第25話 恋を売るということ
生活のリズムが変わった。火光さんはマンションを出て完全に僕の家に引っ越してきた。親から連絡が来たけど、むしろよろしくと言われて戸惑ってしまった。
「会社を作りましょう。節税対策も必要。オフィスを借りてそこで仕事をしましょう」
「通勤する必要なくない?ここでいいよ」
「駄目。これからは人を雇ったりも考えなきゃいけない。ここに他所の人を入れるべきじゃないわ」
火光さんに押し切られる形で池袋にオフィスを借りた。そこに新しく機材を導入して開発体制を整えた。会社はサークル名そのままだった。自分の名前がそのまま会社名になるのはいかがかなものかと思ったが、新しく社名を考えるのも面倒くさかったのだ。社長は僕。火光さんは従業員になった。株主になるべきじゃない?と言ったのだが、株式はあなたが全部持つべきと言われてそうなった。顧問弁護士や会計監査法人との契約も行い、まっとうな会社としての体を整えてくれた。
「正社員はしばらくはいいでしょう。SESに声をかけてエンジニアを派遣してもらいましょう」
火光さんがエンジニアを用意してくれて、僕はコーディングから解放されて企画に集中できた。シナリオもプロのライターを雇ったり、イラストもデザイナーが入ってどんどんクオリティが高まった。比例してユーザー数は伸びていき、同時に課金収入もがばがば入ってきた。
「例のアルゴリズムなんだけど、他のアプリケーションを作ってもいいかしら?」
「かまわないよ。設計なら協力できる」
「ありがとう。じゃあ色々サービスを作りましょう」
火光さんは様々なサービスを展開しだした。ドローン系の需要の高まりにキャッチアップしたものでこちらも大きな利益を上げていった。家事の統括AIやら求職サイトの新規立ち上げにガンガンAIを組み込んで暴利をむさぼっていた。大手のサイトを撤退に追い込むくらいに設けてしまっていた。
「本当は機械系がやりたいのだけどね」
火光さん的には儲け重視であってやりたいこととは違うらしい。だけど気がついたら一端のITスタートアップの成功例になってしまった。忙しいと言えば忙しいが、仕事は平日の9時6時の休憩一時間を厳守した。前みたいに土日祝日もダラダラ開発することはなくなった。それらは火光さんと一緒にお外に出かける日になった。火光さんの格好も変わった。家で仕事しているときはわりと露出のある格好だったが、外で仕事するようになると清楚な感じになった。だけど夜は小悪魔ぶりを発揮して淫らで艶やかで。充実していると思う。このままこの生活の中で過去のことは忘れ去れるんじゃないかと、僕は希望を持っていた。
あたしの仕事は順調だった。気持ちとはうらはらにパフォーマンスはより精度を高めていった。中国やその他アジア諸国に遠征に出るまでになった。アメリカへも行く予定が出来た。ドラマや2.5次元やミュージカルなどの出演も増えた。テレビ番組も途切れることもない。
「大成功なのに、晴れない顔をしているわね。なのにあなたはどんどん高まっていく」
万和さんはあたしのことなんかいつでもお見通しだった。
「むしろあなたは傷つけば傷つくほど、中にあるダイヤモンドがカットされて、魅力が磨かれるのね」
あたしはもしかしたらとんでもないマゾなんじゃないかと思い始めている。同時にきっとどうしようもないスケベなんだ。ずっとジョゼと火光さんのことばかり。彼らがエッチしているところを想像してしまう。なのに乾くことはなく、逆に濡れる。
「ライブの予定組んでくれます?」
「ソロはまだだめよ。今ドームはグループ全体のスケジュールで埋まってる。本音じゃ割り込みをかけたいんだけど、他社とも仁義があるからそれは無理」
「わかりました。じゃあ一つお願いがあります」
「何でも言って」
「監督と組みたいんです。グラビアシリーズの企画を作りました」
あたしは万和さんにレターサイズのフォルダを渡す。
「あらしっかりしてる。あなたは普通の仕事もちゃんとできるのね。学校辞めたの勿体なかったんじゃない?」
「勉強なんて好きじゃなかった。出来るなんて思わなかった。いまさらどうでもいいです」
アイドルになってから自分は勉強ができるタイプだと知った。英語も中国語もポルトガル語も原著の哲学者だって読めるし、さまざまなトークに対応するためにいろんな知識を入れていったらクイズ番組で東大生相手に計算問題で勝てちゃったりした。つくづくあたしは自分のことを一番よく理解していなかったんだと痛感する。
「ふむ。企画の方。文句なしね。予算はつけてあげる。存分にやって見なさい。まずはあなたとすみれとさざんかで成功させて見てちょうだい。期待してるわ」
「ありがとうございます。失礼します」
部屋を出てすぐに監督のオフィスにマネージャーと一緒に向かった。
「ほう。面白いで候。だけど注文を一つ」
「なんでしょうか?」
「るいか殿のストーリー。拙者が書いてもいいでござるか?」
「そのストーリーじゃ駄目ですか?」
「駄目ではないで候。ですがるいか殿の今の顔色を見てピンときたでござる」
「……それがヒットにつながるなら」
「元のストーリーでもヒットは出るでござるよ。だが拙者は今のるいか殿の心を表現したいで候」
「今のあたし?」
「そうでござる。まあ見ているでござるよ。拙者が最高のグラビアを作ってみせるで候」
監督はやる気に満ちている。まあこの人なら大丈夫だろう。安心して身を任せるだけ。それだけ。それだけでいいはずだから。
監督のストーリーが仕上がったら撮影に入ると言われた。その前にさざんかさんとすみれのほうが撮影が終わった。
「むずかしかったけどがんばったよ!!」
「であるか」
「なんか監督さんみたいな喋り方だねぇ」
「移ったのかもね」
「ビーチとかカフェとかすごくたのしかったよー!」
「そう。よかった」
楽しんでくれたならよかった。これで売れたら万和さんはグループ全体にこの企画をやるそうだ。いいコンテンツになるなら本望だ。
「だけどその前に今日の仕事の確認だね」
「うん。若い女性タレント同士のトーク番組だね。趣味とか最近あったこととか喋るんだね」
「あえて台本はたてないでタレント同士のトークに任せる感じだね。まあ生放送なのが気になるけど。編集でカットできないから失言には注意かな」
「うん。気をつけるー!ゲームとかやってると暴言でやすいからなー。それ以外のトークだといいけど」
「わかい女なんて服かカフェか化粧か旅行か恋愛しか話さないよ」
「それは偏見じゃないかな?」
どうだろう。あたしは芸能界に来てつくづく男女の生態の違いを見せられていると思う。さざんかさんなんか成功者とセックスするのが好きで女丸出しだし。猿喰は女なら何でもよさげだし。ほんと嫌になる。
「恋愛トークだけ注意してればいいよ」
「うーん。経験ないからなにも語ることないんだけど」
「その方が無難だと思う。こういう恋愛したいくらいのことだけ言ってたらいいんじゃないかな?」
「まあそれならー」
すみれの恋愛願望がどんなものか、知りたい自分がいてちょっと驚いた。舌打ちしたくなる。火光さんがあんなこと言い出すからだ。腹立つなぁ。そして収録の時間がやってきた。
【ユニコーン】るいかを見守るスレ2783【牧場】
:今日は女同士のトーク番組に出るみたいだな
:読モ系のビッチたちと話させることだけでも気に入らないな!
:大丈夫だ!るいかは読モなんか目じゃないくらいに綺麗だろう!いろんな意味で!
:すみれちゃんぺろぺろ(*´ω`*)
:すみれちゃんはユニコーンに乗れますか?
:……るいかが傍に居ればワンチャン?
:よくプラべだとるいかと一緒にいるのが多いらしいね。
:期待する!
:お前らは馬刺しになれよ。まじで
番組が始まった。ファッションやら業界での交流などの話で盛り上がっていた。あいどるはあたしとすみれだけ。他は役者さんとか読モとか変わり種で女芸人さん。
「私普通の服だときつくて。胸が」
グラドルさんがそんなことを口にする。そこから話がわりと際どくなっていった。
「芸能界って狭いですよね!私の彼氏の元カノ今隣にいます!!」
読モさんがそう言うと隣の背の高いファッションモデルさんが苦笑いする。
「彼氏って業界内だときついんですよね。私もあの芸人さんと付き合ってたんですけど……」
女芸人さんが話に乗っかってきた。嫌な流れだ。
「けど?」
「楽屋で元カノと元カノと元々カノと元セフレさんと一緒になってマジで気まずかった!」
「やばっ!!?うそぉ!!ありえなーい!!はは!」
「でね。元カノさんがぼそっと言ったんです。ゾウさん元気ですか?」
会場が爆笑に包まれる。すみれも笑っていた。あたしはそれを聞いて感情が隠しきれなくなった。視聴者には見えないモニターに映る自分の顔がすごく真っ青だということに気がついた。
「彼氏ってどうやって見つけるんですか?」
すみれが話に乗っていった。おいばかやめろと言いそうになった。
「共演とかで連絡先交換してとかで普通だよ」
「そうなんですか!そういうのが付き合うきっかけになるんだーへぇー」
「彼氏なんてアイドルなら簡単に作れるでしょ?」
「うーん。恋愛ってそもそもどうやって始まるんですか?わたしそういう経験なくてわかんないんですよね。いつかは彼氏できるのかな?」
:すみれはるいかの友達!
:すみれ愛してる!
:すみれのグラビア保存してる俺勝ち確定
:すみれで抜いた精子たちは無駄じゃなかった!(`・ω・´)ゞ
「簡単にできるよ!今度合コン連れてこうか?」
「合コンですか?!ひぇ!リア充だ!」
「たのしーよ!じゃあ後でLINE交換しよ!」
「だめ。交換しちゃダメ」
すみれが返事をする前にあたしの口からすごく冷たい声が出た。
「え?あーアイドルさんなら仕方ないかな?」
「ていうかありえない」
:るいかがなんかキレてない?
:すみれ護るため?
:おっなんか面白くなってきた!
わたしはただトークしていただけつもりだった。まあこれくらいならセーフかなと思って会話はしてた。アイドルだし合コンはさすがに行く気ないけど、それは向こうだってわかってることだと思ってた。だからるいかちゃんがガチなトーンでツッコミ入れてきたのに本当に驚いた。
「ありえないよ。ほんとない」
「いやこれくらい普通だよ」
相手の読モさんがそう言った。まあ普通だと思う。わたしだってアイドルにならなきゃもしかしたら今頃合コンの一つや二つくらいは行ってたかもしれないし。
「ないから。ていうかなんでエッチとかできるの?ありえないんだけど。ないよね。まじでありえないんだけど」
「ええ?え?」
「ほんとさ。面白半分に付き合うとかまじで意味不明だよね。それでエッチとかするんでしょ?それでなんかマウント取ってくるの何?それしたことがなんか偉いの?ウザいんだけど?」
るいかちゃんがなんかヒートアップしてる。はっと思った。この間あった女の人のせいだと。あの人はなぜかエッチした自慢を殴りながらしてくる異常者だったけど。それを真に受けてるいかちゃんはガチ凹みしていた。
「しかもそれで簡単に別れるとかないよね?なに元カレとか今カノとか?一人でいいでしょ。なんで満足できないの?エゴ膨らませすぎじゃない?恋愛って感情を交換し合うんだよ?相手を傷つける行為だよね?なのにうまくいかなきゃすぐに新しい男に行くとか?気持ち悪い」
「るいかちゃん!ちょっと!」
「黙っててよ!すみれ!簡単に付き合う風潮とかほんと良くないと思うな!!好きな人に昔の相手がいたとかほんとないでしょ!!きもちわるい!ほんとうにきもちわるい!!」
ルイカちゃんは何に文句を言っているんだろう?ここにいる誰かじゃないことだけはわかった。
「で、でも恋愛は楽しいよ」
「楽しいから?!楽しいなら人傷つけてもいいの!?なに?!それ?!なに?!それなにさ?!ビッチ共が!処女で何が悪い!男咥え込んだらえらいの!?は!何度も誰かに抱かれても!いろんな人とうまくいかなかっただけの女でしょう!!汚いのよ!!ちんこ入ったお股なんて見せつけるな!!鬱陶しいのよぉ!!みんなあたしのことをビッチ呼ばわりしてるくせに!!あたしは誰とも!誰とも出来やしないのよ!!処女だってことを馬鹿にするな!!薄汚いビッチ共が!!発情していることを誇るな!!ちんこなめた口であたしの名を呼ぶな!ちんこ舐めた口であたしを馬鹿にするな!!ちんこ触った手であたしに触れるな!!触れるなぁ!!」
どうすればいいのこれ?!だけどこのまま喋らせたらまずい。あたしはすぐにるいかちゃんを抱きしめて口を塞ぐ。
「わたしは!二次元の男子大好きです!!だからゾウさんすごく見たいです!でもなんでモザイクかけてるんですか!!二次元のちんぽにモザイクかけるの反対!!みなさん!好きな二次元男子について語りましょう!!」
みんなおろおろしてる。これ放送事故だよ!!
「わたしはガンダムseedのアスラン・ザラが好きです!!!皆さんも好きなキャラいますよね?!ね?!」
「え?あはい!ガンダムならシャアが好きです!」
「ギレンが好きかな」
「シャリア・ブルいいね」
「「「わかるぅ」」」
話がシャリア・ブルになった!あたしはこの隙にるいかちゃんを画面の外に連れ出す。るいかちゃんはボロボロ涙を流していた。
「ふぇーん。なんであたしは処女なのぉ!あの布団はあたしのものなのにぃ!」
「何言ってるのかぜんぜんわかんないよ!でもプロなんだからくだらないことで怒るのはやめてよ!!番組こわしちゃだめでしょ!!」
るいかちゃんは口を引き結んでぷるぷる震えていた。こんな姿になるなんて。プロデューサーさんがやってきた。
「うーん。このまま外れてください」
「はい。わかりました」
「でもすみれさんは戻ってください。ネットの方が炎上してるんですけど、すみれさんへの好感度は高いので」
「あ、はい。わかりました。るいかちゃん!反省してよね!!じゃあそこで見ててね!わたしは最後まで頑張るから!」
わたしは番組に戻ってきた。話には何とかついていけた。そして生放送はなんとか無事に終わった。
:これは炎上ですわね(・ω・)
:るいかが真の処女童貞厨だったのは草
:でもなんかすっきりした(*‘ω‘ *)
:ビジネスで処女やり切ってるのかと思ってたら、ガチの闇が噴き出てきて草
:まあほら。年相応に潔癖症なのはあることじゃない?
:とりあえずすみれがMVPやな。あの3pグラビアがもっとしこれるぞぉ!!
:すみれのことを誤解してたよ。影の薄い地味子だと思ってた。すごく頑張れるし友達想いなんだね。……いっぱい出た。
:ここが結局ユニコーンの牧場で安心したよ
万和さんに初めて注意を喰らった。
「だけどむしろ今までが出来過ぎてただけだったのね。まあこれからは生放送はやめましょう」
「すみません」
「いいわよ別に。むしろあの炎上でファンがまた増えたわ。お金になれば文句ないわよ」
「万和さん。恋愛って普通のことなんですよね?」
「あなたの望んだ答えではないけど、現代ではありふれたものよ。だけど本来は誰かを傷つける生々しい行為。だからアイドルが必要なのよ。理想の恋愛を語れる女神。あなたにはそれになれる素質があるし、結果を出している。誇りなさい。今日はもう休みなさい。明日から頑張ればいい」
「はい。ありがとうございます。失礼します」
あたしは家に帰った。ベットに入ってジョゼの写真を見る。あたしとジョゼが一緒に映っている写真。これは恋愛じゃないんだろうか?これを見ながら想像する。弄る。だけど裸の火光さんが目の前に出てきて、ジョゼの上に跨る。それがどんどん遠くになっていく。あたしは一人くちゅくちゅだった。




