希望があったからこそ、頑張ってこれたのに。
走る。走って行く。森を、暗い闇の中を。
道を遮るように、逃げ出す者達を逃さないとばかりに目の前へと出てくる木々を避けていく。足を捻ることも挫くこともなく、ただあの日々の成果を喜ぶこともなく、ただただ逃げるために使う。
なぜ私たちは異世界の人々を助けるために呼ばれたはずなのに、どうして、何が……。
訓練だって……辛かった苦しかった。最初の日なんて、動けなくて部屋までおんぶされて皆に体を洗ってもらったりと恥ずかしい思いも……。
その次の日もさらに次の日もと訓練は続いて、体が動かなくなるまで続いて、立つことなんか出来ないまま座学が行われる。
体も頭も疲弊しきっても続いて、少しばかりの余裕ができた頃。
剣を握った、盾を構えた。鎧を纏い、相手に向かって剣を振るう。
怖かった。怪我をしたらどうしたらいいのか。
少し痛いぐらいなら訓練だからといえるかも、ただアザが出来たら、切り傷が出来たら、皮膚を切り肉を裂いたらと。
振るう及び腰にながらも、でも守りたい人のために振るうことを諦めきれなかった。
結局はダメだったけど、魔術を教わり色んなことが出来るようになった。
そうしてーー殺した。
……動物を。そして、いつかはーー人を殺す。
殺して殺して、殺し尽くして。それでも大切な人達を守るために。
なのになのになんで、何が行けなかったの。私たちの力が足りなかった? それとも欲しい異能をもっていなかったから? それか私たちが真実を知ってしまったから。
なぜ助かろうと助けようと頑張っていたのに、どうして私たちは逃げるようなことをしなくてはいけなかったの私たちが足りなく持っていなく知ってしまったからなの本当に、ああ、何が……。
涙を拭うことすらままならぬまま、皆と抜けだとそうと必死にペアニヌ国から国境を超えようと。
深夜に木漏れ月をもとに森を走る。
どんどんと疑問を浮かび、理由を探そうとしても分からない。
思いこみ上げ熱を溜め込み、頬を伝う雫だけが冷やしてくれる。それしか冷やしてくれない。
なんで私たちは選ばれたのだろう。いや、誰が選んだのだろう。
運命、世界、神々、人々、召喚式、才能、魔術師、国王、魔王、勇者、皆、私。
ああ、誰であったていい。私は私を許せない。
辛かった。苦しかった。それでもあの日々は大切だと思へ始めた。
だって大切な人と一緒にいられたから。帰れなくたってよかった。私は望んでいた。
彼と一緒に居られることを。
でもそれは間違いだった。この世界はあの魔術師は狂っている。
背から聞こえてくるかもしれない音を気にしながら走る。光はあれど暗すぎる中にある木々を避けながらも。頭も心もいっぱいいっぱいで、見落とす。木の枝が目の前に来ていたことを。
避けようとするが避けきれなく。
目で捉えながらぶつかる寸前に、横から引き寄せられ抱き抱えられる。
依然として走り続けたまま。
「……ーー大丈夫?」
心配そうに声を掛けてくれる。
「だいじょうぶです……ごめん、なさい……迷惑かけてして直ぐに走りますから、降ろしてくだーー」
少し名残惜しくも迷惑は掛けられないと、そういうがーー
ーー聞こえた。
後ろから笑い声が。愉快に楽しそうに面白いから嗤っていると。
本当に楽しそうなときしか、出さない本当の声。
『にひ、にひひひひ』
魔術師の笑い声が聞こえてくる。ああ走らなくては逃げなくては、今の私たちでは敵いっこない。
早く早くと。
「降ろしてください、信勇くん!」
皆が止まっていた。
もう走り逃げられないほどに迫っていることに気付いていたから。
私は信勇くんに丁寧に降ろされる。その時の顔は何かを決意したような表情であった。
彼が私を見ると、少しだけ微笑んで私から離れていく。それは近づくため不気味な笑い声を出す魔術師に近づいていくため。
それに気づいた時に宿木くんから皆へと声がかかった。
「皆! 走れ信勇が囮に買って出てくれたから、今は走り抜けろ」
その声に皆が徐々に走っていく。
なぜ、どうして、置いていくの。
何で彼が置いていかれるの。
ダメ。絶対にだめ。
手を伸ばす。行かせてはだめだと。
それは伸びきることはなく。お腹に激しい激痛ともに意識が薄れ行く。
誰かに抱き抱えられて。それは彼とは違う人だとは分かる。
ああ、なぜ助かろうと助けようと頑張っていたのに、どうして足りなかったから持ってないから知ったから、何で……誰が……悪いの世界、神様、魔術師、皆、それとも私。
最後に微かに見えた彼は魔術師と向き合っていた。
そして目蓋は閉ざされ希望はなく絶望が視界を覆った。




