第8話「快進撃」
勝てる。
一度そう思えるようになると、不思議なものだった。
◆
三戦目。
相手は大型の《キジン》。
重い。
硬い。
そして、一撃がでかい。
『潰す!』
巨大な戦槌が振り下ろされる。
以前のアキトなら、肩、腰、重心から軌道を予測し、先に避けていた。
でも今は違う。
「まだ」
動かない。
戦槌が加速する。
「まだ」
距離が詰まる。
――ここ。
アキトが横へ踏み出す。
《凪》がその動きをなぞった。
ズドォン!
戦槌が地面を叩く。
衝撃が足元を走った。
だが、そこに《凪》はいない。
すでに相手の横。
「遅い」
『なっ――』
一閃。
キィン!
《角》が飛んだ。
◆
『勝負あり! 勝者――アキト!』
二勝一敗。
◆
四戦目。
相手は槍。
長い間合い。
正面から近づけば、アキトの刀より先に届く。
『入れると思うなよ!』
鋭い突き。
アキトは下がる。
もう一度。
下がる。
さらに。
『どうした! 逃げてるだけか!』
「いや」
見ていた。
相手。
自分。
距離。
そして。
背後の壁。
あと三メートル。
相手が踏み込む。
下がる。
あと二メートル。
もう一度。
あと一メートル。
『終わりだ!』
槍が伸びた。
「うん」
アキトは笑った。
「そっちはね」
『――?』
大きく横へ踏み出す。
《凪》が槍の軸線から外れた。
相手が追おうとする。
だが、深く踏み込みすぎていた。
長い槍。
伸びきった腕。
前へ流れた重心。
アキトは、もう懐にいる。
『しまっ――』
一閃。
角が落ちた。
◆
三勝一敗。
◆
五戦目。
『新人アキト! 現在二連勝!』
実況の声が響く。
「……新人アキト」
アキトは小さく呟いた。
悪くない。
『対するは高速戦を得意とする――』
相手が走り出した。
速い。
だが。
テツとは違う。
動きに筋道がある。
なら。
読める。
踏み込み。
重心。
進路。
「左」
アキトが動く。
《凪》も左へ。
相手が来る。
予測通り。
かわす。
追う。
相手が切り返す。
「次、右」
――当たる。
アキトは笑った。
未来を読む。
今を見る。
どちらか一つじゃない。
読めるなら読む。
読めないなら待つ。
その時、その場所で。
使える方を選べばいい。
「こっち」
『なっ!?』
相手が進路を変えた先。
そこに《凪》がいる。
刀。
受けられた。
なら、次。
相手が下がる。
追う。
右へ。
読める。
「そこ」
踏み込む。
相手が逃げる。
だが。
遅い。
刀が走った。
キィィン――!
角が宙を舞う。
◆
『勝負あり!』
『勝者――アキト!』
歓声が上がる。
『三連勝! デビュー戦で黒星を喫した新人が、その後まさかの三連勝です!』
「…………」
アキトは呼吸を整えながら、会場を見渡した。
前より。
明らかに歓声が大きい。
『アキトー!』
「…………?」
今。
誰か。
俺の名前を呼んだ?
『アキト!』
また。
今度は、はっきり聞こえた。
「…………」
アキトは思わず笑った。
◆
「最近、楽しそうだね」
試合後。
アンが端末を見ながら言った。
「そう?」
「そう」
「三連勝だからかな」
「自分で言う?」
「事実だろ?」
「うわ」
「何」
「なんか腹立つ」
「なんでだよ」
アンが端末をアキトへ向けた。
「ほら」
「何?」
「記事」
画面には《凪》の姿。
その横に、大きな文字。
――新人アキト、三連勝。
――デビュー戦の敗北から快進撃。
――異例の新人現る?
「異例だって」
「嬉しそう」
「別に」
「口元」
「何?」
「めちゃくちゃ上がってる」
アキトは慌てて口元を触った。
アンが吹き出す。
「嘘」
「お前!」
「でも、嬉しいんでしょ?」
「…………」
もう一度、記事を見る。
三連勝。
通算五戦。
四勝一敗。
勝率八割。
「まあ」
悪くない。
いや。
かなりいい。
「思ったより」
「うん?」
「プロでもやれるかも」
「おお」
「養成施設とは全然違うと思ってたけど」
「違うでしょ」
「違うけどさ」
アキトは戦績を眺める。
「なんか、分かってきた」
「何が?」
「勝ち方」
予測。
観察。
位置。
距離。
地形。
テツに負けたことで、使えるものが増えた。
そして。
それで勝っている。
「俺、結構強いのかも」
アンの目が細くなった。
「……調子乗ってない?」
「乗ってない」
「今の発言で?」
「結果出してるし」
「うわぁ」
「なんだよ」
「五戦しかしてない新人が言っております」
「四勝してる新人な」
「めんどくさ!」
アキトは笑った。
その時。
端末が鳴る。
新しい通知。
対戦申請。
「また来た」
「最近増えたね」
「まあね」
アキトは一覧を流す。
知らない名前。
知っている名前。
自分より戦績のいい選手もいる。
以前なら、一人ずつ映像を確認した。
勝てそうか。
相性はどうか。
慎重に考えた。
でも今は――。
「…………」
指が止まった。
《一騎》ランキング。
その上位。
四つの名前だけが、他とは別の表示になっている。
「アン」
「ん?」
「四強ってさ」
アンの顔が上がった。
「……何?」
「どれくらい強いの?」
「待って」
「まだ何も言ってない」
「その顔は駄目」
「どんな顔だよ」
「ろくでもないこと考えてる顔」
「失礼だな」
アキトはランキングを見る。
その中の一人。
――ソウジ。
試合映像を開く。
構える。
踏み込む。
突く。
「速っ」
確かに速い。
もう一度。
構える。
踏み込む。
突く。
「…………」
もう一度。
同じ。
突き。
「やること、分かりやすくない?」
「は?」
「突きだろ?」
「いやいやいや」
「テツより全然読みやすそう」
「比較対象がおかしい!」
アキトは映像を止めた。
四強。
《一騎》の頂点にいる四人。
その一人に勝てたら。
本当に。
自分がどれくらい強いのか分かる。
「…………」
アキトは笑った。
「ちょっと戦ってみたい」
「やめなさい」
「まだ申請してない」
「『まだ』って言った!」
アンの声を聞きながら、アキトはもう一度ソウジの映像を見る。
構える。
踏み込む。
突く。
何度見ても。
やることは同じだった。
「……これなら」
読める。
そう思った。




