第19話 見られてる
舞台が終わり、火光さんとカフェに来た。彼女は楽し気にずっと喋ってた。
「リアがほんと解釈通りですごかった!それに殺陣とか!女の子がやるとなんかふにゃふにゃしがちなのに凛としてしゅっとずば!って感じが本当にすごかった」
「……うん。そうだね」
「でね。原作でも最近は妖艶に見せてるんだけど、今回の舞台は序盤の話だったのにそれをガンガン入れてて!あんな色気出せる人なんて初めてみたよ!すごい役者さんだね」
「……そうだね」
信じられなかった。リアというキャラクターを演じていたのは紫吹さんだった。どうしてそこにいたのか。全然わからない。僕はひどく混乱していた。
「キャスト名も公開されたみたい。るいかさんだって。アイドルグループの人かあすごいねぇ。アイドルのお芝居って言っちゃ悪いけど大根棒読みじゃない。なのにあんなにハマってくるなんて信じられない」
「信じられないよね」
視界が揺れてる。舞台の間ずっと息を止めてたんじゃないだろうか。紫吹さんをずっと見ていた。一度だけ一度だけ目が合った。何が起きてるんだ。舞台であんな風に輝けるような人じゃなかった。綺麗だった。だけどそれが僕の記憶を鮮明に呼び覚ます。
「そろそろ家に帰ろうか」
「うん?そうね」
僕は立ち上がった。その時うまく杖を操れずに転んでしまった。火光さんが受け止めてくれた。思わず強く抱き着いしまう。
「どうしたの?」
「ごめん」
「そんなことないよ。いいよ。ぎゅっとして」
女の子を恐れて、別の女の子の胸に埋まる自分はいったいなんなんだろうか。何かが壊れた。それだけはわかるんだ。
お芝居初日が終わった。あたしはぽぅっとしてた。
「素晴らしい芝居に御座った。まさかあれほどまでに高まるとは」
「本当に素敵でした!!リアが本物になった!ああ、すごかったですよ!!」
監督と原作者がすごく褒めてくれた。だけどその言葉も右から左だ。
「なにか良いきっかけがあったのでござる?」
「見られてくれた」
「観客のことで候?」
「だからすごかった。……きもち、よかった」
すぐに帰りたい。部屋に閉じこもりたい。いっぱいいっぱい体をまさぐりたい。だって。だって。ああ。見られてくれた。あたしはすぐに家に帰った。部屋に閉じこもり、妄想の中で彼と戯れた。
万和さんがデスクの上に座って足を組んでいる。
「さざんかは一人でも稼げるけど、いいの?」
「……かまいません」
サザンカさんが頷いた。
「じゃあいいわ。るいか、すみれ、さざんかの三人でユニットを組んでもらうわ。デビュー曲も用意しておくわね」
「さざんかさんが猿喰さんと繋がりあります。そこから男性アイドル番組のゲストもぎ取れそうです」
あたしはそう言う。実際は猿喰に命令を出したのだが、視聴率の高い番組に出してくれるとのことだ。
「もう営業の準備してるのね。まあちゃんと報告してるならいいわ。行ってきなさい」
「はーい★かしこまりりり♡」
あたしは瞳の前でピースする。これから仕事が増えるだろう。また彼の目に留まる可能性が高まる。ああ。見て欲しい。いっぱいいいっぱいいぱぱいいいい見て。
揺れるあたしを。
火光さんとテレビを見ていた。
「つまんないわね。あら?ジュニオール役の猿喰さんだ」
チャンネル送り中にこの間の舞台に出ていた人を見つけた。それで彼女はチャンネルを止めた。
「はい!では次の問題!ローマの名を冠しながら、実際の公用語はギリシャ語だった帝国の名前は?ヒントはこちら!」
猿喰さんはふりっぷにビ○○○帝国と書いてあった。
「ビって始まってるじゃん!!ローマどこ行ったの!!」
アイドルっぽい女性がツッコミを入れた。ガヤの笑い声が響く。そしてぴんぽーんという音が響いた。
「はい!るいかちゃん!お答えをどうぞ!」
そしてカメラが映した。アイドルの衣装に身を包む、紫吹さんの姿を。髪の毛の色は金髪じゃなくて黒くなっていた。だけどあの時の舞台と同じだ。僕にはすぐに分かった。
「ビッチ帝国!!」
ぶぶー。間抜けな音が響くが演者たちは笑っている。
「ビザンツでしょ。丸が一個足りないわ」
火光さんは冷静に突っ込んでいるけども、それを僕は受け止める気にもなれなかった。
「でもこの人リアだわ!すごい美人さん!でも頭は空っぽかあ。まあ空の方が役とか演じやすいのかもね」
火光さんは紫吹さんに一度しか会ってない。だから気づいていないんだ。手が震える。息が荒くなっていく。
「ううぅ!!」
猛烈な恐怖感が体を震わせる。フラッシュバックだ。
「どうしたの?!大丈夫?!」
火光さんが傍によって僕を撫でてくれた。だけどそれだけじゃ。それだけじゃ駄目なんだ。僕は火光さんに思い切り抱き着く。
「きゃ!大丈夫?!」
「許して……」
「大丈夫。いいよ。大丈夫。大丈夫だからね」
怖いんだ。どうしようもなく怖い。目の前にいないのに、目の前に見える。そのズレた感じが恐怖をより搔き立てる。僕たちはそのままソファに横になる。火光さんは僕を撫で続けてくれた。僕は怖くて怖くて泣き続けた。




