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『負けず嫌いを極めたらいつの間にか世界を救ってた件 ―俺と29人の仲間の物語―』  作者: まろじろう
第一章「自分の戦い方」

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第5話「分からない」

『勝負あり』


 切断された《角》が、地面を転がっていた。


 アキトのものだ。


「…………」


 何が起きた?


 ほんの少し前まで、勝てると思っていた。


 二年間の養成課程を好成績で卒業した。


 相手を見る。


 動きを読む。


 一手先へ動く。


 それで勝ってきた。


 なのに。


『ヒャッハァァァ! 新人! デビュー戦の味はどうだァ!?』


 インカメラいっぱいに、テツのモヒカンが映る。


「…………最悪だよ」


『最高じゃねえか!』


 テツは心底楽しそうだった。


「お前……」


『あ?』


「なんでそんな動きできんの?」


『なんでって?』


「右に来ると思ったら左。斧だと思ったら蹴り。挙げ句に武器まで捨てるし」


『ヒャッハハハ!』


「笑うな」


『だってよォ!』


 テツは両腕を広げた。


『面白そうだったからやっただけだ!』


「…………は?」


『考えすぎなんだよ、新人!』


 通信が切れた。


「…………」


 アキトは地面に落ちた自分の《角》を見る。


「面白そうだったからって……」


 それで。


 俺は負けたのか?


     ◆


 控室。


 アキトは一人で試合映像を見ていた。


 再生。


 テツが踏み込む。


「右」


 アキトが動く。


 テツは左へ。


 停止。


「…………」


 巻き戻す。


 再生。


「ここだろ」


 右足。


 肩。


 腰。


 全部、右へ動くように見える。


 なのに。


 左。


「なんで?」


 戻す。


 もう一度。


「右」


 左。


「…………」


 再生。


「右」


 左。


「いや、なんでだよ」


 次。


 テツが斧を構える。


「斬る」


 蹴り。


 戻す。


「斬る」


 また蹴り。


「…………」


 今度は右手を上げる。


「投げる」


 その場に落とした。


「誰が武器その場に落とすんだよ!」


 画面のテツは当然、答えない。


「…………」


 アキトは椅子にもたれた。


 分からない。


 これまでの相手なら、一度戦えば何かが見えた。


 癖。


 得意な方向。


 嫌がる距離。


 攻撃前の僅かな予備動作。


 それを拾えば、次はもっと上手く戦えた。


 でも。


「こいつ……」


 何も分からない。


     ◆


 一時間後。


 再生。


 停止。


 巻き戻す。


     ◆


 二時間後。


「……違う」


 再生。


 停止。


     ◆


 三時間後。


「なんなんだよ……」


 アキトは机に突っ伏した。


 目が痛い。


 頭も痛い。


 でも、止められない。


 負けた。


 それだけなら、まだいい。


 ここはプロの世界だ。


 自分より強い奴がいたって、おかしくない。


 でも。


「なんで負けたか分からないって……」


 気持ち悪い。


 どうしようもなく。


 気持ち悪い。


 アキトは顔を上げる。


「もう一回」


 再生。


     ◆


「まだいたのか?」


 背後から声がした。


 施設スタッフだった。


「何時だと思ってる?」


「何時です?」


「知らないで残ってたのかよ」


「今何時?」


「もう夜だ」


「マジか」


「マジだ。帰れ」


「あと一回だけ」


「駄目」


「本当に一回」


「三時間前から言ってる」


「……聞いてたんですか?」


「ずっといるからな」


 スタッフが呆れた顔をする。


「そんなに悔しいのか?」


「…………」


 アキトは少し考えた。


「悔しいです」


 もちろん。


 死ぬほど。


「でも、それより」


 モニターを見る。


「分からないのが嫌です」


「分からない?」


「なんで負けたのか」


「相手が強かった」


「それじゃ分かんない」


「新人なんだから、そんなもんだろ」


「嫌です」


 即答した。


「理由があるはずなんです」


「…………」


「俺が何か間違えた」


 だから負けた。


 なら。


 そこを見つければいい。


「見つけるまでやります」


「今日は帰れ」


「…………」


「明日やれ」


「…………」


「その顔しても駄目だ」


「まだ何も言ってない」


「言う顔してる」


「ケチ」


「聞こえてるぞ」


「聞こえるように言いました」


     ◆


 帰り道。


 アキトは歩きながら端末を見ていた。


 また試合映像。


「右……」


 左。


「…………」


 危うく通行人へぶつかりそうになり、慌てて端末を下ろす。


「すみません」


 少し歩いてから、足を止めた。


「駄目だな」


 一人で見ても、同じところしか見えない。


 肩。


 腰。


 重心。


 視線。


 全部。


 二年間で身につけた見方だ。


「…………」


 なら。


 違う見方をする人間に見せたら?


 アキトは連絡先を開いた。


 迷わず一人を選ぶ。


 アン。


 通話。


 数秒後。


『もしもし?』


「アン」


『珍しいね。アキトから電話してくるなんて』


「明日、暇?」


『急だなあ』


「ちょっと付き合ってほしい」


『何?』


「試合映像見てほしい」


『…………』


「何その間」


『デートのお誘いかと思った私が馬鹿だった』


「なんでそうなるんだよ」


『普通、幼馴染に「明日暇?」って聞かれたら少しくらい期待するでしょ』


「しないだろ」


『するよ!』


「それよりさ」


『それより!?』


 アキトは少し笑った。


「俺、今日負けた」


 電話の向こうが静かになった。


『……プロ初戦?』


「うん」


『大丈夫?』


「全然」


『そんなに?』


「なんで負けたのか、分かんない」


 アキトは夜空を見る。


「何回見ても分かんないんだよ」


『…………』


「だから、アンにも見てほしい」


『私、《戦》の選手じゃないよ?』


「知ってる」


『じゃあ役に立たないかも』


「それでいい」


『え?』


「俺と違う見方してくれれば」


 少しだけ間があった。


『……分かった』


「ありがと」


『何時?』


「朝」


『何時?』


「七時」


『早い!』


「六時でもいいけど」


『なんで早くするの!?』


「じゃあ七時」


『九時!』


「八時」


『八時半!』


「分かった」


『よし』


 通話を切る。


「…………」


 アキトはもう一度、試合映像を開いた。


 画面の中で、テツが笑っている。


「明日こそ」


 何が違うのか。


 見つける。


     ◆


 翌朝。


 アンはモニターの前へ座った。


「で」


「うん」


「これが噂のモヒカン?」


「そう」


『ヒャッハァァァ!』


「うるさっ!」


「だろ?」


「音量下げようよ」


「昨日三時間聞いた」


「よく耐えたね」


「途中から音消した」


「でしょうね」


 アンが画面へ向き直る。


 アキトも隣へ座った。


「じゃあ」


 端末を操作する。


「最初から」


 試合映像が始まった。


 しばらく。


 二人とも黙って見る。


 そして。


 アンが言った。


「…………ねえ」


「何?」


 アンは画面から目を離さないまま。


「もう一回、見せて」

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