↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『負けず嫌いを極めたらいつの間にか世界を救ってた件 ―俺と29人の仲間の物語―』  作者: まろじろう
第一章「自分の戦い方」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/16

第3話「ロボットじゃない。これは俺だ」

「操縦桿は?」


「ない」


「ペダルは?」


「ない」


「……じゃあ、どうやって動かすんです?」


 教官は当然のように答えた。


「動け」


「はい?」


     ◆


 アキトは初めて《キジン》の中にいた。


「いやいやいや」


 周囲を見回す。


「動けって言われても……」


『右手を上げろ』


 通信機から教官の声が飛んできた。


「右手?」


『早くしろ』


「はいはい」


 アキトは右腕を上げた。


 ゴォン。


「…………え?」


 視界の中で。


 巨大な右腕が持ち上がっていた。


「…………」


 自分の右腕を見る。


 上げる。


 巨大な腕も上がる。


 下げる。


 下がる。


「……マジか」


『左手』


 上げる。


 《キジン》も上げる。


『両手』


 両腕を上げる。


 《キジン》も上げる。


「おお……」


 握る。


 巨大な手が握られる。


 開く。


 巨大な手も開く。


「おおお……!」


『遊ぶな』


「いや、遊ぶでしょ! こんなの!」


『訓練だ』


「分かってますって」


 言いながら。


 もう一度、握る。


『アキト』


「はい」


 バレた。


     ◆


『身体の動きと脳波を、そのまま機体へ伝える。それがダイレクトモーションキャプチャーだ』


「俺が動けば、こいつも動く?」


『基本的にはな』


「じゃあ、昨日言ってた……」


 格納庫で教官に言われた言葉を思い出す。


 ――お前が動くんだ。


「そういう意味か」


『歩け』


「急だな!」


『右手を動かせた。次は歩行だ』


「腕と脚じゃ難易度違いません?」


『歩け』


「この人、絶対教えるの下手だろ」


『聞こえてるぞ』


「聞こえるように言いました」


『歩け』


「はいはい」


 アキトは前を見る。


 頭部のメインカメラが捉えた景色が、そのまま視界に広がっている。


 高い。


 とんでもなく高い。


 自分の目線が、二十メートル近く上にある。


「…………」


 急に怖くなった。


『どうした』


「転んだら?」


『転ぶ』


「そうじゃなくて」


『壊れない』


「俺は?」


『死なない』


「絶対?」


『おそらく』


「おそらく!?」


『歩け』


「…………」


 この教官、嫌いかもしれない。


 アキトは息を吐いた。


「よし」


 右足を前へ。


 ゴォン。


 《キジン》の右脚が持ち上がった。


「お……」


 前へ。


 ゆっくり。


 地面へ。


 ズンッ。


 格納庫が揺れた。


「おお!」


『止まるな』


「分かってます!」


 左足。


 ズンッ。


 右。


 左。


「いける」


 右。


 左。


「いけるぞ、これ!」


『調子に乗るな』


「いや、普通にいけ――」


 次の一歩。


 身体が前へ流れた。


「――え?」


 視界が傾く。


「ちょっ」


 さらに傾く。


「待って待って待って!」


『重心を戻せ!』


「どうやって!?」


『普段歩く時と同じだ!』


「普段二十メートルないから!」


 倒れる。


「うわあああああ!」


 ズドォォォォン!


「…………」


 砂埃。


 警告表示。


 メインカメラいっぱいに地面が映っていた。


『どうした』


「……心が痛いです」


『立て』


「慰めとかないんですか」


『立て』


「はい」


     ◆


 一時間後。


 ズドォォォン!


「クソッ!」


     ◆


 二時間後。


 ズンッ!


「またかよ!」


     ◆


 三時間後。


 右足。


 ズン。


 左足。


 ズン。


 右。


 左。


 止まる。


「…………」


 《キジン》は立っている。


 転んでいない。


『どうした』


「黙ってて」


『なぜだ』


「今、なんか掴みかけてる」


 アキトは右手を上げた。


 《キジン》が上げる。


 左へ一歩。


 《キジン》も動く。


 腰を落とす。


 巨体が沈む。


「…………」


 何かが違う。


 最初はずっと、《キジン》を動かそうとしていた。


 右腕を上げる。


 右脚を出す。


 重心を戻す。


 一つ一つ考えていた。


 だから遅れる。


 でも。


「違う」


『何がだ』


「俺、間違ってた」


 アキトは右手を握る。


 巨大な拳も握られる。


 でも今は。


 それが少しだけ、自分の拳に見えた。


「これ、ロボットを操縦してるんじゃない」


 右足を出す。


 ズン。


 左。


 ズン。


 歩く。


 もう、一歩ずつ考えない。


 いつものように歩く。


 《キジン》が歩く。


「俺が――」


 二十メートルの高さから、世界を見る。


「デカくなってるんだ」


 通信の向こうで。


 教官が初めて少しだけ笑った。


『ようやくスタート地点だ』


「三時間かかりましたけどね」


『遅い』


「今ちょっと褒めそうだったじゃん!」


『していない』


「絶対した!」


『次は走る』


「今日!?」


『今日だ』


「マジかよ……」


 そう言いながら。


 アキトは笑っていた。


     ◆


 走った。


 転んだ。


 立った。


 また走った。


 また転んだ。


 また立った。


「もう一回!」


『今日はここまでだ』


「まだいける!」


『明日動けなくなるぞ』


「じゃあ最後に一回だけ!」


『さっきも聞いた』


「今度が本当の最後!」


『却下だ』


「ケチ!」


 通信が切れた。


「あっ! 逃げた!」


 静かになったコックピット。


「…………」


 アキトは自分の手を見る。


 握る。


 巨大な拳が握られる。


「……面白い」


 思わず口元が緩んだ。


 二年間。


 長いと思っていた。


 でも今は。


「これ、二年で足りるか?」


 この日から。


 アキトの二年間が始まった。


 走る。


 斬る。


 避ける。


 読む。


 そして。


 自分が何に向いていて。


 何に、致命的なほど向いていないのか。


 この時のアキトは、まだ知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。