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『負けず嫌いを極めたらいつの間にか世界を救ってた件 ―俺と29人の仲間の物語―』  作者: まろじろう
第一章「自分の戦い方」

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2話「映画監督、チェスプレイヤー、それと《戦》」

『映画監督』


『チェスプレイヤー』


『《戦》パイロット』


「…………は?」


 十八歳のアキトは、目の前に並んだ三つの文字を見つめた。


 もう一度見る。


 映画監督。


 チェスプレイヤー。


 《戦》パイロット。


「なんで最後だけ急に物騒なんだよ」


『物騒ではありません』


「うわっ」


 返事が来た。


 目の前に浮かぶ女性。


 白を基調とした服。


 整った顔に、穏やかな表情。


 世界管理AI《マリア》だ。


『《戦》は正式に認可された競技です』


「知ってるよ」


 知らないわけがない。


 二十メートル級人型機動体《キジン》を操り、相手の《角》を奪う。


 世界中を熱狂させている人気競技。


 アキトだって何度も試合を見たことがある。


「でも、見るのとやるのは違うだろ」


『その通りです』


「…………」


『ですので、候補として提示しています』


「そういうことじゃない」


 アキトは頭を掻いた。


「そもそも、この三つに共通点ある?」


『あります』


「あるの?」


『映画監督』


 マリアが一つ目を示す。


『多数の要素をまとめ、一つの結果へ導く能力』


 次。


『チェスプレイヤー』


『盤面を把握し、最適な選択を積み重ねる能力』


 そして。


『《戦》パイロット』


『状況を判断し、自らの行動によって結果へ介入する能力』


「…………」


 アキトは三つを見比べた。


「同じか?」


『根幹となる適性には共通点があります』


「全然違って見えるけど」


『詳細な説明を希望しますか?』


「どれくらい?」


『推定二時間四十七分です』


「結構です」


『承知しました』


「即答すんなよ」


 こういうところが、なんとなく腹立つ。


     ◆


 十八歳になると、《マリア》は本人の能力や傾向から、いくつかの適性候補を提示する。


 強制ではない。


 選ぶのは本人だ。


 生きるために仕事を選ぶ必要がなくなったこの時代。


 人生を何に使うか。


 それだけは、人間自身が決める。


「映画監督か……」


 アキトは一つ目を見る。


 映画は好きだ。


 でも。


「俺、映画撮りたいと思ったことないんだけど」


『適性と希望は必ずしも一致しません』


「じゃあ、チェス」


 これは分かる。


 昔から盤面を読むゲームは得意だった。


 相手が何を狙っているか。


 次に何をしてくるか。


 考えるのは嫌いじゃない。


 むしろ好きだ。


「これが一番無難かな」


『選択しますか?』


「いや」


 アキトの視線が、その下へ移った。


 《戦》パイロット。


「…………」


 巨大な《キジン》同士がフィールドを駆ける姿が、頭に浮かんだ。


 刀。


 槍。


 拳。


 武器も違う。


 戦い方も違う。


 それでも狙うのは、ただ一つ。


 頭部の《角》。


 先に奪った者が勝つ。


『《戦》パイロットを選択しますか?』


「……ちょっと待って」


『はい』


「選んだら、どうなる?」


『専門育成課程へ進みます』


「期間は?」


『二年間です』


「二年か……」


『適性は成功を保証するものではありません』


「分かってる」


『敗北する可能性も――』


「マリア」


『はい』


「やる前から負けた時の話すんな」


 数秒。


『承知しました』


 アキトは三つの候補を見つめた。


 映画監督。


 チェスプレイヤー。


 《戦》パイロット。


 別に《戦》に人生を懸けてきたわけじゃない。


 幼い頃からの夢でもない。


 世界一になりたいわけでもない。


 ただ。


「……これにする」


『《戦》パイロットですか?』


「うん」


『選択理由を確認します』


「理由?」


『今後の適性分析に使用します』


「…………」


 アキトは少し考えた。


 そして。


「一番、面白そうだから」


『…………』


「何その間」


『記録しました』


「絶対なんか思っただろ」


『私はAIです』


「便利だな、それ」


 アキトは笑った。


「《戦》で」


『最終確認です』


 映画監督が消える。


 チェスプレイヤーも消える。


 残ったのは、一つ。


 《戦》パイロット。


『選択を受理しました』


 たった、それだけだった。


 世界を救う決意なんてなかった。


 大切な誰かを守るためでもない。


 人類の未来なんて、もちろん考えていない。


 ただ。


 面白そうだったから。


 十八歳のアキトは、《戦》を選んだ。


     ◆


 一週間後。


「…………デカ」


 アキトは、首が痛くなるほど上を見ていた。


 巨大な格納庫。


 その中央に、一機の人型機動体が立っている。


 二十メートル級人型機動体。


 《キジン》。


 映像では何度も見た。


 試合だって何度も見ている。


 でも。


 実物は、まるで違った。


 見上げても、まだ頭がある。


 腕一本だけで、自分の身体より遥かに大きい。


「これ……俺が動かすのか?」


 隣に立つ教官が答えた。


「違う」


「え?」


 教官は《キジン》を見上げた。


「お前が動くんだ」


「…………は?」


 アキトはもう一度、巨人を見上げた。


 この時はまだ。


 その言葉の意味を、まるで理解していなかった。

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