第24話 一人、踊る
男の自信というものは稼いだ金で決まるのだということを強く体感する。モニターに表示されるサーバーのログには課金されていくのが秒単位で表示されている。そして積み重なったものが口座に反映されていく。すでに税金を払っても老後まで心配のない額が残高に表示されている。それを見ながら僕はデスクチェアに深く背を預ける。
「本当にすごいわ。あなたを誇りに思う」
火光さんが瞳を潤ませて僕の頭を後ろから撫でる。肩を抱く手の暖かさに安らぎと、申し訳ないが興奮を覚えていた。まあ僕のアレは役に立たないけど。
「もう寝ようか」
「……そうね。でも」
僕は杖を取って部屋を出ようとした。ベットルームに行こうと思ったのだ。
「この部屋にも布団はあるじゃない」
僕の部屋の隅には丸まった布団がある。けども体がこうなってからは使っていない。床に寝るのは今の僕には辛い。起き上がるのが大変だから。火光さんは干してくれてるけど、はっきり言って無駄だとは思っていた。
「ベットじゃないと眠りにくいよ。それにまだ眠剤飲んでない」
最近は活力があるのかどっちかというと覚醒傾向だった。モニターの口座残高やユーザー数、課金のログを見るたびに興奮していた。
「眠剤はいらないわ。今日は寝なくていいの」
僕は首を傾げた。火光さんはパジャマを脱ぎだす。白い肌に黒い下着が映える。最近はそう言うことにもチャレンジする気はなかった。どうせできないのだから。
「あなたはもう昔のあなたじゃないの」
「何を言ってるの?」
「あなたには力があるの。人を傷つけられる力が宿ってる。女の子一人くらい軽く支配できるくらいの……」
そう言って火光さんはブラの中から錠剤のシートを取り出した。シートにはバルデナフィル20と書いてあった。それを一錠彼女は口に含み、僕に深くキスしてきた。
「んんっ?!」
「んっぷはぁ」
絡んだ舌からその薬が僕の口に送り込まれた。吐き出そうとしたけど、そのまま口を舌で押されて、薬を飲みこんでしまった。
「ちょっと!何を飲ませたの!!」
「わたしに傷をつかるための魔法の薬」
「何を言って?」
火光さんは艶やかな笑みを浮かべながら僕から杖を奪い、引っ張る。火光さんは丸まった布団を蹴っ飛ばして伸ばして、そして布団に僕と火光さんは倒れ込んだ。
「好きにして」
「いや。でも僕にはできないのは知ってるだろ」
「できるよ。だってもうあなたは強い人だから。女の子が生意気してきたら、力でわからせられる男なの」
火光さんは僕の耳を口に含んで息を吹きかける。そしてひたすらに舐め倒してくる。こそばゆいのに気持ちよくて。なによりもそれは。
「刻んで傷を。わたしに忘れられない痕を残して」
「無理だよ」
「できるよ。もうわかってるんじゃない?」
おかしい。血の巡りを感じた。あれ?え?うそ。
「ね。ここにあなたに生意気な女がいるよ。わたしを。わたしを」
僕は火光さんと体を入れ替える。彼女の腕を取って布団に押し付ける。逃げられないように。
「あぁ……」
「止まらないから」
「うん!止まらないでぇ!」
僕は彼女の唇を奪う。そして。
今日のライブは大成功だった。万和グループ全体の定期公演だったけども、あたしとすみれにはソロシーンが与えられた。アイドルとしていまあたしは成功のステップに限りなく乗っかった。それを実感できた。
「今日のライブほんとうによかったね!!」
着替え終わって帰るために廊下をすみれと二人で歩いていく。
「うん。やっとうまくいった実感が持てたよ」
「ありがとうねるいかちゃん!あなたのおかげだよ!」
すみれはあたしに抱き着いて、きゃきゃ喜んでいる。なにか不思議な達成感があった。もしかしたら部活の試合に勝ったりしたときのような淡い気持ちに似ているのかもしれない。まあ部活とかやったことないけど。
「今日も素敵なビッチっぷりだったわね。いいお尻の振り方だったわ」
だけどそんな気持ちのいい瞬間を邪魔する人が出た。火光さんだった。でもこの間とは違う。余裕のある笑みを浮かべている。
「またあなたなの?!警備の人呼ぶよ!!」
すみれは警戒している。だけど火光さんはなにも動じた様子はない。なんだろう。もともと顔もスタイルもいい人だけど。今日は一段と綺麗に見える。なんだろう。
「お知らせがあるの」
「なに?」
「わたし。処女じゃなくなった」
一瞬何を言っているのかわからなかった。この人の処女なんてどうでもいい。だけど。だけどぉ。うそ!
「あの緑色の瞳……わたしだけを見ていたの」
あたしはかっとなった。自然に火光さんの顔を引っ叩こうとした。だけどそれは軽く躱される。それどころかカウンターでお腹を殴られた。この間に比べたら全然痛くはない。手加減されている。だけどあたしはよろめいて動揺が止まらなかった。体が震える。足ががくがくとする。
「本当に大きくなるのよね。それが体の中に入ってくる。怖さも気がついたら甘い痛みに変わってた。手を掴まれて動けなくされて、体を好き勝手に滅茶苦茶にされた。ああ。なのにとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもぉ!」
「いやぁ!!」
「気持ちよかった!!最高ねぇセックスは!」
「うるさい!!」
あたしは震えるからだを押さえて火光さんに殴りかかる。だけど両手を構えた彼女にあたしの拳は全く届かない。軽くいなされて、横腹にフックを貰い、ローキックで姿勢を崩された。
「堪らないわねぇその顔!!」
「あなた何をしたの!?」
また殴りかかるがそれも構えた火光さんには届かない。みぞおちに一発パンチを喰らって、肩に手刀を落とされる。
「やめてよぉ!!」
すみれがあたしたちの間に入って止めようとしてきた。だけどすみれは狙いがずれたあたしのパンチをお腹に喰らい、さらには火光さんの蹴りを太ももに喰らった。それで彼女は壁に座り込んでしまった。
「はは!大したアイドル様ね!」
「なにが!?」
「リモートで彼をたたせても、抱かれるわけないでしょ!!」
今度はワンツーを肩と鎖骨に喰らった。手加減はされてる。あとも残らないくらいの痛みしかない。だけどそれよりはずっと心がいたい。
「そこで一人でくちゅくちゅ慰めてろ!!」
内股にケリを入れられる。それで膝をついた。
「一方通行の自己満足!!本当は迎えに来てほしいんでしょ!!そばにヤれる女がいるのに行くわきゃねぇわよ!!」
あたしは耳を塞ぐ。聞きたくない。
「ちがう!ぜったいにちがう!ジョゼは貴女のことなんか抱かないの!!」
「女の魅力は顔や体や声じゃない!!男をたたせる意思よ!!」
そして最後に頬を張られた。
「わたしを見なさい」
火光さんはスカートのすそを摘まみだす。
「いや!」
「わたしを見ろ!!」
怒鳴られるのが怖い。そして見たくない。見たくないのに!
「見てよ!ほら!ここに入ったの彼が入ってくれたのよぉ!!」
スカートを上げて、あたしにパンツを見せつけてくる。女だからそこには何もない。何もないのに、そこにジョゼがいた?
「うはは!あーははっはははは!ひぃいいいーはははは!!」
「頭おかしいのこの子?!」
すみれはドン引きしている。だけどあたしはそれ以上に打ちのめされていた。
「捧げたのは彼の部屋のあの布団なの」
「あぁあああああああああああああああああ!!」
「やっぱり知ってた!知ってたのねぇ!!あはは!!」
あたしは壁にもたれかかって目も塞いだ。もう何も見たくない、聞きたくない。
「彼はもう女を傷つけられる男よ。あなたには何もできない。せいぜいこれからも一人寂しく彼以外の男に腰を振ってなさいな。ふふふ。はは!!」
火光さんは満足したのか去っていった。あたしは万和さんが来るまでそこでずっと一人蹲っていることしか出来なかった。




