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竜の子を産んだら離縁されたので森で隠居することにしました  作者: 柏てん


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 シリルに置き去りにされたシャーロットは、一人であちこちで歩くわけにもいかず、最低限の用事だけ済ませて森に戻るという選択をした。

 以前の彼女ならば気にせず市場を覗いただろうが、今はそれが躊躇われた。

 離婚した夫の家族に拉致されて以来、外を出歩くのはどうしても腰が引けてしまう。

 国王からもう心配ないというお墨付きは得ているが、信頼できる護衛がいないとなると事情が変わってくる。

 森に入るとすぐに、シャーロットの帰宅を察知したのかラクスが出迎えに来た。

 シャーロットを見て嬉しそうにする息子を見て、ほっと心が安らぐ。どうやら思っていた以上に、気を張っていたようだ。


「ただいま。ラクス」


 呼びかけると、小さな竜は空中に浮かんだまま撫でてとねだるように頭を擦り付けてきた。

 吸い寄せられるように小さな頭に手を這わせると、ひんやりとした慣れた手触りに思わず笑みがこぼれる。

 シャーロットは地面に荷物を入れてきたバスケットを置くと、嬉しそうにしているラクスの体を抱きしめた。

 人とは違う不思議な存在だが、どんな時でもシャーロットにとってラクスはかわいい息子に他ならない。

 気のすむまで息子の肌に頬を擦り付けてから、シャーロットはバスケットを持ち直し、アーサーの待つ森の家へと向かった。

 ナイフを手になにやら小物づくりに奮闘していたらしいアーサーは、早々に帰宅したシャーロットを不思議そうに出迎えた。


「おかえり。 ずいぶん早かったね。シリルはどうしたんだい?」


 二人で出かけたのに、一人で戻ったのだから彼が疑問に思うのも当然だろう。

 シャーロットは思わず苦笑いをした。シリルがいなくなったことを話せば、どうしていなくなったのかと問われることは避けられない。

 薬屋で耳にしたジェラルド結婚の報。それに激昂して止める間もなく走り去ってしまった弟。

 わかっていたことだが、それらを説明するのはどうしても気が重い。

 シャーロットの機微を敏感に感じ取ったのか、一緒に帰宅したラクスは気遣わしげにシャーロットの顔を覗き込む。


「大丈夫よ」


 鼻を擦り寄せると、まるで笑うようにはしゃぐラクスが可愛かった。


「実は街である噂を聞いて、シリルはそれを確かめに行ったみたいなの」


「噂? あいつは護衛任務を子供のお遣いと勘違いしてるのか?」


 アーサーは心底あきれたとでも言いたげに天を仰いだ。まるで役者のように大仰な動きだったので、シャーロットは思わず苦笑してしまった。


「その噂というのがね、ジェラルド様の結婚話だったから驚いたみたい」


「団長が?」


 アーサーは驚いた後、何かを考えこむように顎を撫でた。


「なるほど。急な呼び出しはそのためだったのか。ただの噂だとは思うが、きな臭いな」


 不思議なことに、彼はどうやらジェラルドの結婚話を好ましくないと感じているようだった。シリルもそうだが、この反応は予想外だ。


「そんなに大変なことなの? その、おめでたいことよね?」


 シャーロットにとって結婚は苦い思い出だが、それでもラクスと出会うことができた。そもそも一般的に王族の結婚は、国を挙げた慶事だろう。

 個人的な感傷がなければ、シャーロットだってこの話を素直に祝ったはずだ。


「これが団長の望んだ結婚であればな」


「違うの?」


 シャーロットの問いに、アーサーは肩をすくめる。そして独り言のように小さくつぶやいた。


「自覚がないのか……いや」


 淡いブルーの瞳が、悲しげに細められる。シャーロットはひどく落ち着かない気持ちになった。まるで心の奥底まで覗かれているような気分だ。


「それで、お相手はどこのご令嬢なんだ? さぞいい家のお嬢さんなんだろうな」


「お隣のマルグリット女王陛下ですって。確か、すごくお若い方よね?」


 世事に疎いシャーロットは、むしろどんな相手なのか尋ねるつもりでそう口にした。社交界と縁がなかったシャーロットは、高貴な人々に関する知識が一般的な貴族よりもかなり劣っている自覚がある。

 ところが返ってきたのは、思わぬ反応だった。

 目の前で切り出した木を椅子代わりにしていたアーサーは、立ち上がろうとして態勢を崩し、そのまま床に尻もちをついたのだ。


「ギャア?」


 話の邪魔をしないようおとなしくしていたラクスも、不思議そうにアーサーの頭上を飛んでいた。

 更に驚いたのは、アーサーがすぐには立ち上がらず呆然と黙り込んでしまったことだ。

 唖然としていたシャーロットだったが、アーサーが手にしていたナイフで指を切っているのに気づき、猛然と動き出す。


「指を切ってるわ! 早く手当てを」


 焦るシャーロットとは裏腹に、アーサーは呆然と黙り込んだままだった。

 まるで魂が抜けたようになったアーサーの指に包帯を巻きながら、シャーロットは不吉な予感をひしひしと感じていた。




 

  

 

 

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