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64 真夜中の密議


 夜中、城に埃まみれになった貴族の子弟が転がり込んできた。

 内々に竜の守役に任命されていた、シリル・ヨハンソンだ。

 王であるリジルは侍従長によって叩き起こされ、準備もそこそこに謁見の間に顔を出した。

 侍従長には王に対する敬意が足りない。

 そんなことを考えていられたのは謁見の間の小さな扉を潜るまでだ。


「では、サンジェルスの手で我が弟ジェラルドが攫われたと申すか?」


 険しい顔で膝をついているのは、そのジェラルドの手で難を逃れたというまだ若い騎士見習いだ。

 顔や服に泥をつけ、必死に歯を食いしばるその姿はとても嘘をついているようには見えない。

 王は黙り込み、頭の中で少年の語る事象を整理した。

 彼は弟に、決してことを荒立てないようにと伝言を託されていたのだ。


(相変わらず、自分のことは後回しか)


 どこまでも職務に、そして己に忠実な弟に、王は苦い思いを抱いた。

 いつも苦労をかけ、我慢ばかりをさせている。

 王とて彼なりに弟を愛しているから、その弟には幸せになってもらいたいと願っているのに―――。

 しかし国を守るという大義の前には、その感情のままに行動することなどできないのだ。


「よく伝えてくれた……。とにかく今は休め」


 とにかくそう言って少年を労うと、王はこの件を閣僚たちと協議するため玉座を降りた。

 しかしその背に、押し殺した声が投げかけられる。


「王国は―――陛下は本当に団長を見捨てるんですか?」


「無礼だぞ! 身分を弁えろ」


 侍従長がぴしゃりと鞭のように怒鳴りつける。

 王は足を止め、振り返った。


「私とて、できることならそうしたくはないさ」


 王の本音を、少年はどう思っただろうか?

 彼はその反応を見ぬまま、足早に謁見の間を去っていった。



  ***



 ジェラルドを再び捕らえた一行は、シリルが姿を消したと知ると慌てて出立の準備をし始めた。

 もとより事態を想定してあったのか、その準備は驚くほど速い。


「全く面倒なことをしてくれたもんだ」


 一味の内ジェラルドの見張りについた男が、忌まわし気に小突いてくる。

 さして痛みはないが、とても王弟に対する態度ではない。

 しかしジェラルドはそれを気にするでもなく、むしろその男の態度に安堵していた。


(よかった。シリルは無事逃げ延びてくれたようだ)


 シリルがどこかで捕まって処分されていれば、急いで王都を出る必要なんてないはずだ。

 つまり彼らが苛立って出立の準備をしているということは、シリルが無事彼らから逃げ延びたということを意味する。

 ジェラルドの脳裏に、不安そうな少年の顔が。

 そして次の瞬間、その顔によく似たシャーロットの顔が思い出される。

 シリルからこの話を聞けば、心優しいシャーロットのことだ。必ず心を痛めるに違いない。

 ラクスに向かって穏やかにほほ笑む、その笑顔を守りたいと思うのに、なかなかままならないことだらけでジェラルドはすっかり嫌気がさしていた。


「あなたのおかげで帰国が早まりました」


 いつものように薄い笑みを張り付けた、エリアスの表情は読めなかった。

 もとより、こんな強硬な手段に出るなど考えられなかったような相手だ。

 ジェラルドは努めて冷静に、相手を見返した。


「考え直す気にはならないか? 王弟を攫うなど国際問題になるぞ」


 ジェラルドの忠告を、エリアスは鼻で笑った。


「国際問題大いに結構。さすればサンジェルスは大手を振ってファーヴニルを併合することができる」


 食えない男だと思いつつ、ジェラルドは押し黙った。

 エリアスの言葉が冗談でないことは、誰よりもジェラルドがよくわかっている。

 それに彼は、ラクスの情報までも手にしているのだ。

 このことでファーヴニルが迂闊に手を出せば、サンジェルスからは大量の軍隊が送り込まれることになるだろう。

 エリアスはジェラルドから離れ、部隊のリーダーらしき男と話し合いを始めた。

 そうして日の出を前に、ジェラルドを連れた一行はサンジェルスへ向けて旅立ったのだった。

 

久々の更新なのに短めすいません

前の更新から一か月以上たっていて愕然としました

そして新連載などにうつつを抜かしていてすいません

亀速度ではありますが、竜の子は思い入れがある作品なので

ちゃんと完結させたい所存です

これからもよろしくおねがいいたします

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