62 ひとり言
シャーロットと話した後、アーサーはすっかり黙り込んでしまった。
なにかを深く考え込んでいる様子なので、きっとシャーロットには及びもつかないような国の事情があるのかもしれない。
しかしそこは敏いアーサーのこと。すぐ妹の心配そうな視線に気づき、己の態度をごまかすように咳払いをした。
「まあ、シリルも腹を空かせたらその内帰って来るさ。それよりもシャーリー。久しぶりに街に行って疲れたんじゃないか? 今日は俺が夕食を用意するから、お前は休んだらいい」
「そんな! 私平気よ」
とっさに言い返すと、近づいてきたアーサーがシャーロットの頭を撫でた。その顔には柔らかい笑みが浮かんでいる。先ほどまでの様子が嘘のようだ。
「いつも頑張ってるんだ。たまに早く休んだって、誰も咎めやしないさ。それとも、俺の料理の腕がそんなに心配かい?」
アーサーがなんでも器用にこなしてしまうことは、長年一緒に暮らしてきたシャーロットもよく分かっていた。
ラクスとの生活は自分がしっかりしなければと気を張っていたので、兄妹が一緒なのはこんなにも心強いものかと少し驚く。
「ありがとう。じゃあそうさせてもらおうかな」
シャーロットは床に置き去りのバスケットを抱えなおすと、ラクスにじゃれ付かれながら寝泊まりしている小屋へと戻っていった。
そしてその背中を見送ったアーサーからは、先ほどまでの柔らかい雰囲気は抜け落ちていた。
それも仕方のないことだろう。
シリルが姿を消したからなのか、それともジェラルドの婚約話を聞いたからなのか、シャーロットの顔色はひどいものだった。
アーサーは弟よりもむしろ、妹の方が心配になったくらいだ。
彼女がジェラルドに淡い恋心を抱いていることに、兄は気が付いていた。
しかし相手は王族。
ラクスのことがなければ、直接言葉を交わすことすらなかったような相手だ。
幸いにというか恋愛経験の乏しいシャーロットが、自分の気持ちには気づいているかは微妙なところだった。
どうかこのまま、自覚しないでいてほしい。
アーサーはそう願っていた。
成就しない恋を、後生大事に抱えて生きるのは不毛だ。
他の誰よりも、アーサーにはそれがよく分かっていた。
アーサーは外に出る。空には満天の星が瞬いていた。
「どうしてこうも、うまくいかないもんかね」
遠くでミミズクの鳴き声がする。
暗い横顔からは彼らしからぬせつなげな色が滲んでいた。
「結婚が決まったら、祝福しようと決めてたのに」
まるで迷子になった子供のように、アーサーは呟いた。
いつも余裕があって、未亡人達と浮名を流す彼からは考えられないような態度である。
彼はその首元から、普段は隠しているペンダントを取り出した。
トップは貝を削った白いカメオ。
掘られているのは、若い少女の横顔だ。
いつも肌身離さず身に着けているのか、その表面は削れ細工が潰れてしまっている。
「今はとても、喜べそうにないな……」
アーサーのペンダントを額に押し当て、しばらくその場に立ち尽くしていた。




