↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『負けず嫌いを極めたらいつの間にか世界を救ってた件 ―俺と29人の仲間の物語―』  作者: まろじろう
第一章「自分の戦い方」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/17

第6話「俺の武器」

「もう一回、見せて」


 アンの声に、アキトは無言で端末を操作した。


 壁一面のモニターに、昨日の試合映像が映し出される。


 軽量型キジンが跳ねる。


 右。


 左。


 前。


 急停止。


 二本の手斧。


 蹴り。


『ヒャッハァァ! どうした新人!』


「……うるさい」


「映像に怒らないの」


 アンが笑う。


 アキトは答えず、映像を戻した。


「ここ」


 停止。


 テツの右足に重心が乗っている。


「普通なら右に来る」


「うん」


 再生。


 テツは左へ。


「…………」


 戻す。


「次」


 肩が動く。


「斧」


 再生。


 蹴り。


「次」


 右腕が上がる。


「投げる」


 再生。


 その場に斧を落とした。


「誰が武器その場に落とすんだよ」


「テツさん?」


「そういう意味じゃない」


 アンが笑う。


 アキトはモニターを睨んだ。


 二年間。


 ずっと相手を見てきた。


 肩。


 腰。


 足。


 視線。


 重心。


 動く前に出る小さな変化。


 それを拾えば、相手より先に動けた。


 だから勝てた。


 でも。


 テツだけは。


 全部、外れる。


「分かんない」


「じゃあさ」


「ん?」


 アンは画面を見たまま言った。


「予測しなきゃいいんじゃない?」


「…………は?」


「だって当たらないんでしょ?」


「簡単に言うなよ」


 アキトは思わず身を乗り出した。


「予測しなかったら、相手が動いてから対応することになる。そんなの遅――」


 言葉が止まった。


「……待て」


 アキトは映像を巻き戻した。


 再生。


 テツが動く。


 その前に。


 アキトの《凪》が動いていた。


「俺……」


 停止。


「先に動いてる」


「そうだね」


「予測したから」


 右に来る。


 だから左へ。


 斧が来る。


 だから下がる。


 相手より早く動く。


 それが正しいと思っていた。


 でも。


 予測が外れれば。


 自分から違う場所へ動いている。


「俺、自分で不利な位置に行ってる?」


 アンが首を傾げる。


「そうなの?」


「……たぶん」


 アキトは映像を最初から再生した。


 今度は。


 テツの肩を見ない。


 腰も見ない。


 画面全体を見る。


 二機の位置。


 距離。


 壁。


 障害物。


「ここなら……」


 画面を指す。


「右に来ても対応できる」


 少しずらす。


「左でも間に合う」


 別の場所。


「前なら下がれる。後ろなら追える」


「じゃあ、そこにいればいいじゃん」


「…………」


 アキトはアンを見る。


「今なんて?」


「そこにいればいいじゃん」


「…………」


 もう一度モニターを見る。


 テツが何をするか。


 分からない。


 なら。


「何をされても困らない場所にいればいい」


 口にした瞬間。


 何かがつながった。


「そうか……」


 未来を当てる必要なんてない。


 右か。


 左か。


 斧か。


 蹴りか。


 テツが何を選ぶかなんて。


 分からない。


 だったら。


「今を見ればいい」


「今?」


「距離」


 画面を指す。


「位置」


 次。


「向き」


 次。


「周りに何があるか」


 アンも画面を見る。


「相手が何するかじゃなくて?」


「うん」


「今、何ができるか?」


「……それだ」


 アキトは立ち上がった。


 もう一度。


 試合映像。


 テツではなく。


 戦場を見る。


「ここ」


 アキトが先に左へ寄っている。


 その結果。


 自分の逃げ道が減っている。


「俺が自分で選択肢を減らしてる」


 次。


 壁際。


 また先に動いている。


「これも」


 次。


「これもだ」


 予測して。


 先に動いて。


 そのたびに。


 自分の行動を一つに絞っていた。


 一方。


 テツは。


 それを見てから好きに選べる。


「逆だったんだ……」


 アキトは呟いた。


「相手の未来を読むんじゃない」


 今。


 相手がどこにいる。


 自分がどこにいる。


 どれだけ距離がある。


 そこから。


 何ができる。


「それを見ればいい」


 アンが少し笑った。


「それ、アキトの新しい武器?」


「いや」


 アキトは考える。


 予測を捨てるつもりはない。


 二年間で磨いた。


 実際、それで勝ってきた。


 でも。


 それしか使っていなかった。


「増えたんだ」


「何が?」


「選べるものが」


 予測する。


 今を見る。


 状況で使い分ける。


 それでいい。


     ◆


 アキトは端末を開いた。


 《一騎》。


 選手検索。


 テツ。


「もう?」


 アンが覗き込む。


「うん」


「昨日負けたばっかだよ?」


「だから」


 対戦申請。


 アキトは迷わず押した。


 送信。


「勝てる?」


 アンが聞く。


「分からない」


「え?」


「テツが何してくるかは、やっぱり分からない」


 アキトは笑った。


「でも、それでいい」


 ピコン。


 通知。


 【対戦申請――承諾】


「早っ」


「テツだし」


 直後。


 通信。


『ヒャッハァァァ! おかわりか新人ンン!』


「うるさい」


『いいぜぇ! また俺様が予想外ってやつを教えてやるよォ!』


 アキトはモニターを見る。


「いや」


『あ?』


「もう、お前が何するか当てない」


 一瞬。


 テツが黙った。


「好きにやれよ」


 アキトは少し笑う。


「その全部に対応する」


 数秒。


 そして。


『ヒャッハハハハ!』


 大笑い。


『最高じゃねえか!』


 通信が切れた。


 アンがアキトを見る。


「なんか、前より楽しそう」


「そう?」


「うん」


 アキトはもう一度、試合映像を見た。


 未来を読む。


 それが自分の武器だと思っていた。


 違う。


 予測も使う。


 今も見る。


 相手も。


 自分も。


 距離も。


 位置も。


 周りも。


 その時、その場所で使えるものを全部使う。


 そして。


 自分で答えを作る。


「次は負けない」


 再戦まで。


 三日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。