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嘘告白されてみんなの前でバラされたので、僕は屋上から飛びたった  作者: 万和彁了


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第15話 憧れ

 最近ベースを弾いていなかった。僕は地下室のDTMで音楽を作りながら昔を思い出していた。


「ベース弾かないの?」


 キーボードを弾きながら火光さんが言う。


「もう弾けないよ」


「そんなことないわ」


 そう言って火光さんはベースを一つ持ってくる。


「いっしょならどう?」


「いっしょ?」


「ええ。私が手伝う。だから」


 火光さんが僕の背後に回る。そして僕の握力のない右手に手を添える。暖かい。そして一緒に弦を弾く。音は弱い。昔のような力強さはもう感じられない。


「ね。できるでしょ」


「そうだね」


「だから頑張ってみましょう。いっしょに」


 ふたりでベースを弾く。弱弱しくても、それはちゃんと音になっていた。
















 MVの撮影の役者に抜擢された。なんでもMVの監督さんからの指名らしい。万和さんは喜んでいた。


「やって欲しい役はギターを手に入れてバンドを組むという夢を叶える少女でござるよ」


 変な喋り方の監督さんにそう言われた。ギターは高そうなブランド品だった。だけど。


「ギター……。あの。いいですか?」


「なんでおじゃる?」


「ベースじゃ駄目ですか?」


「ベース?で候?」


「はい」


 すこし監督さんが考え込む。そしてすぐに傍に居た誰かを呼んだ。


「ベースも扱っていましたよね?ギターの宣伝も兼ねているのはわかりますが、ブランド広告ができればいいのであればベースでも構いませんよね?」


 普通に喋っていた。さっきの喋り方は一体……。


「はい。うちはベースも扱っています。そうですね。わかりました。ベースを提供しますよ。正直ギターよりベースの認知度を上げてくれるならこっちとしても願ったりかなったりです」


 そしてすぐにベースがやってきた。それをあたしはスリングで肩にかける。そして親指で弦を叩く。


「ほう。すでにスラップ弾きに通じて御座るか……素晴らしき哉」


 だから喋り方……。


「では撮りまくるでおじゃるよ!!!」


 撮影は丸一日かかった。学校ではボッチの女の子がMVの曲を弾いているバンドを駅前で目にして、自分もベースを始めるというストーリーだった。あたしは必死に演技した。ベースを持つと近くに感じる。それが見ている人に伝わればいいと思った。















 僕はボッチでした。趣味と言えば動画配信やVtuberの配信を見ることくらい。なにもすることがない人生だったんです。ですがたまたまVtuberさんが紹介したMVを見たんです。そこであのるいかちゃんが必死にベースを練習するMVを見て憧れたんです。演技だってことはわかってます。だけど嘘に見えなかったんです。ドラマや映画を見てもわざとらしい学芸会みたいなお芝居をする人ばかりじゃないですか。若い人なんて特に。事務所の力が強い日本の悪いところですよね。だから邦画って乗れなかったんですけど、違った。るいかちゃんは本物だった。だから僕はすぐにベースを楽器屋で買いました。そして動画やネットサーフィンをやめてひたすらベースの練習をし続けました。スラップって難しいんですよ。でもね。出来たときに涙が出ました。やっと人生に到達点みたいな何かを覚えたんです。あとはひたすらに誰かに聞いてもらいたくて自分も表現者になったんです。そして気がついたら立派なアーティスト。そう言う人、僕の世代のベーシストには多いんです。黄金世代の誕生は神の悪戯なんかじゃないんです。誰かの必死な姿にただ憧れて追いかける。それだけなんですよ。



(のちのグラミー賞受賞ソロベーシストのインタビューより抜粋)





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