第五章第58話 二回戦が終わりました
パコーン!
ドン!
パコーン!
コンラートの猛攻が続くが、ヴィクトリアはギリギリのところで躱している。しかし徐々にヴィクトリアに疲労の色が見え始めてきた。
「そろそろ!」
パコーン!
「息が上がってきたみたいだね!」
パコーン!
コンラートは余裕のある表情でボールをヴィクトリアに向かって打ちこむ。
「くっ……」
ヴィクトリアはそれを体をひねって躱した。しかしボールは背後で跳ね返り、再びヴィクトリアを目掛けて飛んでくる。
それを予測していたヴィクトリアはそちらへと視線を向け、回避しようとしたちょうどそのときだった。
ボコン!
突然ヴィクトリアの軸足を支える地面が小さくへこんだ。ヴィクトリアはバランスを大きく崩し、そこへテニスボールが飛んでくる。
「うっ!?」
ガキーン!
ヴィクトリアは不完全な体勢ながらもなんとか剣でボールを弾いた。だが衝撃が強かったのか、そのまま仰向けに倒れてしまう。
一方、高々と上がったボールの落下点にはコンラートが回り込んでおり……。
「もらった!」
強烈なスマッシュが放たれる。
「くっ」
ヴィクトリアは地面を転がってなんとそれを避けた。ヴィクトリアのいた場所には小さなクレーターができている。
そしてボールは止まらず、その先に生やされた岩の柱によって跳ね返った。だがその軌道は先ほどまでとは違い、ヴィクトリアのいる場所から数メートル離れた場所をゆっくりと弧を描いて飛んでいく。
それを見たヴィクトリアは瞬時に立ち上がり、左手を突き出した。
一方のコンラートはボールに追いつこうとステップを踏む。そしてバックハンドを振り抜こうと動作に入ったその瞬間、コンラートの顔面に拳大の水球が直撃した。
「ふがっ!?」
コンラートの放ったボールは明後日の方向に飛んでいき、その隙にヴィクトリアは一気に間合いを詰めた。
そしてコンラートの喉元に剣を突きつける。
「く……ま、参った……」
「勝者! ヴィクトリア・コドルツィ君!」
ヴィクトリアは剣を鞘に納め、一礼するのだった。
◆◇◆
「まあ! 勝ちましたわ! すっかり防戦一方だったのに」
「はい。良かったです」
「ローザのお友達、強いんですのね」
「えへへ。毎日たくさん練習していますから」
一昨年はお義姉様の護衛騎士の人に手も足も出ない感じでしたけど、きっと今ならいい勝負できるんじゃないでしょうか?
「彼女、卒業後の進路は決まっていて?」
「はい! マレスティカ公爵家の騎士になりたいって言ってくれていて、たまにあたしの護衛もしてくれるんですよ!」
「そう……それは頼もしいわね」
カーチャさんはニコニコしています。
「はい!」
「それとわたくし、あのテニスに興味がありますわ」
「えっ!? えっと……テニス部は……」
あたしは慌ててパンフレットを確認します。
「あ……ごめんなさい。テニス部の公開試合は終わっちゃってます」
「なら仕方ないわね。テニス部の訪問は来年、入学したときの楽しみに取っておきますわ」
カーチャさんはそう言って楽しそうに微笑むのでした。
◆◇◆
あっという間に準々決勝です。
ヴィーシャさんの相手なんですけど、なんと驚いたことに総合格闘技部の選手で、しかも二年生なんです!
しかも、前の試合では実戦魔術部副部長のパヴェルさんを破っての進出なんです。
前の試合を見ていましたけど、この二年生の選手は火属性魔術の使い手でした。魔術を素早く放って相手を牽制し、その間にフットワークを駆使して近づいて打撃と寝技の両方で相手を倒すというのがスタイルみたいです。
パヴェルさんとの試合でも小さな火球をたくさん飛ばして視界を奪い、その隙をついて近づいてそのままタックル。そうして転ばせたらあっという間にパヴェルさん、締め落とされていました。
ヴィーシャさんがこの難敵をどう攻略するのか、楽しみです。
そんなことを考えていると、カーチャさんが話しかけてきます。
「ねえ、ローザ」
「なんですか?」
「魔術選手権といっても、魔術以外を使う選手が多いんですのねぇ」
「え? えっと……はい。そう……かもしれません」
「だってローザのお友達の対戦相手、どれも魔術師じゃないじゃない。一回戦から杖術、テニス、総合格闘技、どれも魔術師じゃないわ」
「え?」
一回戦の人は魔術師……あ、でもあの体格ですし、実は違ったのかもしれません。
「それにそもそも、ローザのお友達だって剣術じゃない」
「あ……えっと、はい。そうですね」
言われてみればたしかにそうでした。
「えっと、でも一昨年はそんなこと……」
「あら、じゃあ変わったってこと?」
「はい。ちゃんと魔術を撃ち合っていました」
「ふーん……あら? 一昨年ってたしか、お兄様が優勝したんですのよね?」
「え? えっと、はい。そうでしたね」
「ということは、お兄様の戦い方を見て変わったことかしら?」
「えっと……公子様はどの試合もあっという間に勝っちゃいましたから……」
「ええ、そうでしょうとも。お兄様の剣技、ものすごかったでしょう?」
「え?」
「え?」
「えっと……」
「……なんですの?」
カーチャさんが怪訝そうな表情で聞いてきます。
「それが……」
「?」
「公子様、試合が始まるとすぐに相手の選手を氷漬けにしちゃって……」
「まぁ……」
カーチャさんはくしゃりと表情を崩します。
「さすがお兄様、容赦がありませんわ」
そういってカーチャさんはクスクスと楽しそうに笑うのでした。
次回更新は通常どおり、2026/05/09 (土) 20:00 を予定しております。





