ヘニヒの楽しみ
夜。
空に輝く星々が薄れ行く時刻。
数時間まえに召喚儀式を終えたばかり、呼ばれた子供達が寝入りに入った頃。
魔術師は王城を背後に宮殿へと入っていく。
王宮とは違い石出来た建物のは籠城戦を想定して作られたものであり、一応の住まい住宅などが出来るようになっているが住居としては不便極まる作り。
この王城とはあくまで戦争でのもしもの備えであり、王国の威信を示し、王とその内政を行う者達の執務室である。住居としてはさいていげんしかそもそもに備えていない。
なれば王宮は王の住居として作られた家。
その家を無造作にとくに何も思うことなく、入って目的の部屋まで進んでいく。朝日が出るような時刻ならば、使用人が案内をするだろう。
ただ夜は深まっており、明朝が出るにも数時間といったところ。
そんな夜更けに魔術師は王宮へ、それも王の部屋へと進んでいく。これが何らかの非常事態ならば許されるだろうが、無礼千万であり王が王ならば死刑すらありうる。
静寂であった暗闇の廊下に音が聞こえる楽しそうに愉快そうに心情を容易く察せるほどに、心踊らせ鼻歌交じりに歩く。
「ふんふ♪」
王の部屋へとたどり着くも止まることなく、ノックすらしなく無造作に無遠慮に入る。
中はどれもが一級品の家具やらがあり、豪華派手である。だが明かりは灯ってはいないために既に寝ている様子。
それを知っているかのように、部屋にある扉。寝室への扉に手を掛けてあける。
その部屋は先程まで豪華さと違ってベット以外に何もなく。明かりもない。
絨毯も棚もなく、窓はありそこにはカーテンもあるがベット以外に特徴はなく。
そのベットで寝ている王は死んでいるかのようでもあった。
そんなことすらも気にすることなく、静かに寝ている王に近づいて肩を揺する。
「おおい、殿下起きてください。話したいことがあるですよ、殿下。ね、殿下…………殿下、殿下、殿下…………………本当は起きているでしょ、殿下」
起きるまで肩を揺さぶり続けるが、たぬき寝入りを決め込む王であった。最初から起きていたが、面倒くさそうであったために寝入りこむことにした。だがいつまで立っても「殿下、殿下」と肩を揺さぶり続けられる。
王は悟る。これは起きるまでずっとされ続けると、そして起きないと魔術でも使われて起こされると。
諦めた王は重たい目蓋を開いて魔術師の名前を呼ぶ。
「起きた、起きたからなんだ。こんな夜更けに……ヘニヒ」
「やっと起きた、殿下は昔から起きるのが苦手ですよね」
「にひ、ひひひ」と癖付いているのか薄く魔女のように嗤う魔術師ヘニヒを王は目を細め、その最奥を覗こうと穿って見る。
「さあ、話したいことがあるですから早く起きて、話しに付き合ってくださいよ殿下」
「……」
そういって歩きだしたヘニヒを見つつげる王はため息をつく。無駄だと知っていたから、でも何度も試してはみる。知りたいから。
だが何度みてもそれは単純な気持ちと行動原理で動いているだけであった。
それを何というか知っている。それを何者か知っている。
でも分からない理解できない王は起き上がり、忘れるようにヘニヒの後を追う。
明かりがいつの間にかつけられた部屋、ヘニヒは自分勝手に王の部屋の飲みもやお菓子などを勝手取り出しては入れている。
ただ自分だけのではなく、王のも入れているはいる。
「殿下、早くしてくださいよ」
「はぁ、わかったから。少し待て、今は冬だぞ。羽織る物ぐらい着させろ」
「そんなのは私が魔術でどうにかするので早く」
そんな自分勝手な言葉に王はため息をついて、結局は羽織ることなくソファーへと深く腰を落とした。
宣言通りにヘニヒは魔術を使ってこの部屋を暖かくした。それも寝入りについてしまいそうなポカポカとした日向ぼっこでしているかのように。
先程まで寝ていた王に取っては再び快適な睡眠へと誘う微睡みを押さえ込み、用件を問う。
「それでなんだ、何か話したいことでも」
「もちろん、そうじゃなきゃこんな眠たい時間に話しせんよ」
微睡む王はぼんやりとヘニヒを見つつ、その愉快そうな顔をみて何度目かのため息をつく。
それに気付くことなく、ワクワクとする子供みたいに話し出すヘニヒ。
「ああ、楽しみですね。楽しみですよね、殿下」
「はぁ、要領えんな。もっと中身を言え」
「それはもちろん、あの子達ですよ」
薄く心底愉しそうに嗤うヘニヒを王は見つつ、話を促す。
「ほう、何か動きでもあったか?」
「いえ、とくに私たちが居なくなった後でもとくになく寝ちゃいましたよ……ただ何人かおもしろそなう子が居ましてね」
「ふむ、どんな子だ」
「特におもしろうそうな子は二人、おもしろそなう子が四人……あとはまあ異能次第かな」
「それはイレギュラーも含めてか?」
「にひ、ひひひ」
嗤う。嗤う。愉悦に浸るように。
王はそれには答える気がないと気付き、別のことをきく。
「異能については幾日か経ってからとして、あの子達は乗ってくれそうか?」
「ふむ、まあ乗ってくるしかないじゃないですかね。まあそれは当初の予定道理に生きましょう」
「ふむ、ではパ……帝国、や聖国などの他国はどうする? 確実に帝国とあの国は気付くだろう」
「それも当初の予定道理ですかね。まあ、1ヶ月後の祭事までは野放しであの子達の自由ですかね」
愉しそうな会話と違い真面目な会話になったことに少し不服そうな顔しているヘニヒ。
面倒くさそうにヘニヒの要望通りな会話をすることにした王。
「それでヘニヒ、祭事まで期間をあの子達でどうするんだ」
その言葉を待っていたとばかりに目を輝かせたヘニヒは、愉しそうな話し出す。
「もちろんそれはーー」
夜は更けていく。朝日が昇るまで。
王と魔術師の話は続いて。
明日の朝に報告をしにきた皇 嬉華と宿木 定目は寝不足の王と魔術師に告げた。
ーー勇者として魔族と戦うことを。




