ナーロッパ歴五年『ナロウシュ様、スローライフ生活を始める』
「ほぎゃあほぎゃあほぎゃあ!」
「はーいよしよしナロウシュ、よく泣くのね」
何かがおかしい!? 吾輩はいったいどうしたのだ?
手足が短いとかそういうのを通り越して、
泣くことしかできない! まさか吾輩は、吾輩は!
「おっぱいをあげましょうね」
転生してしまったのか!?
「ばぶ、うぎゃあ、ば、ぶ、ぶ」
「はい、ナロウシュ、元気? えっ?
た、大変!? この子、息してないわ! ど、どうしたら!?
あ、あなた! あなた!!」
わ、吾輩が、死ぬ? そ、そうであった、
ナーロッパは魔境、出生後死亡率もめちゃくちゃ高く、
多産多死は常態化している、ぐ、ぐは。
魂の流れがありとあらゆる場所を経めぐって、
すべての人々の期待を背負ってナロウシュを、
なんとか生かそうと、転生を繰り返させている、
その流れを止めることはできないが言えることは、
生まれた! 時点で! チートとかして!
どうにか! しろよ!
(ん、吾輩の願いが通じたのか? なんだか暖かいというか)
はい、胎内ですね、母胎、すなわちお母さんのおなかの中ですよ、
(ん、ぐ? ぐぐぐぐぐぐ!? わ、吾輩、突然、調子が悪い! ぐわあああ!)
何ということでしょう、生まれる前に死んでしまいました!
でも、仕方がありません、
すべての子が無事生まれられるかは、
その生れ落ちる世界の衛生環境や、
母体の安定が無ければ成り立たない、
そう、必ずしもすべての子供たちが生まれおちれるわけでは無いのです。
(ん、わがはい、なんだろう、まるで魚みたい、ちっちゃい、
そうかわがはい、まだ受精後一か月ってところなんだな、
なんだか意識もままならないところで生きてるって感じで、
正直、この女の意識を乗っ取れたほうが、
転生としては何倍も効率よかった気がするけど、
どうなんだろう? わがはい、まあ、いいか、
このまま無事、生まれることが出来れば、それでいいでしゅ)
女はおもむろに何か薬を飲み込んだ。
(なんだろう? その薬って、あっそっかぁ、
赤ちゃんの栄養に必要な葉酸とかを経口摂取して、
って、なんだ、わがはい、わがはいの命の灯が!?
消える、消えてしまう! そんな、わがはいが、
わがはい、また死ぬのか!? 死んでしまうの?
そんな、そんなことって許されるわけない!
やめろ! やめるんだ! 子宮よ吾輩を代謝するな!
吾輩は無事に生まれてスローライフをおくるんだ!
やめろぉおおおおおおおお!!!!)
かわいそうにナロウシュ様、
堕胎薬によってしんでしまわれた。
すくすくとお腹の中で成長して、
前の世界の知識を生かしてチートしようとしたけど、
よく考えたら、生まれられる場所を、
そんなに簡単に選べるものでも無いのですよね、
やっぱり初手から死ぬ運命を背負ってしまっていると、
どんな場所に転生しても、
何百たびも繰り返し悲惨な目にあってしまうようです。
しかも回避不能の理不尽がやってくるという具合です。
そんな状態を生きることになってしまった人のことを、
果たして、思い描く人がいるでしょうか?
我々は楽天的になってはいないだろうか?
そういうことで、
わたしたちはナロウシュ様のことを、
見守りながらも、
いつも世界の理不尽側から、
彼が自分の夢を成就できないさまを眺めることになります。
(スローライフを、吾輩にスローライフを与えてくれ!)




