第18話 そして幕が上がる
好きな作品が2.5次元になったことが発表されて火光さんが喜んでいた。
「日本刀を持ったブレザーの女の子が妖怪をばっさばっさと退治していく痛快ファンタジーなの!でね!ヒーローはじつは閻魔大王の王子様で!」
「ネタバレしちゃってるよ」
「あら。でも面白いから!」
「じゃあ見に行こうか」
「うん!でも不思議なんだ」
「なにが?」
「主人公のリアのキャストが非公開なの」
「そういうのってよくあるの?」
「普通あり得ない。ヒーローは猿喰さんとか大々的にアピールしてるんだよ。でもあれかな?女の子が女主人公のキャストにすごく冷たいからそのためかも」
「そうなの?」
「うん。アニメとかはそうでもないんだけど、解釈違いみたいなのとかヒーローとの絡みでやっぱり妬みとか出たりするから」
なかなか女の子の世界も大変らしい。まあお芝居を観るのは初めてだ。楽しみにしておこう。
2.5次元の仕事が来た。万和さんがねじ込んだらしい。
「リアちゃんの解釈はわたしぉのものよ!ルイカなら最高のリアになれる!!」
解釈とはいったい?とりあえず疑問を持ったまま、あたしは打ち合わせに行った。
「演出は拙者に御座る」
「監督じゃなくて?」
「演劇では監督を演出と呼ぶのでござるよ。キャストをねじ込まれて現場で飛んでやろうと思っていたでござるが、るいか殿ならむしろ望むところであるぞよ」
いちおう歓迎されているらしい。そして台本が配られて原作者さんとか監督さんから色々説明が入った。それらをノートや台本に書き込むのでいっぱいいっぱいだった。台本には台詞しかない。どう動くとか感情がこうとか書いてない。国語の問題より難しい。
「よろしくねルイカちゃん!俺は猿喰!」
「よろしくお願いします」
休み時間にヒーローのジュニオール役の猿喰さんに話しかけられた。イケメンだった。けどジョゼほど綺麗な顔はしていない。
「硬いねぇ。もっとリラックスリラックス!はは!」
「そうですね」
あたしにはこの人に興味がないので対応は適当だった。それがよくなかったんだろうなと反省はしてる。
「なに?お高く留まってるの?」
「別にそんな」
隙を見せちゃいけないと思うから隙ができる。
「クラスメイト自殺に追い込んだんでしょ?知ってるよ」
それを聞いた瞬間、自分でも体が冷たくなるのを感じた。同時に。そう同時にだ。
「黙って欲しかったらさあ。それなりの態度とかあるんじゃない?サザンカちゃんとかと仲悪いって聞くし。年上は敬わなきゃダメじゃない?」
あの人か。ああ、まったく。
「困ります。やめてください。お願いします。誰にも言わないでください!」
猿喰は笑った。よく似てる。あいつらと同じ笑み。人を踏みにじっても何も考えられない人の笑みだ。視界が揺れる。グラグラ揺れる。
「じゃあさ。それなりの誠意を見せてよ。じゃなきゃ証拠を週刊誌に売っちゃうからね」
「どうすればいいんですか。お願いします。秘密だけは!」
「俺たちって。恋愛関係を演じるわけじゃん。リアリティ欲しくない?」
「それって……」
「まあ仲よくしようぜ!舞台でもプライベートでもね」
そう言って猿喰は部屋に戻っていった。揺れる。ふらふら揺れる。揺れて揺れて。
「いいでおじゃるよ!殺陣が完璧でござる!!」
監督があたしの殺陣を褒めてくれた。だけど揺れる。
「リアの非日常感!地に足がついてないような不安定感!すごい舞台になるでござるよ!」
「すばらしいわ!アイドルさんが主演って聞いて不安だったけどこれなら任せられます!最高です!」
原作者さんも褒めてくれた。あの日の音が残響になって弾けて飛んで地面はグニャグニャで吸う空気がとげとげしてて視界の端にあの笑みがあって揺れる。
「今日。部屋に行きます」
「お!わかってんじゃん!」
「これは稽古なんです。だから。だから」
「わかってるわかってるって。俺も稽古に集中しちゃうからさ!まあ俺うまいから期待しててよ。ははは!」
そうだよ。揺れればいい。揺れる瞬間が来たんだ。全部全部。握った模造刀を見詰める。刃紋が揺れる。
「あなたが揺れなよ」
私は上機嫌だった。猿喰がルイカを黙らせたって連絡をくれた。部屋に行って思い切りサービスしてやった。二人でベットでゴロゴロしてた。
「あいつどうだった?マグロ?きゃはは!」
「……揺れてた」
「なにそれ?おっぱい?」
るいかが猿喰にヤラれたことにぞくぞくする。出来れば動画とか見たいくらい。
「ハメ撮りとかないの?」
「……ない。ないに決まってる!」
「なによそんなに。見たかったけどなぁ」
そんなときだ。部屋にピンポーンと呼び鈴が鳴った。
「知り合い呼んだの?複数プレイとかあご疲れるからやなんだけど」
そう言うが猿喰は私を無視してベットを出て玄関の方に行った。
「え?」
そして猿喰が連れてきた奴を見て私の視界が揺れた。
「あは♥こんばんわー☆」
ルイカがそこにいた。制服風の衣装をまとっている。この間の定期公演の時の服装だ。わざとらしく瞳の前でピースしている。
「どういうこと?」
「こういうこと★」
そう言ってルイカは私をスマホで撮りだした。そして画面を操作してスマホをしまう。
「何撮ってんの?!」
「アイドルの秘密のヌードでーす☆みんなにはないしょだぞ♡」
ウインクかましてくるのが本当にウザい。
「猿喰!どういうこと!誑し込まれたの?!」
「違う!違うんだ!俺だって被害者なんだ!」
「おさるさーん♡ゾウさんばら撒かれたくなかったらお口にチャックだぞ★」
そう言いながらるいかはポケットから何かを取り出して猿喰の胸に当てた。
「うがああああ!!」
悲鳴を上げて猿喰が倒れた。スタンガン?!
「あんたなにやったの?!なにしたの?!」
「うーん?お猿さんに躾をしただけだよ♡」
「そうでなくて!!」
「何って。あたしの邪魔するから揺れてもらっただけ。無駄なのよ。あたしの過去で脅しはそもそもできない。あんたたちはあたしよりも馬鹿だっただけ」
「あんなことしでかしたんでしょ!なら週刊誌に言ってやるけど!!」
「それ出来ないんだよ。第六十一条 家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。あたしはその条件に合致する可能性が極めて高いの。まだ公訴はされてない。必死に止めてる状態かな。曖昧な状態なの。だけどこの法律に触れる可能性がある以上、週刊誌はあたしの過去を絶対に扱えないの。腐った法律だよね。悪い奴は野放しなの」
ルイカは能面のような、影も光も感じさせない顔でそういう。
「そこの猿は部屋にあたしを連れ込んだ時点で勝ったと思ったんだね。馬鹿なやつ。堂々と脱ぎ始めたからこれで痛めつけてやった。そんでもって裸の写真いっぱい撮って、ふふ。お尻の穴にキュウリ差したりした芸実作品とか撮ってクラウドに上げておいたんだ」
理解できない。目の前にいるのはなんだ?普通の、いいや、女の子がそんなことできるの?
「揺れた。いっぱい揺れた。だから踏み外せた。ありがとう。もっと時間をかける気だったけど、これでやっとあなたを道具にできる」
るいかは私に近づいてくる。わたしは一生懸命離れた。だけどすぐに壁際まで追い込まれた。
「さざんかさん。あなたにはあたしが作る新しいアイドルユニットのケツ持ちをやってくれ」
「そんなこと!」
「やれっていったでしょ!!怒鳴られるよ!!」
「ひっ!!」
わたしは頭を押さえてしゃがみこむ。
「そこのお猿さんは事務所の力をあたしにくれよ」
「わかった!わかったからもう痛いのはやめて!!」
猿喰もそうなんだ。この女の闇に喰い殺されてる。わたしたちは負けた。いいや。最初から食われることが決まってた。勝負にすらなっていなかったんだ。揺れる。視界がルイカでいっぱいになって揺れてわたしは意識を手放した。
お芝居の日がやってきた。初日のプレミアム席。火光さんの引きの強さがすごい。
「すごいなぁファングッズにもリアがない」
「このポスターも背中だけだね」
役者さんたちが各々かっこいいポーズ取ってる中で主人公だけが背中だけ。右手に刀を持っているのが印象的だ。だけど。だけどこの背中に身に覚えがあると感じるのはなぜだろう。そして僕たちは席につき、お芝居は始まった。




