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神様、そこにいますか? ―追放された少年が神を探して世界を旅した結果―  作者: くろめがね


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8/11

第8話 アルブと最初の街道

第8話です。

 朝の光は、街道に出ると急に広がる。


 村の畑道とは違い、街道は人の手で固められている。石と砂が敷かれ、何度も踏まれた道だ。足裏に伝わる感触が変わる。硬く、平らで、広い。


 アルブと少年は並んで歩いた。


 少年は背が低いが、歩く速さは同じだった。まだ腹を蹴られた痛みが残っているはずなのに、弱音は吐かない。時々息を吸い込む音だけが聞こえる。


 朝の街道は、すでに動いていた。


 遠くから鈴の音が近づいてくる。羊の群れだ。白い塊がもこもこと道を埋めながら進んでくる。羊飼いの男が長い杖を振り、犬が吠えながら端を締めている。


「寄れ」


 少年が言った。


 二人は道の端に寄った。


 羊が通り過ぎると、匂いが残る。湿った毛の匂い、糞の匂い、草の匂い。朝の空気がそれを引き延ばしていく。


 羊飼いが二人をちらりと見た。


 刻印のある手首を見たのか、目を逸らした。


 羊の群れが通り過ぎると、道はまた広くなった。


 少年が口を開く。


「名前は?」


 アルブは前を見たまま答える。


「アルブ」


「俺はセム」


 少年は言った。


「腹減ってるか」


 アルブは袋を叩いた。


「少しはある」


「いいな」


 セムは舌を出した。


「俺は何も持ってない」


 アルブは袋を開けた。穀を少し手に取り、セムに渡す。


 セムはそれを指でつまみ、口に入れる。


 歯で砕くと、粉が唇の端に付いた。


「うまい」


 と言った。


「ただの穀だ」


「ただの穀がうまいときは、腹が減ってるときだ」


 セムは笑った。


 その笑いは軽かった。


 軽いが、どこか慣れている。飢えに慣れた者の笑いだ。


 街道の先に、荷車が見えた。


 木の軋む音がする。二頭の牛がゆっくりと引いている。荷台には袋が積まれている。麦か、塩か、それとも粘土板か。


 車の横を歩いている男が、二人を見た。


「おい」


 声をかける。


 二人は立ち止まった。


「どこから来た」


 アルブは答えた。


「村から」


「どこへ行く」


 アルブは少し考えてから言った。


「町」


 男は二人を上から下まで見た。


 服。

 足。

 手首。


 刻印が見えたのだろう。


「働く気はあるか」


 男は言った。


 アルブは頷いた。


「ある」


 男は荷車を指さす。


「後ろを押せ」


 坂がある。


「町までだ」


 アルブは車の後ろに回った。木の板に手を当てる。朝露で湿っている。


 セムも隣に来た。


「俺もか」


 男は肩をすくめた。


「押せるなら」


 荷車は重かった。


 牛が引くが、坂では足りない。アルブとセムが押すと、車輪が少し軽く回る。


 木が軋む。


 牛が鼻を鳴らす。


 坂は長くない。だが足にくる。ふくらはぎが張る。背中が熱くなる。


 坂を越えると、男が手を振った。


「もういい」


 アルブとセムは手を離した。


 息が上がっている。


 男は袋を一つ開けた。


 中から干した麦の塊を取り出し、二人に投げた。


「食え」


 固い塊だ。麦を蒸して乾かしたもの。歯が強くないと噛めない。


 セムが目を輝かせた。


「いいのか」


「働いた」


 男は言った。


「それだけだ」


 荷車はゆっくり遠ざかる。


 牛の尻尾が揺れ、車輪の音が遠くなる。


 セムは塊をかじった。


「うまい」


 また言った。


 歯で削りながら笑う。


 アルブも少しかじった。


 硬い。

 だが甘い。


 腹に落ちる感覚がある。


 街道の先に、町が見えてきた。


 低い壁。

 煙の柱。

 屋根が集まっている。


 人の匂いがする場所だ。


 セムが言う。


「神、いるかな」


 アルブは町を見た。


 煙が空に伸びている。


 人が住めば、煙が上がる。

 煙が上がれば、火がある。

 火があれば、祈りもある。


「分からない」


 アルブは言った。


「でも」


 町を見たまま続ける。


「聞いてみる」


 セムは笑った。


「誰に」


 アルブは少し考えた。


「一番偉そうな奴に」


 セムは腹を抱えて笑った。


 街道の風が、二人の背を押した。


 町が、少しずつ近づいてくる。

彼は、仲間なのかしら。

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