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神様、そこにいますか? ―追放された少年が神を探して世界を旅した結果―  作者: くろめがね


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7/11

第7話 アルブと夜明けの道

第7話です。外が楽しみです。

 鶏が鳴く前の時間は、空気がいちばん冷たい。


 夜の湿り気がまだ土に残り、草の先には細い水滴がついている。裸足で踏むと、じんわりと冷えが足の裏に広がる。遠くの丘の向こうがかすかに白みはじめているが、村の中はまだ暗い。


 アルブは静かに歩いた。


 家の戸は、もう閉めてきた。母は最後まで起きていた。何も言わなかったが、火皿の灯りの向こうで、ずっと座っていた。父は外に出てこなかった。あの人は、見送るときほど背を向ける。


 肩には小さな袋。

 中には穀と干し肉。

 腰には父の石の刃。


 それだけだ。


 村の囲いを越えると、土の道は細くなる。人と荷車が通る道から、畑の間を抜ける踏み跡のような道になる。まだ人が起きる前だから、誰ともすれ違わない。


 空気は、静かだった。


 静かすぎて、自分の足音がやけに大きく聞こえる。土を踏む音、草を払う音、袋の中の穀がこすれる音。


 アルブは何度か振り返った。


 村の影が、暗闇の中に沈んでいる。家々の屋根は低く、煙の跡が黒く残っている。昼になれば、そこに煙が上がる。子どもが走り、豚が鳴き、女が水を汲む。


 その生活の中に、もう自分はいない。


 胸の奥が少しだけ締まる。


 だが足は止めない。


 畑の端まで来ると、小さな用水路があった。夜露と水が混ざり、細く流れている。アルブはしゃがみ、手を浸した。


 水は冷たい。


 顔を洗うと、頬の痣がひりついた。三日前の拳の跡だ。水に映る自分の顔は、まだ少年のままだった。だが村の中での少年は、もう終わった。


 水を飲む。


 口の中の土の味が少し流れる。


 顔を上げると、空が少し明るくなっていた。星はまだ残っているが、東の端が薄い灰色に変わっている。


 アルブは立ち上がった。


 道は二つに分かれている。


 一つは丘の向こうの小さな集落へ続く道。

 もう一つは、街道へ出る道だ。


 街道に出れば、人が多い。商人、荷車、巡礼、兵士、羊の群れ。金の匂いもあれば、血の匂いもある。


 アルブは少し迷った。


 小さな集落へ行けば、働き口くらいは見つかるかもしれない。穀倉の掃除でも、水汲みでも、手はある。


 だが、それは村を一つ変えるだけだ。


 追い出された理由は、どこへ行ってもついてくる。


 アルブは街道の方を見た。


 遠くに、ぼんやりと白い帯が見える。石を敷いた道だ。荷車が通るたびに埃が上がる、広い道。


 そこには神殿もある。

 大きな町もある。

 神の話をする者も多い。


 アルブは袋の紐を握った。


 母の指の温かさを思い出す。


 父の言葉も。


 ——正しいかどうかは、あとで分かる。


 そのとき、背後で音がした。


 草を踏む音。


 アルブは振り向いた。


 小さな影が、丘の斜面を降りてくる。


 息を切らしている。


 やがて顔が見えた。


 あの少年だった。


 神殿の門の前で、腹を蹴られていた少年。


 息を切らしながら、アルブの前まで来る。


「……待て」


 少年は言った。


 膝に手をつき、しばらく息を整えてから顔を上げた。


「なんで」


 また同じ言葉だった。


「助けた」


 アルブは答えなかった。


 少年はアルブの袋を見る。


「出ていくのか」


「そうだ」


「追い出された?」


 アルブは少しだけ笑った。


「そういうことだ」


 少年はしばらく黙っていた。


 そして言った。


「俺もだ」


 アルブは目を上げた。


 少年は肩をすくめる。


「神殿の袋の件で、外の連中が怒った」


「なんで」


「おまえが庇ったからだ」


 少年は言った。


「おまえのせいで、余計に目立った」


 風が吹いた。


 草が揺れる。


 アルブは何も言わなかった。


 少年は少し笑った。


「でも」


 肩を回しながら続ける。


「手首は切られなかった」


 右手を見せる。


 そこには焼き印がある。古い印だが、まだ赤い。


「それだけでも、ましだ」


 アルブは少年を見た。


 小さく、痩せている。

 だが目は濁っていない。


「どこへ行く」


 少年が聞いた。


 アルブは街道を指した。


「神を探す」


 少年は眉を上げた。


「神?」


「いるかどうか」


 アルブは言った。


「確かめる」


 少年は少し考えた。


 そして笑った。


「じゃあ」


 肩の埃を払う。


「俺も行く」


 アルブは言った。


「勝手にしろ」


 少年は道を見た。


 朝の光が少しずつ広がり、街道の白い石がはっきりしてくる。


「神がいたら」


 少年は言った。


「殴ってやる」


 アルブは少しだけ笑った。


 空の端が赤くなってきた。


 夜が終わる。


 アルブは街道へ向かって歩き出した。


 その後ろを、少年がついてくる。


 朝の風が二人の背を押した。

やっと、外に出られました。

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