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『負けず嫌いを極めたらいつの間にか世界を救ってた件 ―俺と29人の仲間の物語―』  作者: まろじろう
第一章「自分の戦い方」

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第7話「好きにやれ」

『ヒャッハァァァ!』


 試合開始と同時に、テツが飛び出した。


「来た」


 軽量型キジンが地面を蹴り、一気に距離を詰めてくる。


 右手に斧。


 左手にも斧。


 右肩が沈んだ。


 右か。


 ――いや。


 アキトは動かなかった。


『おお?』


 テツの右足が地面を蹴る。


 右――ではない。


 左へ跳んだ。


 そのまま身体を回転させる。


 左の斧。


 投げる?


 アキトはまだ動かない。


『どうした新人!』


 テツが斧を振りかぶる。


 距離。


 六メートル。


 五。


 四。


 ――ここ。


 アキトが半歩だけ下がる。


 その動きを《凪》が正確になぞった。


 ブンッ!


 斧が《凪》の目の前を通過する。


『おっ!?』


 空振り。


 テツの身体が流れた。


「今」


 アキトが床を蹴る。


 《凪》が踏み込む。


 刀。


 横薙ぎ。


『うおっ!』


 テツが仰け反った。


 切っ先が胸部装甲を掠める。


 浅い。


 だが。


 当たった。


「…………」


 アキトは自分でも少し驚いた。


 前の試合では、一度もまともに捉えられなかった。


『ヒャッハハハ!』


 テツが笑う。


『やるじゃねえか!』


「まだだ」


 アキトは刀を構え直す。


 《凪》も同じ構えを取った。


     ◆


 テツが走る。


 右。


 左。


 急停止。


 また右。


 アキトは追わない。


 見る。


 テツの未来じゃない。


 今。


 距離。


 位置。


 向き。


 そして。


 自分がどこにいるか。


『オラァ!』


 斧が飛んだ。


 以前なら、投げると読んだ瞬間に避けていた。


 でも今は違う。


 飛んでくる斧を見る。


 軌道。


 速度。


 半歩。


 それだけ。


 斧が《凪》の横を抜ける。


「……避けられる」


 次。


 テツが斧を追うように飛び込んでくる。


 蹴り。


 アキトが刀を立てる。


 《凪》も刀の腹で受けた。


 ガンッ!


 衝撃。


 アキト自身の腕にも負荷が伝わる。


 足を引き、踏ん張る。


 《凪》が後方へ滑った。


 だが。


 倒れない。


『あ?』


 インカメラの中で、テツが首を傾げた。


『お前、なんか変わったな』


「そう?」


『前はもっと――』


 テツが右へ跳ぶ。


『俺様のこと見てたぞ!』


「見てるよ」


 テツが左へ切り返す。


「でも」


 アキトは動かない。


「お前だけじゃない」


『あぁ?』


 テツが踏み込んだ。


 アキトは横へ。


 今度は大きく避ける。


 そこには十分な空間がある。


「俺も」


 壁までの距離。


「距離も」


 テツとの位置。


「周りも」


 全部。


「見てる」


 テツの斧が空を切った。


 アキトが刀を振る。


 ガンッ!


 テツの腕を打った。


『うおっ!?』


 手斧が宙を舞い、地面を転がる。


 一本。


『ヒャッハァ!』


 テツは気にしない。


 残った斧を逆手に持ち替えた。


「やっぱそうなるよな」


『何がだ!』


「別に」


 分からない。


 次に何をするのか。


 でも。


 もう怖くない。


     ◆


『だったらよォ!』


 テツが叫ぶ。


 残った斧を――。


 投げ捨てた。


 ガランッ。


「…………」


『これならどうだァ!』


 素手。


 アキトは思わず笑った。


「ほんとに捨てるんだ」


『予想外だろォ!?』


「うん」


『ヒャッハァ!』


「でも」


 テツが走る。


「どうでもいい」


『あぁ!?』


 右。


 左。


 フェイント。


 踏み込み。


 拳。


 アキトはまだ動かない。


 拳が迫る。


 ――ここ。


 首を振る。


 《凪》の頭部すれすれを拳が通過する。


 テツの左脚が動いた。


 蹴り。


 一歩下がる。


 空振り。


 そのままテツが回転。


 裏拳。


 しゃがむ。


『オラオラオラァ!』


 拳。


 蹴り。


 肘。


 体当たり。


 何でも来る。


 だから。


 何も決めつけない。


 来たものを見る。


 必要なだけ動く。


 一歩。


 半歩。


 身体を捻る。


 刀で受ける。


 下がる。


 アキトの身体の動きを、《凪》がそのまま戦場で再現する。


 テツの攻撃が――。


 一発も当たらない。


『なんでだァ!?』


「知らないよ」


『読んでんのか!?』


「読んでない」


『じゃあなんで避けられんだよ!』


 アキトは答えなかった。


 代わりに。


 一歩。


 前へ出る。


 《凪》も前へ。


『!』


 初めて。


 テツが下がった。


「…………」


 見えた。


 今。


 テツとの距離。


 三メートル。


 右には落とした斧。


 左には壁。


 後ろはフィールド端。


 そして自分は正面。


 刀の間合い。


「そこ」


『あ?』


 アキトが右へ動く。


 テツが反応する。


 左へ。


 でも。


 そっちは壁。


『チッ!』


 テツが前へ出る。


 そこには。


 《凪》。


「そうなるよな」


『――!』


 アキトが刀を振る。


 テツが後ろへ跳ぶ。


 だが。


 後ろにはもう余裕がない。


「…………」


 アキトは気づいた。


 俺。


 今。


 テツの動きを読んだのか?


 違う。


 テツが動ける場所を――。


 減らした。


「これ……」


 ほんの一瞬。


 何かが見えた気がした。


『よそ見してんじゃねえ!』


「うおっ!」


 テツが突っ込んでくる。


 危ない。


 それでもアキトは笑った。


「やっぱお前、めちゃくちゃだな!」


『褒めんな!』


「褒めてない!」


『だったら倒してみろォ!』


「言われなくても!」


 二機が激突する。


     ◆


 拳。


 かわす。


 刀。


 テツが避ける。


 蹴り。


 受ける。


 アキトはもう、先に動かない。


 テツが動く。


 それを見る。


 必要な分だけ動く。


 だから。


 姿勢が崩れない。


 余計な距離を取らない。


 次の一手が残る。


『クソッ!』


 テツの動きが大きくなった。


 焦っている。


 ――いや。


 これも決めつけるな。


 今を見る。


 テツ。


 前傾。


 距離二メートル。


 右腕が伸びている。


 左脚に荷重。


 壁まで一メートル。


 自分。


 正面。


 刀。


 届く。


「――今!」


 アキトが床を蹴った。


 《凪》が踏み込む。


 テツも動く。


 右?


 左?


 知らない。


 逃げた方を見る。


 テツは右へ。


 アキトは――。


 そこから追う。


『なっ――』


 インカメラ。


 初めて、テツの顔から笑みが消えた。


 アキトが刀を振る。


 《凪》の刃が走る。


 テツが身体を捻る。


 さらに逃げる。


 でも。


 アキトは追う。


 今。


 今。


 今。


 未来なんて。


 いらない。


「そこだ!」


 一閃。


 キィィィン――!


 何かが宙を舞った。


 地面に落ちる。


 転がる。


 そして。


 止まった。


 《角》。


『…………』


 インカメラの中。


 テツが自分の頭へ手をやった。


『マジかよ』


 アキトも動きを止めた。


「…………」


 勝った?


『勝負あり!』


 会場に判定が響く。


『勝者――アキト!』


「…………」


 数秒。


 実感が追いつかなかった。


 プロになって。


 初戦で負けて。


 何が悪かったのかも分からなくて。


 何度も。


 何度も。


 映像を見返して。


 ようやく見つけた。


 自分なりの答え。


 それが。


 通用した。


「勝った……」


 拳を握る。


「勝った!」


『ヒャッハハハハ!』


「!?」


 テツの笑い声。


『やられたァ!』


「なんで負けた方がそんな楽しそうなんだよ!」


『面白かったからに決まってんだろ!』


「…………」


 やっぱり。


 こいつは分からない。


『新人!』


「何?」


 インカメラの中で、テツがニヤッと笑う。


『次は俺が勝つからな!』


「…………」


 アキトも笑った。


「嫌だよ」


『あぁ!?』


「次も俺が勝つ」


『ヒャッハァ! 言うじゃねえか!』


 通信が切れた。


 アキトは大きく息を吐いた。


 張り詰めていた全身から、一気に力が抜ける。


 膝に手をつく。


「はぁ……はぁ……」


 汗が顎を伝い、床へ落ちた。


 勝った。


 プロ初勝利。


 でも。


 それ以上に嬉しいことがあった。


 通用した。


 自分で考えた答えが。


 自分の身体で試した戦い方が。


 プロの世界でも。


 アキトはゆっくり身体を起こした。


 正面のモニターには、《角》を失ったテツの《キジン》が映っている。


「……いける」


 小さく呟いた。


 プロ二戦目。

 

 一勝一敗。

 

 ようやく掴んだ、最初の一勝。

 

 そしてアキトはまだ知らない。

 

 この一勝が、自分をどこまで連れていくのかを。

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